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全裸マンと高額納税者

「やっりぃ桶盛りの寿司発見!紅子!茶を持てぃ」


私の生きる希望が異世界滅亡から、桜の結界を解除すべく魔法修行に励むことに移行しかけてたけど、うさちゃん大魔王のうれしげな声で『寿司喰いてぇぇ』に即座に上書きされた。

『お茶』…あぁ煎茶の香り。久しぶりだ。

ポットのお湯をそそぐとなお一層香り立つ。思う存分くんかくんかしたい。


「紅ぃっ無事かぁ!!」


ふりかえると土砂とともに地割れを滑り降りてくる全裸の男。


「いやぁぁあああ」


「えっ!はっ!?俺なんでまっぱ!?きやーっ」


いきなりだからガン見してしまった。そっか男子のあそこはああなってるんやね。


「なにやってんの空也(そらや)!?発情にもほどがあるわ」


「えっごめん。紅が若い男に連れ込まれたって聞いて…場所も場所だし、ヤバそうならおまえ抱えて脱出。と思ったら脱衣してた!?」


なんだそれ。全然説明になってないけど、心配して駆けつけてきてくれたのはわかる。ご褒美に入籍してあげてもいいな。

突然現れたこの全裸マンは私の幼馴染でお寺の次男坊『猿渡空也(さわたりそらや)』私と同じ歳の16歳だ。

ちなみに頭も含めて見事な全裸。


小坊主、空也は脱げた作務衣を拾い集めて恥ずかしそうに着なおしている。チラ見した小振りのおしりがかわいくて夢に出そうです。


「店の入り口、どうやって開けたんだ」


着衣した空也はイケメンらしいイケメンボイスでキリリッと尋ねた。


「俺がテヤッっと開けたのさ。おまえ紅の友達か?一緒に寿司食おうぜ!俺はうさちゃん大魔王よろしくな」


「すすす寿司っすか」


空也の頭の中のいろんな計画が『寿司喰いてぇぇ』に即座に上書きされたようだ。

思い返せばこの3年ろくなもの口にしてない。

炊き出しはおもに水っぽいなにかだし、固形物とタンパク質、甘味を常に欲してる。それは私も空也も同じだ。


うさちゃん大魔王がテーブルにひろげた寿司ズは、5人前ほどの桶盛り2つと、特上っぽいお寿司の折り6つ。

花見の宴会用の出前だな。

配達寸前だったんだろう。残っていたとはとてつもない幸運。神さまありがとぉ。

すっぱい酢飯とほのかに漂う海鮮の香り、緑茶、醤油。鼻が幸せで胃がジェラシーですよ。


「俺は撮影しながら食うから適当に食ってて」


「やんすか!やんすか!?おぅ!やってやんよ。ハイってなわけで俺は江戸前寿司《龍五郎》に来ています」


うさちゃん大魔王はカメラ目線で寿司の紹介をはじめたようです。

例の未確認なんちゃらに似た球体カメラがうさちゃんとその手元を捕えて空中で静止している。

どうやらうさちゃんのチューバーというふれこみは本当みたい。

人の視線も全然痛くないようでリアクションは堂にいってる。一般人がこれやらされたら自傷ものだわ。


うさちゃんと同じテーブルに向かい合わせについた私と空也は横目でアイコンタクト。

そぅ言葉はイラナイ。いただきますもすっ飛ばして、私と空也は同時にワリバシを割る。

寿司を食うぅ!!


まずは中トロだ。ハシでつまんでにおくちに放り込む。んんんまぁぁぁぁい。

酢飯がホロッとほどけて中トロの脂がじゅんわりおくちにひろがって、飲み込みたくないのにトロっと崩れて喉の奥に流れてく。

こんなん涙だだもれるわ。はぁぁぁ海苔の香り!ウニが甘くてこれまた泣ける。

赤貝!歯ごたえあるのにサックリやわらかくて果物のようなさわやかな風味。んますぎる。

早食いしすぎて喉で各駅停車してる寿司ズを緑茶で超特急にする。んはっしあわせっ。



「大トロ、中トロ、ウニ、海老、イクラ、鯛、赤貝、蟹、鉄火巻き、卵、そしてガリと小さい容器に醤油が入っています」

「一貫の大きさが約8cm、厚みが3,5cm、下のシャリのサイズが」


うさちゃん大魔王は寿司ネタをはがしてわさびを御開帳したのち、ウニの軍艦巻きの海苔をはがして寿司の魅力を視聴者にアピールしてる模様。

そんなんで寿司の魅力が伝わるのか?異世界人にはこんな動画の需要あるのかしら。

そう考えつつ、二つ目の寿司折りをぱくついてると、うさちゃんもやっと実食にはいった。


「さぁいただいてみましょう、まずはこのプリっとした海老から」


それは、うさちゃん大魔王が海老をハシでつまんで口に入れた瞬間だった。

うさちゃんの寿司折から寿司がこつぜんと消えたんだ。ガリ1枚を残して。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお」


うさちゃんが雄たけんだ。


「海老うめぇぇぇぇぇ!寿司最高!!」


あ、そこですか。


「そしてウサギ、てめぇぶっ殺す」


血走った目でそうつぶやくうさちゃん大魔王。

錯覚かとわが目を疑ったけど、どうやら私がたったいま目撃した出来事とは現実のようだ。

うさちゃん大魔王のウサ耳つきシルクハット。これはウサ耳つきじゃなくてレアなウサギ入りだった。

うさちゃんのハシが寿司を持ち上げたとき、突然、うさちゃん大魔王の帽子のうわぶた?が開いて青耳のウサギが顔を出したかと思うと寿司をがばっと吸い込んでふたがパタリと閉じたんだ。


「ふぅ…すまん。とりみだしたわ」

「このうまい寿司は徴税吏員に高額利益物とみなされて徴収されたようだ」


「え?いまのが納税!?」


異世界の税金徴収おそろしい。


「そう、俺は税率95%だからさ、とりたてが厳しくってね」


いやいやいや、その計算だと寿司20人前ないと1人前も口にできないよね。

うさちゃん大魔王が仕切りなおして再び手にした寿司折り、中トロにハシを伸ばすと前回同様に残りの寿司は消えた。よく見ると中トロも端が欠けている。

寿司折りに12貫入ってたから5%だと1貫にも足りないね。


「中トロうめえええぇぇぇぇぇ」


うさちゃん涙目。寿司がうまいからか泣いてんのか重税のせいかわからんねこれ。

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