バカブ神その5(天と地)
5・天と地
世界が、天と地が悲鳴を上げている。
暗澹たる空を走るのは白雷の龍。
大地は裂け、立つ事もままならない。
裂け目へと吸い込まれて行くもの・・・
裂け目から姿を現す闇のモノ・・・
裂け目から噴き出す闇の影が、人々の心を掻き乱す。
・・・疑心暗鬼・・・
手を取り合い、助け合っていた隣人を切り付け、愛していた者をもその手にかけていく
親兄弟、子ども、恋人、恩人・・・
総ての関わりを黒く塗り潰し、皆の手を大地を血の色へと染めていく。
総ての母『善神イッツ・アルム』貴方の望みはなんでしょう?
私は祈るだけ。
その私に『壊れゆく世界』を見せるのは誰?
「レビア、それ以上力を使うな」
変わってしまった景色の中、レビアは立ち尽くし、白く細い手に力を込め祈った。
その手を、大きく暖かな手が覆った。
ヌルヌルとした感触と、鼻腔をつく生臭い匂い。
「私には、祈る事しか出来ませんわ」
レビアを見つめるタイアードは血と埃にまみれ、今にも泣きそうな顔をしていた。
まるで、初めて出会った時のようだ。
いや、あの時のタイアードの目に、生きている光はなかった。
レビアは今のタイアードの方が、よっぽど生を感じていた。
「微々たる結界を作ることすら出来ませんの。
祈ることしか、出来ませんの」
レビアはケルベロスに飲み込まれ、そこに溜まった『悪しき心』を浄化するのに、随分と力を使っていた。
「俺は戦える。
レビアを護るぐらい、なんともない」
タイアードはしっかりとレビアを抱きしめた。
力強い腕と厚い胸板、確かな鼓動がレビアの心を暖めた。
カティ達や、国からの援軍とも皆離れ離れになってしまったからか、これではいけないとタイアードを感じながら、レビアは心を落ち着けた。
「それに、レビアに何かあったら、奴が煩い」
愛想笑いすらなかったが、タイアードの言葉にレビアはクスリと笑った。
笑って、足元を確かめた。
不定期に来る大地の揺れは、確実に大きくなってきた。
『何か』が迫ってきていると、レビアは確信した。
「タイアード、どこでもいいですわ。
教会へ入りましょう」
結界を作るための聖水や、魔力回復のアイテムが少なくても残っていれば・・・
それに、崇める神によっては、私の力を増幅出来るかもしれませんわ。
許せと短く言うと、タイアードはレビアを片腕で肩に担ぎ上げ、右手で斧を構えて走り出した。
「タイアード、あそこを!」
暗澹たる空に、一筋の光が走った。
縦横無尽に走る雷ではなく、その下を走る、とても優しい輝きだった。
「北星の・・・
導きの星」
器を無くしてなお、魂は留まっているのですか?
疲れきった魂を、休ませる事はまだ出来ないのですか?
そう思い、レビアは涙を零して声を上げた。
「あの星を追ってください!」
導きの星を追いかけながら、レビアはまだ終わってはいけないと、強く気持ちを引き締めた。