東のバカブ神その3(ニコラスの視た夢)
3・ニコラスの視た夢
夢を見ている
右も左も上も下も・・・
何処をみても闇。
カシカシ・・・
ポリポリ・・・
クチャクチャ・・・
微かに聞こえる音・・・
クチャクチャ・・・
何かを食べている?
キキッ・・・
動物?
猿?
クチャクチャ・・・
クチャクチャ・・・
ポリポリ・・・
カシカシ・・・
クチャクチャ・・・
クチャクチャ・・・
ポリポリ・・・
ポリポリ・・・
一ヶ所から聞こえていた音が次第に広がり、グルリと囲まれた。
キキッ・・・
カシカシ・・・
キュイ・・・
クチャクチャ・・・
これは、誰が見ているのだろう?
何も見えない・・・
そんな状態は怖いことのはずなのに、ニコラスの気持はとても落ち着いていた。
『長居はいけません』
声は後ろから唐突にかけられた。
これは夢のはず。
誰か他人の視線のはず。
そう、いつもなら、『誰か』のものだ。
それなのに・・・
『ここはどなたの世界でもありません』
振り返ると、長い黒髪に縁取りされた、小さな顔があった。
闇に浮かぶ白い顔。
小さな赤い唇で話しかけ、大きな黒い瞳にニコラスを映してした。
ニコラスは、この少女を知っていた。
『あの・・・』
『あまりここに居ると、鬼たちに捕まって食べられちゃいますよ』
『これは・・・僕の本当の夢?』
『夢です。
夢じゃないですけれど、夢です』
どっちなんだろう?
と困惑しているニコラスに、少女はニッコリと笑いかけた。
八重歯がチラリとのぞき、ニコラスは少しドキドキした。
『先日は、お兄様を通して私を見てましたね』
『あの、やっぱり・・・』
前回、ニコラスが視たこの少女は、豪華なベッドの上で眠っていた。
『今度お会いできるのは、また夢の中でしょうか?』
少女はそう言うと、ニコラスの目の前に手を出した。
そこには、小さな小さな球体が乗っていた。
『これは?』
『貴方をこの夢から現実へと、導いてくれます』
受け取った瞬間、それは音もなく弾け、ニコラスの頭上が一面の星空になった。
『すごい・・・綺麗・・・』
『あの大きく青い星を目指して歩いていけば、お兄様のもとに戻れます』
『貴女は・・・』
振り返った時には誰も居なく、あの奇妙な音だけが聞こえた。
その音に身震いをして、少女が教えてくれた星を目指して歩きだした。