バカブ神その9(輪廻)
9・輪廻
ここは何処だろうか?
白い白い・・・
上下左右、何処もかしこも白い世界。
自分の影さえない。
自分は何をしていたのかと考える。
見渡す限り、何もない空間。
そこに、ただ立っているだけだ。
不意に、頬を伝う温かいものに気がつき、手で触れた。
涙が流れていた。
悲しいとか、悔しいとか、嬉しいとか・・・
そんな感情はなく、気持ちは落ち着いているのに、涙はとめどなく流れていった。
足元にこぼれた涙が染みになった。
ポツ・・・
ポツ・・・
ポツ・・・
と、染みは広がって色がつきはじめた。
赤、黄、青、緑・・・
色は大地になり、草になり、花になり、樹になった。
自分の右手を誰かが繋いだ。
風が草花を揺らしていった。
太陽の暖かな陽射しを浴びて、大地が成長する。
太陽の破片が炎となって、大地を焼く。
左手を誰かが繋いだ。
大地に雨が降り注ぐ。
炎は消えて、流れた雨は川になった。
焼かれた大地は次の芽を出す。
太陽の下、大地は生命力に満ち溢れ、虫も動物もその命を燃やす。
・・・生きるために・・・
太陽が隠れ月が姿を現し、大地に住まう総ての命に安息を与えた。
人がいた。
豊かな大地の上に、自分の前に。
皆、穏やかに笑いながら消えていく。
一人消えると、空に星が一つ現れた。
一人消えると空に一つ。
また一人・・・
また一つ・・・
手を伸ばして触れたいと思うのに、その両手は誰かに塞がれていて動かすことも出来ない。
アルルが笑っていた。
花に囲まれ、穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと消えていく。
触れたいのに、両手は誰かに塞がれたまま動かない。
白い星が一つ・・・
どの星々よりも大きく、どの星々よりも明るく輝く星が生まれた。
その輝きは、月にも負けず劣らない。
周囲の小さな星々は、アルルの星を囲うように昇り、踊るようにうごめいた。
太陽が現れ、月が大地へと潜る。
大地は再び生命力に満ち溢れた。
始まる命があり
終わる命がある・・・
涙は止まっていた。
ニコラスは自分の右手はガイと、左手はクレフと繋いであることを確認した。
そして、結界を挟んで向こう側に、ガイとクレフと手を繋いでいるアレルの姿を確認した。
四人の輪の後ろに、大きな輪があった。
タイアード、レビア、レオン、サーシャ、フルア、ルイ・・・
皆、目を閉じて手を繋いでいた。
そして自分たち四人の前、総ての中央に二人は現れた。
向き合い、軽く頭を下げ、お互いの額をつけ、確りと両手を繋いでいた。
ジャガーとラ・パンヤの姿は傷一つなく、その場に居るどの魂よりも輝いていた。
それはまるで、誓いの儀式の様だと、ニコラスは思った。
二人は顔を挙げることなく、ゆっくりと聖樹を昇り、どの星々よりも高く昇った。