侍女アブビルトその4(アブビルトは買い物中1)
4・アブビルトは買い物中1
コルリとアイビスに与えられた部屋は、窓から太陽の光が良く入った。
そのおかげで、日中でもまだ肌寒いこの季節でも、そんなに厚着をしなくてすむ。
簡素な部屋にあるのは、二人分のベッドと服などをしまう棚と、部屋の中央にある4人分のテーブルセットだけだった。
窓に近いベッドには、気持ちよさそうにアイビスが寝ていた。
窓は閉まっていて、掛かっている白いカーテンは丈が短い。
だから、コルリはシーツに包まり窓の真下で、アイビスの寝ているベッドの前で膝を抱えて丸くなっていた。
「失礼します。
コルリ君、起きていますよね?」
ドアは開いていた。
ガイはアイビスが起きないように気を付けて、小さくノックをした。
「お腹、いっぱいになりましたか?」
ガイはコルリの返事を待たず、隣に腰を下ろした。
「・・・なった」
ボソリとした返事だったが、ガイには嬉しかった。
「良かったです。
コルリ君は、何が好きですか?」
「好き?」
コルリはシーツに包まったまま、ガイの方を向こうともしなかった。
そんなコルリに、ガイは気にもせずに続けた。
話をしてくれること自体が嬉しいのだ。
「はい。
僕は、朝焼けが好きなんです。
太陽が出てくるときに、東の空が紅黄色に染まるのが好きなんです」
「それって、どんな色?」
「赤からオレンジ、黄色とみるみる変わって、最後は青・・・
あっという間ですよ」
「・・・ボク、そんな色知らない」
すっと、シーツに包まれた腕が伸びた。
「こんな色のシーツがあるなんて、知らなかったよ」
白いシーツは、窓から入る太陽光を反射させて、キラキラと輝いていた。
コルリは眩しそうに目を細めて、腕を戻した。
「いつもは、どうやって寝ていたのですか?」
問いかけに一泊置いてゆっくりと答えるコルリを、ガイはあの頃を思い出しているのかと思った。
「床。
部屋の隅。
隅で寝ないと、誰かに蹴られるから。
掛けるモノなんてなかったから、あの子を抱っこしてた」
あの町の近隣の宿屋で働いていた時も、馬小屋の藁の上でアイビスと寝ていたのをガイは見ていた。
そしてここに来た初日、コルリはアイビスを抱きしめて、部屋の隅で丸くなって寝ていたとアブビルトに聞いていた。
驚いたアブビルトが、慌ててベッドの使い方を教えたと。
「あそこより、この町の方が寒いんじゃないですか?」
「・・・ここは、綺麗だよ」
「馬臭くは?」
「・・・何か、良い匂いがする。
ねぇ、なんでボクを助けてくれたの?
ボクは、仲間内では盗みは一番下手だよ。
きっと、上手く仕事は出来ないと思う」
「いいんですよ。
ここでは、今までのような生活はしなくて大丈夫ですよ。
盗むことを、仕事にしなくていいんです。
・・・なぜコルリ君は、アイビスちゃんを連れてあの町から出たんですか?」
「・・・分かんない」
コルリの視界は、ずっと眠っているアイビスが中心だった。
自分の胸の中以外で眠るアイビスを見たのは、ここに来てからだった。
「ただ、あの時、逃げろって言われて・・・
気が付いたらあの子と荷馬車に隠れてた」
それは、本心だろうとガイは思った。
「僕もそうですよ。
コルリ君に逃げろって言ったのは、君が目の前に居たからですよ」
それは、ガイにとっては当たり前のことだった。
「ボクは、ここでどうすればいいのかな?」
ガイはコルリの前に立つと、その目の前に手を差し伸べた。
視界を遮られ、思わず顔を上げたコルリの前に、優しい糸目の顔があった。
「とりあえず、外に出てみましょうか?」
「そ・・・と・・・」
小さく小さく呟き、コルリはその手を取った。