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零地帯  作者: 三間 久士
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零その6(集まりし者たち)

6・集まりし者たち


 この空間は、ニコラスにとって大切な『家』だった。

週末を向かえる前のたった数ヶ月だったが、ニコラスにとって一番密な時間を過ごした場所だった。

終末後はこの空間を拠点にして、アルジェニアを立て直す手伝いや、ジャガー病の研究をし、世界中を回った。

世界中を回り始める少し前に、ニコラスの魔法の師匠であるクレフは、神々の総てが書かれた『レダの書』をニコラスに託し、地下の書斎に特殊な結界を張り姿を消してしまった。

けれど、前世のニコラスの最期は、ここではなく西のバカブ神の隣の教会だった。

身体機能が衰え、文字を書くことも読むことも出来なくなっても、最期まで『終末』を語り継いでいた。


「姫さん、産後なんだから、無理しちゃだめだよ」


今は、あの頃よりも多くの人たちがこの空間に居た。

家の外、小さな泉の縁に大きなテーブルと、人数分の椅子がセットされ、ココットが次々と美味しそうな料理を運んで来た。


「大丈夫ですわ。

ここは一番の聖地ですし、何かあってもレオン神父が対応してくださいますもの。

タイアードも、ここならリラックスできますしね」


ココットが運んできた暖かなハーブティーの香りを楽しみながら、アルジェニアの姫であるレビアはゆったりと寛ぎ、視線を泉の方へと向けた。

そこには硬い焦げ茶の髪を短く刈り上げ、鍛え抜かれた体をもつ男と、金の瞳を持ち、ライオンの立髪のようにフワフワとしている髪を気持ち伸ばし、神官衣に身を包んだ男二人が、泉の精霊二人と何やら話しながら花をいじっていた。


「それにしても・・・」


レビアの視線が、反対側に動いた。


「ナイスガイ!

でしょう?」


そこには、この場にふさわしくない黒い装いで、もともと笑っているかの様な糸目の目尻をさらに下げた男が、優雅にお茶を飲んでいた。


「さすが中年。

見事な親父ギャグ」

「いやぁ・・・中年は酷いですよ。

気持ち的には、まだ、青年と呼んでもらいたいです。

あ、このギャグはカティ王の持ちネタですから。

ここは、乗っておいた方がいいかと思いまして」


ココットの冷たい突っ込みに、男はポリポリと頬を掻いた。


「ガイは、なんでアルジェニアに直ぐに戻ってこなかったんだ?

探すにしても、姫さんのバックアップがあった方が探しやすかったんじゃね?」


ココットはレビアの横に腰を下ろし、目の前の料理をひと摘みした。

そっと、レビアはココットの前に紙ナプキンを差し出した。


「まぁ、それも考えはしたのですが、姫様の下では仕事のついでになってしまいますから。

アルジェニアとは違って、忠誠心の低い者たちが集まっている国を渡り歩いていましたよ。

お陰で、色々と『今の』情報は取れましたし、動きやすかったですよ」

「あら~、随分と『お土産』を持って来てくださったのね」


レビアの微笑みに、ガイは肩をすくめて苦笑いした。


「遅くなりました。

お招きありがとうございます」


木々の間から金の錫杖を手に姿を表したのは、白い神官衣に身を包み、豊かな蜂蜜色の長い髪を緩やかに結い上げた女性だった。

切れ長の金の瞳が溢れ日を反射して光っていた。


「サーシャ様、お忙しい中ありがとうございます。

今日はご紹介したい方がいまして・・・」


立ち上がろうとしたレビアを、サーシャは片手で制した。


「貴女の直属ですか?

ここで、と言うことは・・・」


レビアが静かに頷くのを見て、ガイは観念して溜息をついた。


「ガイと申します。

『鳥』とでもお呼びください。

しかし、僕の真の主は・・・」

「『犬』ですわ。

ガイの主は、躾がなっていませんの。

私にも噛みつくんですのよ。

サーシャ様にも、躾のお手伝いを願いたいですわ」


立ち上がり、自己紹介するガイの言葉を、レビアが続けた。


「サーシャ・カインと申します。

創造女神の神官を努めています。

よろしく、ガイ」


握手を交わしながらも、ガイは金色の瞳から目が放せなかった。


「とても・・・

とても美しい瞳ですね」


永い年月、光と引き換えに大切な人を守ってきたこの人の瞳は、その心の清らかさが出ているのだと、再び光を得たのと引き換えに記憶は前世に置いてきたのだろうと、ガイは確信した。


「ありがとう。

レビア姫も、初めてお会いした時、そう言ってくださいました。

それと、ニコラス・・・」

ゆっくりと辺りを見渡すサーシャに、ココットが家を指差した。


「シルキーと仲良く料理作ってる。

子守しながら」


レビアとガイは、顔を見合わせてほほ笑んだ。


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