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2-2 第104話 諦められない

side優也


 萌未からの電話の後、暫くゆっくりしていると夕食が届けられた。

 夕食は各部屋に届けられる形式らしい。


 結構良い旅館なので結構美味しそうだ。ここは結構海に近い方なので海鮮ものが多いイメージ。

 中でもホタテの刺身がプリプリしていて美味そうだ。俺はホタテが好きだからな。ホタテのバター醤油焼きとか凄く好きだ。最近はあまり食べれてないけどな。


 あとは蒸し蟹の足だったり、ホタテだけではなく色んな種類の刺身。他にも様々な料理が並んであるが、どれもこれも美味しそうだった。


「当たりの旅館だね」

「ああ、そうだな」


 俺と結羽は同時に頂きますと手を合わせてから箸を手に取り、まず最初に味噌汁の汁を啜る。

 俺は驚いた。美味い、すごく美味いのだ。疲れた体を労わるように濃い目の味付けなのだが、凄く海鮮の出汁等が効いてて凄く美味い。


 次に醤油皿に付属していた醤油を出し、その端に同じく付属していたわさびを出す。

 そして箸で少しわさびを刺身に乗せると醤油を少し付けて口に運んだ。

 うん、やっぱり美味い。近くに海があるだけあって新鮮だ。こんなに美味い刺身は少し海から離れてる伊真舞ではここまで美味い刺身はそうそう食べられないだろう。


「美味しい〜」


 結羽は俺とテーブルを挟んだ席に座っており、そこで俺と同じ飯を食って頬を緩ませていた。

 美味しいものを食べている時は本当に幸せそうに食べるから見てるだけでも癒されるんだよな。


「ん? どうかしたの?」

「いや、何でもない」


 じっと見ていると見ていることがバレたので俺は慌てて目を逸らして照れ隠しに飯を食べる。

 まさか馬鹿正直に飯を食べている結羽に見蕩れていたって言う訳にもいかない。


 それから数十分後、飯を食い終わって少しゆっくりしていると急に結羽が話をふってきた。


「そういえば優也ってさ、最近急に定期テストのランキングから消えたよね。その代わり他の能力がかなり上がってるみたいだけど」

「……」


 まぁ、そりゃあここまでガッツリと変わっていたら気が付かれるよな。

 実は俺にもこれの原因は分かっちゃいない。だけど俺が考えるにこれは心理的な問題なのだろう。

 愛する者をもう二度と失いたくない。その心が俺に勇気を与え、運動能力を向上させているんだろう。

 それと引き換えに何故か勉学のレベルが中学時代に戻ってしまっている。

 何とか勉強はしているが、最近はボーッとして全然授業内容が頭に入ってきていない。


「これじゃあダメだよな」

「ん?」

「結羽、お前は俺の前から居なくなんないでくれよ」


 その俺の一言で部屋は暗い雰囲気に包まれてしまう。

 多分普通のカップル同士で「ずっと一緒に居ようね」的な言い方だったらバカップル的な雰囲気になるんだろうけども、俺の言葉だから重みが増したのだろう。

 過去に二回も大切な人を失った。一人は植物人間、もう一人はこの世から旅立った。


「はは、悪ぃ。忘れてくれ」


 重苦しい雰囲気が苦手なので俺はすぐに笑って直前の言葉を撤回する。

 だけどその雰囲気は少し残ってしまっているようで結羽の表情は沈んでいる。


「ねぇ優也」

「なんだ?」

「私は優也と離れたくない。だから私はあなたから離れないよ。……優也は?」


 俺はすぐに返答出来なかった。

 なぜなら俺は人間って物は(もろ)い存在だって事を身をもって知っていたからだ。だからそんなに軽々しく言えなかったのだ。

 だけど、俺の気持ちを言えば


「俺も離れたくねぇ。だから俺は結羽から離れねぇ」

「うん。それならいい」


 結羽はその俺の答えに満足したようで満面の笑みを浮かべた。

 絶対とは言い切れない。だが、この言葉を絶対にするかしないかは俺の行動次第だ。


「……でも本当はそれはしたくないんじゃないかな?」

「どういう事だよ」

「だって、あなたの心には常に七海ちゃんが居る」


 結羽は単調にそう言うと真っ直ぐと俺の目を見てきた。

 俺が結羽から離れたいと思ってる? いったいどういうことだよ。俺は本気で離れたくないと思ってるってのによ。

 しかもそれと七海、何が関係あるんだ。


「優也。本当は都会に出て医学を学びたいんでしょ?」

「違う! 俺は結羽から離れるくらいだったら、んな所行かなくても良い!」

「違わないよ。優也にとって一番大事な人は妹の七海ちゃんだもんね」


 そう言われて俺は何も言い返せなかった。

 正直、どちらか選べって言われたら決められないくらいの感覚だ。しかし、七海は妹で家族な分、贔屓(ひいき)してしまうのだろう。

 だから俺は本心ではこの街を離れて都会に出て医学を学びたかった。


「図星でしょ。私、何でも優也の事なら分かるんだよ」

「……結羽には適わねぇな」


 結羽は俺の事なら何でもお見通しらしい。

 なら嘘を話しても仕方がねぇよな。


「確かに俺は今でも七海の事は諦められねぇし、治してやりたいと思ってる。だけどダメなんだ。俺は怖いんだよ、結羽から離れてその間に結羽の身に何かがあったらと思うと……」


 俺は嗚咽混じりに言った。

 そんな俺に対して結羽は優しく微笑みかけて隣に来ると俺を抱きしめた。

 俺は驚いた。結羽の顔は分からないから何考えてるのかは分からはいけど、これは俺を思っての行動だって事が分かる。


「大丈夫だよ優也。私はあなたがどんな決断を下そうともそれを受け入れる。都会に行くって言うならば私は待ってるよ。約束する、優也が帰ってくるまでずっと……ずっと待ってるから」

「結羽……」


 俺は結羽の優しい言葉で遂に堪えきれなくなって涙を流す。そんな俺の背中を優しく(さす)ってくれた。

 絶対に結羽のもとを離れたくない。だけど七海も大切な人なんだ。諦めきれるわけが無い。


「結羽……俺、俺さ、すごく頑張る。すごく勉強を頑張って都会の医療学校に進学する。進学して、立派な医者になって戻ってくるからさ。その時まで待っててくれるか?」

「うん。何年でも私は待ち続けるよ。だって私は優也の彼女なんだから」

「そうか……んで、帰ってきたら……結婚しよう」

「……ふぇっ?」


 結羽の顔は熱に浮かされたように真っ赤になると、可愛い声を出して驚いた。

 正直、まだ結婚なんて考えるのは早いだろう。なんせまだ高二の秋だからだ。だけど俺は自然と結羽と生涯を共に過したいとそう思ったのだ。


「優也……。本当に私でいいの?」

「んだよ今更。俺は、結羽が良いんだよ(・・・・・・・・)! 結羽じゃ無き(・・・・・・)ゃダメなんだよ(・・・・・・・)!」


 結羽がとても大切だからこそ俺は結婚と言うワードを口にした。

 こんなことを口にしたら大人には小童(こわっぱ)が何言ってんだと笑われるかもしれないが、俺はこの時点で覚悟していた。人生を共にするって。


「それじゃあ、その証明を……頂戴?」

「証明……か」


 俺は一つしか思い浮かばなかった。

 だから俺なりの証明をする為に俺は結羽の肩を掴んで真っ直ぐ結羽の顔を見据えて徐々に顔を近づけていく。

 それによって結羽は察したのか目を閉じた。


「結羽……」

「優也……」


 そして俺達の影は一つに繋がった。

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