南のバカブ神その9(君は僕で、僕は君)
9・君は僕で、僕は君
ニコラスを包む闇は濃い。
自分の手元すら見えないぐらい濃い。
そんな闇に、柔らかな明かりがさして、人物が浮き上がった。
カティとショウが笑っていた。
二人は明かりと共に消えて、また次の明かりが灯った。
今まで出会った人々が、明かりとともに浮かんでは消え、消えては浮かんだ。
ドレイクにフルア・・・
アネージャとチィム・・・
アブビルトと子ども達・・・
レビアとタイアード・・・
レオン神父とアニス・・・
皆、穏やかな笑みを浮かべている。
これが、噂に聞く走馬灯かとニコラスは思った。
シンとサーシャ・・・
アレルとクレフ・・・
ガイとアルル・・・
そして、ニコラス。
黄金の髪と瞳の自分が、目の前にいた。
『時間です』
手が差し出された。
『君は僕です。
僕は君です』
分かっていた。
ただ、この手を取ったら本当に『始まって』しまうと思った。
「小さな村でも、僕には『全て』でした」
何も疑いを持たず、『毎日』が繰り返された村。
「自分に、なんの疑いもなく育ちました」
優しかった姉、憧れていた神父、穏やかな村の老人達。
「あの村を出たあと、僕の世界は、夢なのかと思った事もあります」
人間の負の感情に取り込まれ、飲み込まれそうになった。
「だけど、体も心も痛くて、流れる血も温かくて・・・」
『西のバカブは『意思』を司る者。
僕達の役割は、『過去・神の時代』『現在・終末』『未来・次の時』を渡り、語り継ぐ事』
語り継ぐ者。
『だから、僕は最期まで見ていた。
神々が眠りにつくまでを。
そして、現世は君が見ている。
神々の目覚めとその行動を。
だから…』
黄金に輝くニコラスが、『今』のニコラスの手を取ると、回りの闇が消えた。
今まで出会った人たちが、二人を囲んでいた。
皆、穏やかな笑みだった。
二人の足元に、小さな小さな新芽が頭を出していた。
金色に輝くニコラスが心臓から小さな金色の小石を数個取り出し、その新芽の上にまぶした。
小石は抵抗なく新芽に吸収されると、一気にニコラスの身長まで育った。
幹もニコラスの胴回り位太くなり、数本の枝も青々とした葉をつけ四方八方に伸びていた。
そしてまた、金色に輝くニコラスが心臓から金色の、先ほどよりは大きめの金色の石を数個取り出し、木の根元に置いた。
金色の石を吸収すると、根は太り、幹はさらに太くなり、丈もぐんぐん伸びた。
首を真上まで上げて見上げても、何処まで伸びたのか分からなかった。
『君の持っている石も』
そっと促され、ニコラスはカティからもらった石の存在を思い出し、金色のニコラスがしたように、大木の根に置いた。
無色透明のその小石は、大木を包むように大きく膨張して吸収された。
ただそれだけで、ニコラスにはなんの変化も無いように思えた。
『結末は、僕ら二人で見よう。
総てを語り継ごう。
君は僕で、僕は君だよ』
黄金のニコラスは優しく微笑み、いっそう光り輝いた。
その輝きがあまりに眩しくて、『今』のニコラスはきつく目をつぶった。
そのまぶたの裏で、アルルが微笑んでいた。