表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零地帯  作者: 三間 久士
43/137

東のバカブ神その12(回想『東のバカブ神ヘル・ステル』)

12・回想『東のバカブ神ヘル・ステル』


 風が哀しく歌う。

国中に立ち込める煙りと、解けない緊張感。

人々は疲れきり、兵たちの指揮も下がっていた。

もともと、一つの場所に長く滞在する一族ではない。

流れを無理やり止めているのだから、皆の中の「風」も濁り始めていた。

初めて作った城にはまだ不慣れだったが、その窓から眺めることには慣れてしまった。

そこからの景色は、随分と変わっていたが。


いつまでつづけるのか・・・

もとは、同じ一族だというのに・・・


そんな思いが日増しに強くなった。


「失礼します。

ヘル・ステル様」


荒々しいノックと共に、傷だらけの兵士が入ってきた。


「北の・・・

どうしたのですか、その姿は!?」


北の国の兵士は息も切れ切れに足元に膝まづき、次の句を繋げようと懸命に息を整えていた。

その体は新旧の傷に飾られ、鮮血で染められた甲冑に包み、携えている剣に殺気が残っていた。


援軍の申し入れなら、召喚獣をよこすことになっていたはず。


「申し上げます。

我が君、北のバカブ神、崩御いたしました』


目の前が暗くなった。

手足の感覚が無くなり、窓枠に身をゆだねた。


あの方が・・・

逝ってしまった・・・


「先日、悪神との戦いで勝利したものの、受けた傷が深く・・・」


バカブ神の中でも一番思慮深く、一番美しかった。


「我が国も、北方柱とともに封印いたしました」


あの美しい髪の一房にすら、触れることが敵わなかった。


「ヘル・ステル様、これを・・・」


兵士が差し出したのは、銀色に輝く水晶だった。

あの美しい髪と同じ色に輝いていた。


「我が君が命と引き変えに悪神を封印いたしました」

「我が国に封印しろと?」


この水晶を見てはいけないと分かっていた。

この水晶は・・・


「この水晶は人間の負の気持ちを糧とします。

風の国、結合の役割をもつ貴方様に・・・」


なんて役割なのだろうか。


「世界中の負の気を集めろと。

さすれば魔族もそこいらに現れるのは難しいと・・・

あの方は最後まで・・・」

「何年かに一度、我が国の僧侶が浄めに参ります」

「民は逃がしたのですか?」

「はい。

封印の地には、我が君お一人で・・・」

「そうですか・・・

分かりました。

その水晶、こちらで預かりましょう」


体制をたてなおし、兵士に手を差し延べた瞬間だった。


「ありがとうございます」


兵士はその姿を、美しい神の姿に変えた。

どこまでも白い肌、長く美しい銀色の髪、伏し目がちな瞳にヘル・ステルの姿は映ることはなく、水晶を受け取るとその姿は消えてしまった。

そして、見てしまった。

見てはいけないと分かっていたのに、水晶からの視線に、引き寄せられるかのように。


心ガ・・・

ザワツイタ・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ