東のバカブ神その19(廃墟を歩く者)
19・廃墟を歩く者
黒い空。
太陽が届かない、暗い大地。
人の姿はなく、在るのは町の残骸だけ。
歩けば歩く程、体中に纏わり付く空気は黒く、重くなっていく。
建物だった残骸から覗く、異業のモノたち。
助けを求めるでもなく、ただただ見つめる目。
誰も、この人に手を出さない。
「そんな姿になって、恨んでいるかい?」
足を止めることなく、ただ前を見て進む。
「命があっただけ嬉しいかい?」
答えは返ってこない。
「あの頃は楽しかったと、懐かしむことも出来ないかい?
己が欲望に喰われた姿で、生きていくのかい?」
歩みが止まった。
「もう一度、アタイにつこうと思うのならおいで。
今更、どんな姿になろうが関係ないだろう?」
大気が揺れた。
おおおうううぅぅぅぅ・・・
黒い声が辺りに響き渡り、次々と異業の者が寄ってくる。
「おやおや、見かけに寄らず、忠義心があるんだねぇ。
・・・生への執着か、ただの憎悪か」
楽しげな声の傍らで、集まった異業の者たちが姿を変えていく。
「なんだっていいのさ。
あのお方と、また楽しくやろうじゃないか」
傍らで、闇が吠えた。
「あんたは、いつまでそこにいるんだい?
そこが、そんなにそこが心地いいとは思えないがねぇ。
そんなちっぽけな塊になっちまって」
少し先、風の柱に向かって話し掛ける。
「まぁ、また会うだろうよ。
そろそろいいかい?
坊や、レディーをあまり覗くでないよ」
赤い唇を形良く湾曲させて、ジ・エルフェは、自分の中に居る者を跳ね出した。