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零地帯  作者: 三間 久士
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南のバカブ神その7(南の柱)

7・南の柱


カティの部屋を出た瞬間、ニコラスの体は力強い腕に攫われた。

強烈な風を全身で感じ、ニコラスは思わずギュッと目をつぶり、ココットはニコラスの胸元で必死に服にしがみついていた。

そんな時間もあっという間で、全身を通り過ぎる風が落ち着いたと同時に、今度は熱さが全身を襲った。

その熱さには、覚えがあった。


「目を開けてみな」


淡々としたアレルの声に、ニコラスはそっと目を開けた。


「ひゃっ!」


ニコラスは羽を広げたアレルに抱き上げられたまま、宙に浮いていた。

足元のはるか下では、大きな活火山が夜の闇の中で赤い口を大きく開けていた。

白い湯気が立ち上がるのがかすかに見え、グラグラとマグマを煮立たせるその姿は、いつ噴火してもおかしくはなかった。

全身を包む熱さの元はこれかと、ニコラスは怖くなり、体が硬直しアレルの腕をつかむ手に力が入った。


「ア、アレルさん、ここは?」

「俺の柱。

南の柱だ」

「・・・柱にしちゃあ、中途半端じゃないか?

ニコラスの柱は天井知らずの大木で、ガイの柱は消えない大竜巻。

クレフの柱は逆流してる滝でこれも天井知らずだ。

この柱は・・・」


ニコラスの胸元から顔だけを出したココットが、恐る恐る髭を揺らしながら、視線だけを下げて言った。


「中途半端なんだよ。

柱も、俺の覚醒も。

前世で何があったかなんて覚えちゃいないが、この世界を守るために、覚醒の順番も重要だったんだと思う。

覚醒した柱のエネルギーで世界を壊さないように、覚醒の順番を付けられ、その条件の中に鍵となる補佐の神も決められていた。

・・・誰が決めたかは知らねぇが、随分と心配性だよな」


口調はいつもと変わらないが、声色はとても落ち着いていた。


「あの時、俺が刺されたまま死んだら、きっとファイアー・ドレイクがここの番人をそのまましていたんだろうな」

「それぐらい、火の柱が強いんですね。

・・・そうか、だからアレルさんより先に、師匠が覚醒する必要があったんですね。

でも、どうすれば完全に覚醒するんですか?」


中途半端な覚醒でも、ニコラスは下の火山からは十分な力を感じていた。


これが完全になったら・・・

確かに、僕はひとたまりもないなぁ・・・


ボコボコと音を立てるマグマに、ニコラスは生唾を飲み込んだ。


「さあな。

今までの話も、ガイの・・・

正確にはガイの父親からガイが聞いた話で、俺は今、確かめに来ただけだ」

「ガイは両親にそっくりだな。

アレルも、父親そっくりだけどな」

「ガイの家族は、なんでか知らねぇけど俺んちに昔から使えてるんだと。

今こそ「王家」だが、昔は腕一本で食いぶちを稼いでた家柄だ。

・・・前世の何かがあるんだろうけど、俺には分からん」


言い切った瞬間、アレルはニコラスを抱く腕を解き、羽をばさりと大きく動かした。

その振動で、ニコラスはアレルから手を放し・・・

落ちた。


「!!!!!!」


声にならない悲鳴を上げながらギュッと目をつぶり、無意識に胸元のココットを守るように自分の体を両腕で抱きしめ丸くなった。

その小さな体を包んだのは燃えたぎるマグマではなく、アレルの両腕だった。


「はぁ・・・

はぁ・・・

ア、アレ・・・」


恐怖と安堵と熱さとが入り乱れ、ニコラスは呼吸を整えることも出来ずに自分の胸元を凝視したまま固まっていた。


「オイ!

何しやがる!!」


そんなニコラスの代わりに、ココットがニコラスの胸元から、小さな目を吊り上げて飛び出した。


「また、この手を放すと思うか?」


アレルはそんなココットには目もくれず、固まったままのニコラスにサラッと声をかけた。


「また・・・」


落下した時の恐怖が蘇る。

カタカタと震えながら、ニコラスはさっきよりもしっかりとアレルに抱き着いた。


「は、放しても、アレルさんは絶対、助けてくれます」


声すら震えていた。

そんなニコラスと、今にも噛みつきそうなココットを見て、アレルは肩で軽く笑って飛び始めた。

どんどん熱気から遠ざかり、普通に「暑い」と感じる所まで来たところで、アレルは止まった。

温かな風を頬に受け、ニコラスは少しホッとしたように周囲を見渡した。

少し高く上がったのだろうか、夜の闇の中に半月の月と、散りばめられた星々が見えるだけだった。


「いいか、ニコラスにココット。

お前等は最期までそれでいいんだ。

裏切られても騙されても、人が好過ぎると笑われてもなじられても、そいつが好きなら手を離すな。

その代わり、ココットが怒ってやれ。

ニコラスの代わりに起こって噛みついて、ニコラスと一緒に泣いてやれ。

お前たちは、一人と一匹で一人前だろ?」


話しながら、アレルはゆっくりと飛んでいた。

真っすぐ前を向いたまま話すアレルを、ニコラスは下から見上げていた。


「当たり前だろう?」


ココットは何を馬鹿なことをと言わんばかりに、ニコラスの胸元から顔だけを出し、勢いよく鼻を鳴らした。


「そうだな。

当たり前だな」


ようやくいつもの調子に戻ったアレルは、一気に下降した。

その勢いに、ニコラスもココットも目をつぶって耐えた。


「おら、寝る前にトイレ行っとけよ」


気が付くと、部屋の前に下ろされていた。

アレルはいつもの悪戯な笑みを浮かべ、廊下の開け放たれた窓から姿を消した。


「・・・とりあえず、トイレに行こうか?」

「ニコ、歩けるか?」


顔を見合わせたニコラスとココット。

ニコラスは立ち上がった瞬間、膝に力が入らず石の床に座り込んでしまった。


「はは・・・

暫くこうしていようか?」


胸元のココットをきゅっと抱きしめて安心した瞬間、横のドアが開いた。



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