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零地帯  作者: 三間 久士
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バカブ神その3(破壊神復活)

3・破壊神復活


 座ったまま、幹の鼓動を感じながら、シンは語りはじめた。


「この樹には、命を終えた者達が魂となって集います。

この根から幹へと入り、上へと上がりながら『現世』での体と心の記憶を総て消去し、『来世』への準備をします。

ただ、記憶の消去が終わっても、悪しき行い『業』は魂の傷となって残り、『来世』に係わってきます。

貴方たちの大切な人も、この中に・・・」


四人はそれぞれ大切な者を思いながら、聖樹を見上げた。

輝く幹は何処までも伸び、葉の一枚も見えなかった。


「『来世』の準備は人それぞれ。

記憶が多ければ昇るのはゆっくりと、悪しき行いが多ければ魂の傷はより深く・・・

そして準備が終わる頃、魂は天上界に広がる葉や花から地上へとこぼれ落ち、新たな命となって誕生します。

貴方達も辿った『転生』です。

もし、このシステムが崩れれば・・・」

「聖樹は世界の軸ですからね。

最悪、世界の壊滅なんてこともあるでしょうね」


ニコラスの右後ろにクレフ。


「ま、傾くぐらいはするんじゃないんですか?」


左後ろにガイ。


「んなの、やってみなけりゃ、分かんねーだろ?

どんな形でも、転生できればいいんじゃねぇの?

それとも何か?

ここまでやっといて、怖気ついたか?」


後ろのアレルはしっかりとニコラスの両肩を掴みながら、シンを小馬鹿にしたように笑った。


「世界は、皆のものですから、皆で何とかします。

もう、『誰かを犠牲に成り立つ世界』を終わらせましょう」


ニコラスの声は、強く確りとしたものだった。


「君は、それで納得しているのかな?」


シンの質問を受けて、ココットは少年の姿になり、自分のつま先を見つめながら答えた。


「召喚獣のオレっちにも聞くのか?」

「ニコラスの大切な友達は、君だろ?」

「・・・止めれば、世界は残ると思う。

この聖樹がこのままなら、転生のシステムでまたいずれは大切な人たちに会えると思う・・・

でも・・・」


ココットはシンに存在を認められたことが嬉しかった。

素直に喜んで、そして覚悟を決めた。

キュッとニコラスの手を握りしめ、シンの瞳を真正面から見つめた。


「でも、このままだったら、何も終わらないし何も始まらない。

今まで流れてきた血も涙も、失ったしまった命も・・・

全て無駄になる」


ココットにも分かっていた。

その場に居た者達の『心』が決まっていることが。

ココットに、シンは優しく微笑んだ。


「召喚獣は、そこまで考えないよ。

君はやっぱりニコラス君の右腕だ。

では、遠慮なく。

私は、貴方と共に・・・」


よく見ると、シンの頭の上に顔があった。

それは幹に馴染んでいて、よく見ないと分からなかった。


「さあ・・・」


シンは袖口から黒い球体を二つ取り出すと、幹の顔、目にあたる部分にねじ込んだ。


「その両の瞳で、私を見てください」


瞳が開いた瞬間、周囲の空気が一変した。

冷たく、重い空気が、身体に纏わり付く。

聖樹がその輝きを失いはじめ、幹はバリバリと耳障りな音を立てて崩れはじめた。

大気が揺れ、顔が現れた。

黒い皮膚に、彫りの深い顔立ち。

髪は黒く、その先はまだ幹に埋まっている。

首が、肩が、胸が・・・

その姿が現わになればなるほど、聖樹は輝きを無くし、その姿は崩れていく。

分身である聖樹が崩れて行くということは・・・


「パンヤ様!」


崩れて行く。

血を流し、細胞を崩し・・・

それでも、愛しい神の首に手を回し、その胸元に頬を寄せていた。

黒い咆哮は、音にならない音で大気を揺るがした。

破壊神が復活した。



 破壊の神、ジャガー神がゆっくりと姿を現わした。

聖樹が崩れていく。

太い根が、立派な幹が砕けていく。

崩れたところから、聖樹を昇りはじめた魂がこぼれだし、その形を歪め始めた。

聖樹の崩壊に同調して、空間が揺らぐ。

空間の裂け目から第四世界の悪鬼が流れ込みはじめた。


『あの子を破壊神にしないで』


そのサーシャの言葉を、ニコラスは思い出した。

サーシャは世界の終わりより、我が子が『世界を終わらせる』ことを憂いていた。


「んじゃまぁ、暴れるか」


ニコラスの頭に軽く左手を乗せ、大きな青龍刀を構えてアレルはニコラスに背を向けた。

その背中に、紅い大きな翼があった。


「最近、良いとこ無しだったので、欲求不満らしいです」


ニッコリ笑って、ガイはアレルの斜め後ろに立った。


「行くぞ、ガイ!」


気合いの入った声と共に、空間が炎上した。

空間の裂け目から溢れ出る悪鬼達に向かって、大量の炎が放出された。

ガイは炎が聖樹の方に来ないよう、風の結界でその炎をコントロールした。

二人は、その炎の中で戦っていた。


「帰ったら、ゆっくり読書をしたいものですね」


いつものように溜息まじりに呟き、クレフは聖樹の周りに結界を張り、さらに数体の水の獣を召喚した。

聖樹からこぼれ落ちる魂たちが炎で傷付かないよう、悪鬼に食べられないように。

そして、神の力で清め始める。

荒ぶりはじめた魂が、聖なる導きにそって、再び昇っていく。

崩れて行く聖樹の中を。


「僕は、世界を残します。

僕はラ・パンヤ様の血から産まれた『意志』を司る神」


父を思う。

母を思う。

姉を思う・・・

レダ、カティ、ショウ、レイ、フレア、レビア、タイアード、サーシャ、チィム、パンヤ、ガイ、ココット、アレル、クレフ・・・

アルル。

皆、大切な誰かのために願っていた。

大切な人が笑って暮らせますように。

大切な人が幸福でありますように。

その願いのために、皆、戦ってきた。

永い永い間・・・


クレアスは観ていた。

ニコラスは観てきた。

二人は観せられていた。

ニコラスは今なら解る気がした。

自分が総てを観ていた意味が・・・


「僕はラ・パンヤ様の血から産まれた。

『意志』を司る神」




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