2-1 第63話 精神的外傷(トラウマ)
side優也
俺はあの時のトラウマを思い出していた。
「ねぇ。お兄ちゃん! 起きて下さい!」
その声の主に叩き起されて俺は眠い目を擦りながら体を起こす。
その声の主を見てみるとそこには七海が居た。
「ん? なんだ。まだ9時じゃないか。もう少しお兄ちゃんを寝かせてくれ……すぅ……」
そしてまた目を閉じて夢の世界へ
「こうなったら……」
その言葉が聞こえた瞬間、嫌な予感がした。
「おにーちゃん!」
「ぐぼわっ!」
急に七海が飛びかかってきた。
それにより変な声を出して白目をむく。
「な、七海……少しは兄ちゃんを労わってくれ……」
「お兄ちゃんか早く起きないのがいけないんでーすよ。それに9時は"まだ"では無くて"もう"だと思うのは私だけですか?」
的確なツッコミを入れてくる七海。
「所で七海。夏休みって物を知ってるか? 夏休みってのはな」
「知ってるよ」
「そうか。お兄ちゃんはな今、夏休み期間中でだな」
「それも知ってる」
二回も即答された。
ならば言うことは一つしかない。
「お兄ちゃんの安眠を邪魔しないでくれ。安眠妨害反対……安眠妨害反対……」
そしてまた目を閉じると七海は出て行った。
ふぅ……これで安心して眠れる。
するとものの数分でまた戻ってきた。
「お兄ちゃん。口開けて〜」
まぁそれくらいならと思って寝ぼけた状態で口を開けると何かが口に入ってきた。
「ん? んー。ん!?」
何やら口の中に柔らかくてネチョネチョして水気があって味が薄いものが……
「んって……あー!」
そして俺は部屋を飛び出してトイレに駆け込んだ。
そこで全てリバースした。
「うう……気持ち悪い……」
何を入れられたのかは見てないが大体わかる。
「目が覚めた?」
「覚めるを通り越してあのくそ爺よりも先に曾祖父さんの所に逝く所だった……」
とぐったりしながら言うと七海が若干笑いを堪えてるかのように震え始めた。
「ったく……湯豆腐はやめろ湯豆腐は……思い出したらまた気持ち悪く……うっ」
いかんいかん……思い出したらまた胃酸が逆流しそうだから違うこと考えよう。
「お兄ちゃん。昔から豆腐苦手だよね」
「七海。お前は間違えている」
とちょっと中二っぽいポーズを取りながらこう言い放った。
「豆腐じゃなくて味が薄いもの全般だ!」
キメ顔でそう言った。
「そこ威張れるところでもないですよー」
と言いながら色々詰まったスーツケースを俺に手渡してきた。
「着替えと……それと歯磨き粉。バスタオルもこの中に入ってますからね」
と説明してきた。
「ちょっと待て! なんだそのお泊まりセットみたいな中身は」
「え? お兄ちゃん忘れたの?」
とキョトンと首を傾げる七海。率直に可愛い。
「今日は萌未さんの家でお泊まり会って約束だったでしょ?」
確かにそんな約束をした覚えはあるが、今日なはずが……そう考えながら携帯の日付を見ると一気に青ざめた。
「今日でした……」
すっかり日付を忘れていた。
「ほらお兄ちゃん。早く支度してください」
と着替えを顔に投げつけられた。
とまぁここまでで分かる通り俺はダメ男で妹は完璧な少女なのだ。更には俺へのツッコミをも卒無くこなす。眩しい!
更に言うとこの頃の俺は絶賛中一にして若干中二を拗らせている。そのため七海は毎日頭を抱えて胃薬を常備している。
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そして絆成家(従妹)に到着した。
今日は父さんが仕事で帰ってこないみたいだから酒田さんに遊びに来ないか? と誘われたのだ。そして折角だから泊まっていけとも言われた。ちなみに母さんは今日もまた遊び歩いている。2、3日帰ってこないだろう。そんなダメ親だ。だから俺はあの人のことが嫌い。
だからご好意に甘える事にして今に至るわけだ。
ちなみに我が従妹、萌未と我が妹、七海は仲が悪いわけじゃないけど時折争ったりする訳わかんねぇ関係だ。
そしてチャイムを鳴らして数秒程待つとインターホンから男性の声が聞こえてきた。
多分酒田さんだろう。
「酒田さん。来ました」
そう言うと数秒でドアが開いた。
「いらっしゃい優也君。七海ちゃん。今日は来てくれてありがとう。萌未も喜ぶよ」
そう言って爽やかスマイルをする酒田さん。
酒田さんは落ち着いた声色で何よりイケメンだ。確かに父さんの兄だから少しはお年を召している感はあるけどなんて言うのかな? カッコイイ。俺も将来あんな人になりたい。
「いえいえ。こちらこそ呼んでいただき誠にありがとうございます」
そう挨拶すると
「お兄ちゃん。気持ち悪いよ?」
「なんでぇっ!」
急に罵られてしまった。何故だ!?
「お兄ちゃん。いつも『ふっ。我を召喚せし物よ。答えよ! 我の力をほ』」
「やぁぁめぇぇてぇぇ!」
七海が左手を左目に翳しながらそんな中二っぽい台詞を言ってきた。
ここまでで気がついたと思うが七海が今発した言葉全て"俺の"言葉である。
「僕はそんな事言いません!」
「でもお兄ちゃん。前、坂戸さんのお宅に遊びに行った時」
「わーわー! 聞こえません!」
そして両耳を塞ぐ。
「何はともあれ、ここで立ち話もなんだ。上がるといい」
そして酒田さんに案内されて上がり込む。
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「「お邪魔します」」
「はい。お飲み物どうするかい?」
「あ、私オレンジジュース! お兄ちゃんは?」
「ふっ。そうだな。永久の闇に包まれし種で作った液体を漆黒の状態で頂くとしよう」
俺がそう言うと酒田さんは頭の上にハテナを浮かべた。
「あ、お兄ちゃんはコーヒーみたいです。いつもの」
「あ、了解。萌未! 優也君達来てるよ!」
酒田さんがそう呼びかけると携帯にメールが受信された。
開いてみると中にはこの様な文章が書かれていた。
『来て』
その二文字の言葉だが今ではもうなんにも思わなくなってしまった。
「んじゃまぁ酒田さん! 僕、萌未ちゃんの所に行って来ますので僕の分はやっぱりキャンセルで」
俺がそう言うと少し遠くの方から「はーい」と聞こえた。
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萌未の部屋に来た俺は扉をノックする。
すると扉が少し開いて出てきた手に引っ張られて引きずり込まれる。
そして中に入ったら何かに急に抱きつかれる。
「お兄ちゃん。こんにちは」
とポーカーフェイスでこちらを見つめてくる萌未が抱きついてきたようだ。
この頃は人前では「お兄ちゃん。しっかりしてください」「お兄ちゃん。ちょっと気持ち悪いので10m位離れていただけると光栄です」的なことを言ってくるが、二人だけの時はこんなんだ。
そして優しく頭を撫でてやると擽ったそうに目を細めて「や、やめてください……」と言う萌未が可愛すぎて辞められない。
この時はそうなんだよ。まだ普通の兄弟よりスキンシップが多いかな? 位で済んでいたんだ。
「あ、お兄ちゃん。ちょっとお飲み物取ってくるね。お兄ちゃんはいつものだよね?」
「ああ、頼む我が従順なるえーと……まぁ取りあえず頼んだぞ」
とポーズを決めながら言うと「うん! わかった!」と普段声色が変わらない萌未の声色が浮いた。
そして何をして待とうかなと考えていると俺は不思議な物を見てしまう。
「あれは? パンパンに詰まってるな」
パンパンに詰まった棚があった。
そして見に行ってしまったのだ。
それが失敗だった。
「は!?」
絶句してしまった。
その中にはパンパンに詰まった男物のパンツが入っていた。
でも十中八九
「僕のだよな……」
本気で恐怖を覚えてしまった。
そして下の方を見ると写真が敷き詰められていた。その写真は
「僕の? しかも魔王モードの」
カッコよくポーズを決めている写真が……しかも撮られた覚えのないものまで……
すると近づいてくる足音が聞こえてきた。咄嗟に棚を閉めて元の位置に戻る。
その後萌未が今みたいな変態になるのだが、七海が事故に会ってから少し後の事だ。
「悠真。ってなことがあったんだよ。昔に」
「爆ぜろ。リア充」
「なんで!? 俺の話を聞いてどうしてそう思うの!?」
「結羽ちゃんに星野さん。萌未ちゃんも、お前にご執心だもんな」
「いや、前の2人が含まれた理由が分からん」
そんな話をしながら眠りについたのだった。




