自由市民
瓦礫の街を彩る狂い桜に目をやって、しばし感傷にひたってたのだけれど、目の前の空気読めない異世界人は消えてはくれてなかった。
ウサ耳シルクハットのおかしな男の子。
瓦版の情報によると、外の世界にはいくつもの国があって普通の国民は基本的に国籍をひとつもつ。
そのうえで『自由市民』という制度があり、『自由市民』はどこの国へも移動できて、さらには定住する権利を持つようだ。
『自由市民』は、どの国に定住しても最低限の生活保障をうけられ、医療費は免除、老後の面倒もみてもらえるというすばらしい厚遇。
それもそのはず『自由市民』はなんとすべての国に税金を払っているらしいのだ。
一般国民を『無税市民』、自由市民を『納税市民』と呼んだりもするみたい。一般国民は無税なのかぁ…一生、国内生活で満足だと思っちゃうわね。
つまり、一見アレな『自由市民』らしき男の子は一見アレだけど、世界各国に税がばらまける超がつくほどのお金持ちってことだ。
でも、お金持ちに名前を教えただけでお金がもらえたって話は聞かないからここは無言スルーしとこう。
「ねぇねぇ、名前ぐらい教えてくれてもいいじゃない」
「俺USA国から来たんだ」
「この街はじめてでさ。案内してもらえるとうれしいんだけど」
「桜のくにってOMOTENASIのくにだよね。観光客には優しいって聞いてるぜ」
やだなぁすんごいぐいぐいくる。海辺のナンパファイターですか?この野郎。
いくらおもてなしの国とはいえ今は非常時。
一般人にこの悲壮感溢れる故郷のPR活動なんてできるはずもないし、観光客に言えるのは「帰れ」のひとことだね。
それなのに目の前のコイツは「おもてなし」コールをラップのリズムではじめやがった。
「常時もてなし、正直もてなし」「極める道楽、もてなすおまえは合格っ!」
馬鹿につける薬があればいいのに。そしてのたうち回るほど沁みたらいいのに。
この局面、離脱の一手が正解だと思う。
正直そうしたい。でもこの馬鹿に気になってることを聞かなきゃいけない。
私は、『今どんな気持ち?』ふうなステップを踏んでる馬鹿と正面からガチで目を合わせ、威圧を込めて問いかけた。
「君の肩に浮いてるそれ、カメラだよね」
テニスボールくらいのサイズの濃紺と赤の2つの金属球が、なつっこい鳥みたいに男の子の周りを飛び回ってる。
地球の感覚だと未確認なんちゃらだけど、これと似たようなものが異世界の近隣国様より災害支援として自警団に支給されてて、たまーに上空を飛んでたりするから、はじめて近距離で異世界カメラを見たからと言って未確認なんちゃらと間違えて驚いたりはしないのだ。
「そ、コイツがクルルで赤いのがクルンって名前。俺のご自慢の自作カメラさ。市販のカメラのクオリティじゃ満足できないからね」
「俺の動画見たことない?俺、動画配信サイトで上位をキープしている大物チューバーなんだぜ」
カメラに名前つけてるの!?クルルにクルン?こいつどんだけ頭くるくるなんだ。さっきも「くるくる魔法少女」とか言ってたし。
心の中でツッコミいれてると我が耳が怪しい情報を仕入れてきた。
「動画配信サイト」「チューバー」
ここが異世界だと言われても実感の薄い理由の一つがこれ。日本の文化と似すぎてるんだよねこの世界。
異世界の公用語はなんと日本語。
千年ほど前に召喚した勇者が伝え広めたものらしい。
災害支援のカメラの取扱説明書も日本語だったっていうし、はげましの寄せ書きと千羽鶴も頂いたんだよね。異世界人からさ。
「チューバー」なんて新しめの文化もあるってことは、異世界人はかなりお気軽に召喚という名のひとさらいをやらかしてるってことなんだよな~。
会話の通じない相手を宇宙人なんて揶揄したりするけど、宇宙人と異世界人は同等だろうし人間の価値観なんて押し付けちゃいけないよね。
でも憎い。お気軽に同胞をさらい、国土を破壊した異世界人ども。全員、頭をねじ切ってやれたら気分爽快スッキリするのに。
あ~千羽鶴を折ってくれた善良な異世界民のみなさん。ごめんなさい。まとめて呪われてください。未来永劫、業火に焼かれろ!
「やめてもらえるかな。撮影」
平常時でもいきなりカメラむけられるなんてありえない。
ボロ雑巾な私を撮影するなんてどんだけ呪いカウンターまわしたいんだよクソガキが。カウンターは常にMAXだけどさ。即刻、撮影中止していただきたいわ。
でも、悲しいかな私の目つきの柔さとアニメ声では、眼力を込めたにらみつけが上目づかいの甘々トークになってしまうんだ。
私の全力の威嚇を年下のちびっこにニヤニヤ顔でほっこり受け止められては、怒りを通り越して悲しさで胸がいっぱいになる。
だが、格闘技マニアの親父に鍛えられた私の拳は固く蹴りは的確だ。
「撮影協力してくれるなら謝礼は出すよ」
たったいま、アレなちびっこ、いや、うさちゃん大魔王様より素晴らしい申し出がありました。
私は解き放とうとした猛る獣を己の中に収めた。
「私は寅丸紅子。144避難所に住んでいる学生よ」
私はそう言って片手を差し出すと、もったいないが、今度は本物のにっこり笑顔をうさちゃん大魔王にみせつけてやったんだ。




