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零地帯  作者: 三間 久士
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東のバカブ神その8(誘惑)

8・誘惑


 『淋シイヨウ・・・

イツモ 俺ガ 悪イノカ?

イヤ 彼奴等ガ 全部悪インダ

殺シテヤル

淋シイヨウ・・・

ナンデ イツモ 俺ナンダ

マタ 裏切ラレタ・・・

憎イ・・・

彼奴バカリ 良イ思イヲシヤガッテ・・・』


誰の声だか分からない。

それは色々な音で、性別も分からない。

色々な位置から反響していて、どこで話しているのか、何人いるのかも分からない。

呪詛の様に吐かれる言葉が、ニコラスの頭の中をグルグル回っていた。

ここは闇深く、自分の手足も見えないどころか、目が開いてるのかも分からなかった。


『可哀想ナ子』

「・・・僕?」


急に、声が一人になった。

若い女の声だ。


『コンナ町マデ 無理ヤリ連レテ来ラレタウエニ 置居テイカレタノネ』

「違う!

僕ははぐれただけで・・・」

『可哀想ナ子

旅ノ邪魔ニナッタカラッテ 捨テテイカレタノネ』

「僕は捨てられてなんかいません」

『ジャア 目ヲ開ケテゴランナサイ

貴方ヲ捨テタ二人ガ 何ヲシテイルノカ』


目を開ける?

目を・・・


ぼんやりとした視界に、クレフとアレルが見えた。

それはジャムの空き瓶を覗いているように、少し色あせ歪んでいた。


「師匠!

師匠!」


どんなに声を出しても、二人は振り向かなかった。

肩を並べて、何か話していた。


『ホラ 誰モ 貴方ノコトヲ見ナイ

貴方 捨テラレタノヨ』

「嘘だ!

師匠!」


体は動かなかった。

ただこの場に立って、二人の並んだ背中を見ながら声を出すだけだった。

指の一本も動かない。


『可哀想・・・

可哀想・・・』


また声が響き始めた。

性別も人数も分からない。

不安だけが煽られる。


『可哀想ナ子

邪魔ニナッタカラッテ 捨テナクテモイイノニネェ

可哀想・・・

可哀想・・・』

「違う・・・」

『恨メシイネェ・・・

憎イネェ・・・』

「違う・・・」


懸命に否定した。

声を出していないと、心が染められてしまう気がした。

声に出して、自分に言い聞かせた。

自分を肯定する気持ちを耳から入れないと、自我が消えてしまいそうだった。


『違ガワナイ

オ前ハ 捨テラレタ』


今までで一番強い声がした。

言葉が心にまとわりつき、身体の動きを止める。


『ネェ・・・

捨テラレルグライナラ イッソノコト・・・

殺シテシマオウカ

アンタヲ 捨テタンダ

アンタヲ 裏切ッタンダ』

「やめてやめてやめて!」

『殺ロシテ シマオウ

殺ロシテ シマオウ

貴方ノ心ガ 望ムママ・・・

アノ二人ヲ 殺ロシタッテ 誰モ貴方ヲ 責メナイヨ』

「違う!

僕はそんな事、望んでなんかいない!」

『貴方ノ母親ハ アイツニ殺ロサレタノニ・・・』

「あれは・・・」


アニスの最期の姿が脳裏に浮かんだ。

母はアレルに胸を貫かれ、その炎で焼かれた。


『貴方ノ神父様ヲ虫ケラノ様ニ張リ付ケタジャナイカ』


アレルはレオンを西の柱に、ニコラスの剣で刺し付けた。


『許セナイクセニ』

「違う!

そんな問題じゃない!」

『友達ヲ殺シタノニ・・・』

「あれは・・・」


孤児院の子ども達も、アンナもマークも、アレルに胸を貫かれて炎で焼き殺された。


「あれは・・・」

『ショウガナイ?

ソンナ事ハ無イダロウ?

助カルカモシレナカッタノダロウ?

殺サレタンダ オ前ノ友達モ』

「あれは・・・」


薬があったら、もしかしたら、助かったかもしれない・・・


『母親ノヨウニ 殺ロシテヤルンダ』

『殺ロシテシマエ

殺ロシテシマエ』

「違う違う違う違う・・・」

『違ワナイサ

コ・ロ・セ!』


声が今までで一番響いた瞬間、目の前が紅く瞬いた。




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