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零地帯  作者: 三間 久士
15/137

西のバカブ神その15(悪魔が求めるは美しき女神)

15・悪魔が求めるのは美しき女神


 城は見る影もなかった。

瓦礫の山すら築くことなく燃え尽くされ、その後には巨木が立ち、大地は白い花で覆い尽くされていた。

唯一残されたのは、城の外壁だけだった。

その外壁で、それまでの経過を影でみていたガイは、悪夢だと思っていた。


「さすが我が姫。

夢見を違えることはありませんね。

まぁ、この惨状にはため息しかでませんが」


言葉通り、ガイは深く大きなため息をつく。


「城は無くなりましたが、素敵な花畑ができましたね」

「・・・先日は随分な働き口を有難うございました。

神出鬼没のシンさん、いつからご覧になっていたのですか?」


思わず出た独り言に声が返ってきて、ガイは驚きつつもそれを隠して話を続けた。


「いえいえ、お礼には及びません。

アルバイトは、上手く抜けられたようですね。

収穫はいかがでしたか?」

「あの方を紹介してくださったのは、本当に食事のお礼ですか?

まぁ、ターゲットを探し回る時間を節約できましたので、その分、じっくりと働けました」


人の好い表情を崩さぬまま、柔らかな口調も変えることなく、そっと、ガイは裾に隠し持っている平らなクナイを握りしめた。


「レオンへの囁きも、上手くいったようですね。

城下町を戦火に呑み込ませるのではなく、どうせ要らなくなる城に戦闘準備を万端にし、レオンの下に貴方というネズミを送り込み一言囁いて誘い込む・・・

さしずめ『月の女神を食らえば、目指す完全体になれるのでは?』と言ったところでしょうか?」

「あららら、想像力が豊かですね」


ガイはシンの言葉と意味ありげな笑みに、スッとシンから距離を取った。


さて・・・見逃すわけにもいかないですよね。


表情は崩さぬまま、ガイはクナイを両手に、顔を覆うように構えた。


「そう、警戒しないでください。

貴方と似たような者ですよ。

それより、西のバカブ神の復活ですよ」


炎は消えた。

龍神も消えた。

月もあるべき姿に戻った。

今あるのは、焼け残った瓦礫を覆い隠す程に咲き乱れる、白月花と深い草花。

そして、どこまで伸びているのか分からない、一本の樹。

城があった場所に出現した巨木は、かつてレオンと名乗っていた男の変わり果てた体を抱えていた。

その胸元には、まだ幼い少年があった。


「第三世界を支える柱の一つ・・・」

「ああ、レオンの体が崩れ去ってしまいましたね。腕の一本でも残っていれば、献体として利用価値があったでしょうに。

さて、貴方の出番のようですよ。

西のバカブ神の剣を勝手に使って、あれだけ両腕がズタズタにされたのに、よくやりますね」

「だから、人間性がぶっ飛んでしまったんですね。

まぁ、これからが僕の本業ですから」


答えはなく、代わりに次の問題が現れた。

食えない態度のシンが気になりつつも、ガイは本来の仕事に戻ることにした。

今までにない雄叫びは、ようやく静寂を取り戻した空間をビリビリと揺さぶった。

明らかに正気を無くし、暴走を始めた青年の手は、まだ微動だにしないニコラスに向かって伸びた。


「お待ちなさい」


クレフが二人の間に入ると同時に結界を張ったのか、衝撃波が辺りを揺るがした。


「そこまでです!

影縫い!」


叫びながら飛び出すと、気持ちひるんだ青年の足下に、ガイは月光石から作ったクナイを投げつけ、青年の影を大地と結び着けた。

間発入れず、腰に巻いていたムチで男の腕と体をまきとり、大地に着地した。


「貴方は・・・」

「僕の主がご迷惑をおかけしました。

すぐに済みますので・・・」


雄叫びと共に、青年は自分の体をねじった。

いつも以上の力で抵抗され、ガイの足元がぐらついた。


「今日はいつになく血の気が多いですね」

「ウガァァァァァ!」


胸元から札を出そうとした瞬間、ムチが引きちぎられた。


「っわっ!」


同時に、足元のクナイの結界も外された。

青年の目的はクレフだった。

その動きはとても素早く、クレフの細い体は一呼吸で捕まえられた。


「・・・あああああああああ・・・」


ブチブチブチブチブチブチ・・・

耳障りな音は法衣を引き裂くものではなく、肉や血管を食い千切るものだった。

左の首筋と肩口を迷いなく食い千切り、口をつけ、そこからほとばしる生暖かい鮮血を味わった。

白かった法衣はみるみるうちに朱色に染まり、捕えられた体は大量出血のために大きく震え始めた。


「・・・神の・・・雷槌・・・」


空気の漏れる音の中に、微かに声が混じっていた。

そんな状態でも、クレフは自分もろとも稲妻を落とした。

周囲が白む程の稲妻を受け、さすがに一瞬の隙ができた。


「終りです!」


それを見逃さず、ガイは一気に勝負をかけた。


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