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零地帯  作者: 三間 久士
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南のバカブ神その19(業)

19・業



 総てを飲み込んでいく炎。

暗く激しく、総ての存在を否定するように燃え盛る。


地獄の業火とは、このようなものだろうか?


そう、クレフは思った。

召喚され、視界がはっきりすると、目の前にアレルが居た。


「俺が殺した・・・」


だらしなく両膝を付き、頭を下げたまま力無く自分を抱きしめる、らしくない姿があった。

その両腕に、クレフは微かに残るアルルの気配を感じ取った。

そこに、あの少女はいた。

それはとても微かで、直ぐに消えた。

骨の一欠けらすら残されなかった。


「母上も・・・

アルルも・・・

俺が殺した・・・」


口から漏れるのは、後悔でも懺悔でもない・・・


「護ると誓ったのに・・・」


絶望だった。

力無き声に、亡き者を愛するその心に、クレフの心がチリチリするのを覚えた。


「俺がこの腕でその鼓動を止めて・・・

俺の炎で焼き付くした・・・」


ワナワナと震えながら広げる両腕。

その力強さを、クレフは知っている。


「もう無いんだ・・・

何も・・・

何も・・・」


上げられた顔にいつもの憎たらしさはなく、その瞳は虚ろで何も映していなかった。

自分に向けられた瞳に自分が映っていない。

胸がチリチリと、ザワザワと落ち着かない。

クレフは声を上げたかった。


大切な者を亡くしたのは、貴方だけではなく、ニコラスやガイ、私もです。

違う。

そうではない。


そうではないと、クレフは分かっていた。


「私はここにいます」


腰を折り、触れた頬はクレフの手を暖めた。

アレルが見ているのは、逝ってしまった愛しい者たちだと分かって居るから、その瞳に映っているのは目の前に居る自分ではないから・・・


こんなにも胸が苦しい


クレフは涙を零した。


「私を殺して、自分のモノにするのでしょう?」


幾度となく、アレルに食べられた身体。


「いつものように流れ出る血で喉を潤し、この肉で空腹を満たしなさい」


血は止まる。

失った肉も治る。

けれど・・・


そのつど、アレルの想いがクレフの中に入ってきた。

アレルに食べられる度に、クレフの中はアレルに侵食されていった。


私の中は貴方で満たされているのに、貴方の中に私は?


こんな気持ち、クレフは初めてだった。

こんな感情は知らなかった。


「私はまだ、生きています」


そっと、重ねた唇はいつもの様に熱い。


「私はここに、貴方の前にいます」

「・・・クレフ」

「あの幼子に、貴方の大切な妹君に、私のような業を背負わせてはいけませんよ」


黒い瞳に、クレフが映った。

震えていた腕が、クレフを抱きしめた。

その力はいつにもまして強く、クレフの心を落ち着かせた。


「今だけ・・・」


クレフの肩越しに顔を埋め、そっと呟いた。

アレルの赤い涙がクレフの肩に染み込めば染み込む程、二人を包む炎は優しくなっていく。

柔らかく、明るく、力強く、まるで守護されるかのように。


『クレフさんの『不死』は、アレルさんの呪いだと思います。

狂ってしまう程、愛してたんだと思います』


ニコラスに言われた言葉が、クレフの心に響いた。


「私の不死は前世の業。

貴方をおいて逝ってしまったから。

貴方が護らなければいけない者たちを、その手にかけてしまった原因だから。

現世で貴方がこれ以上の業を背負わないため・・・

善神の配慮でしょうか?」


レダの書を読んで、自分の『今』を理解した。

それでも、ニコラスの言ったあの言葉も頷けた。

自分の身体と心はこの男に縛られていると、クレフは確信した。


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