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零地帯  作者: 三間 久士
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東のバカブ神その1(内偵調査)

 神話の時代、世界の東に『ヘル・ステルの渓谷』と呼ばれる場所があった。

その渓谷には消えることのない巨大な竜巻が天へ天へと伸びていた。

竜巻は第三世界を支えるバカブ神の一人、東のバカブ『ヘル・ステル』の半身であった。

他のバカブ神は己の半身である柱の下や近くに国を持っていたが、ヘル・ステルは風の民を連れ、気ままに国々を旅して回っていた。

神々の戦いの中で、ヘル・ステルは忽然と姿を消し、何者かの手によって風の柱は封印され、険しい渓谷にはいつしか人が住むようになり、集落になり、町となった。

しかし、この町はどこの国にも属さず、どんな地図にも載ることはなかった。

そしていつしか、人々はこの町を『黒い迷宮』と呼ぶようになった。




1・内偵調査


 ガイの仕事に内偵調査があった。

一番の特徴と言えば黒の糸目。

筋の通った形のいい小ぶりの鼻や、薄めの唇。

身長はあるが肉厚ではない。

髪も細くサラサラとしていて、しっぽの様にくくっても細い。

性格的にも我を強調することがないので、居るのか居ないのか、いつその場から消えても分からない存在で、内偵にはもってこいだった。

ただ稀に、少し動けばその案件自体を終わらせられる時があった。

そして、その逆も然り。


「今回は、僕の出番じゃないですよね」


ため息を漏らしつつ、裸電球の薄暗い地下倉庫で、所狭しと並べられた曰くつきの品物を見繕っていた。

人間の負の感情が臭気となって漂うこの町では、息をするように悪事を働く者にとっては何ともなかったが、そうではないガイにとっては毒を吸い込んでいるのと同じで、実際、定期的に毒消し草を摂取していた。

それでも、体の末端の痺れや目のかすみ、気管支の圧迫感等、体の異常は感じていた。


「いつもは止めますが、今回ばかりはこの町ごとアレルさんに燃やして頂きたいですね。

それにしても、よくこれだけの曰く付きの品を集めたものですね。

封印の札が張ってあっても、品物自体から禍々しい気が放たれていますね。

戻ったら、姫様に清めていただかないと」


胸元に入れた数個の品物に、ガイは胸をジリジリと焼かれている感覚を覚えて、全身から脂汗が出ていた。


「それ、何処に持っていくの?」


いつもなら周囲を警戒しているのだが、その警戒も出来ないぐらい弱っていた。

後ろからした子供の声に、ガイは出来る限りの平常心で振り返った。

汚れて擦り切れ、体より大きな服を着た少年が立っていた。


「君は、町の子だね。

どこから入って来たの?

大人に見つかったら、酷い目に合うよ?」


骨に皮が張り付いているほど細く、髪も伸び放題で、目だけが異様にギラギラしていた。


「ここから一つでも盗んでいかないと、今日のパンが貰えないんだ。

ねぇ、お兄さんも盗人なら、黙っていてくれるよね」


この町には、子どもの強盗組織が幾つもある。

見境なしに盗みに入り、他の町の商人や他の組織との交渉手段に使ったりしていた。

この子は末端なのだろう。

ついている曰くが大きければ大きい程、その品物は商談では有利になる。

しかし、手に入れるにはそれなりのリスクが伴うため、死んでしまっても構わない末端に盗ませる。

そんな子ども達は、なんとか雨風をしのげる場所で、固まって暖を取り合い眠り、その日食べるパンの為だけにリスクを冒していた。


「お兄さんが盗らない物を持っていくから。

・・・これ、いいかな?」


ガイが暴力を降る大人ではないと読んで、少年は一番近い棚の視線の高さにあった黒い水晶を手に取ろうと伸ばした。


「あ!それは!!」


少年が手にしようとしたものが、ガイが探していた物だった。

思わず上がったガイの声に驚き、少年は水晶を落としてしまった。

ガイは瞬時に反応し、周りの棚を派手な音を立てながら倒し、それをキャッチすると、胸元にしまった品物を落としてしまい、衝撃で一つが割れた。


「しまった・・・」


割れ目から黒い靄が発生し、裸電球の明かりを遮り始めた。

その靄に触れてはいけないとガイの潜在意識が警告したが、すでに体は言う事を聞かなかった。


「ひと・・・

来る・・・

逃げろ・・・」


驚いたまま動かない少年に、痺れる口で何とかそれだけを伝えると、ガイは意識を失った。




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