表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画「ELEMENT」参加作品

恋は盲目、馬鹿につける薬はない

作者: 霜月透子

「大発明入りのコーヒー」(作:marron様)http://ncode.syosetu.com/n8785dn/8/ のマルオ視点で書く、というお題です。単独でも問題なくお読みいただけますが、よろしければお題作品とあわせてお読みいただけると嬉しいです。

 今日は大好きなミワちゃんと待ち合わせ。

 こ、これはチャンスなんじゃないのか? 勝利の女神だか恋の女神だかが俺に微笑んでくれちゃっているんじゃないのか? フフッ、だが女神さんよ、悪いが俺の女神はミワちゃんだけなんだよ!……なんつって~。


 今の俺は無敵なのさ。なんたってすごいものを手に入れちゃったんだからな。夢のような薬だ。なんの薬かって? そりゃあ惚れ薬……と言いたいところだが、そんな女々しいことをするわけないだろ。


 ある物質とある物質をある方法で混ぜ合わせて、あることをするとな……へへへ。あの薬ができるってわけなのさっ! あ……いや、俺が発明したわけじゃないんだけどな。愛読雑誌の裏表紙に広告が出ていたんだ。



♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ 


新発売!【イケボ缶】


これであなたもイケメンボイスに!

甘く低い声に意中の彼女もイチコロ♪

通常価格3万円のところ、初めてご購入のお客様のみお試し価格9,980円にてご提供いたします。さらに今ならイケメン度をアップするマル秘グッズもお付けします。グッズの内容はお手元に届いてからのお楽しみ♡


♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ 



 わぁお! これだよ、これ! 甘く低い声で「ミワ、好きだよ」って耳元で囁くんだ。


 というわけでさっそく購入。それが昨日届いたってわけ。

 へへ~ん、どうだ! これでミワちゃんもイチコロだぜ!


 この薬、どんなものが届くのかと思ったら、酸素吸入の缶みたいなやつだった。ほら、あれだよ、あれ。パーティグッズでよくあるだろ? 吸い込むと変な声になる……あ、そうそう、ヘリウムガス? あれみたいなやつだ。


 でもそんなものをミワちゃんの目の前で吸うわけにはいかない。男は見えないところで努力するもんなのさ。

 だから待ち合わせ場所の学食にはまずショウジを送り込んだ。そして俺はロッカー室でイケボ缶の吸引口からシューと出たガスだか霧だかを吸い込む。


 ……うむ。なにも変わった感じはしない。


 ためしに声を出してみようとして思うが、とどまる。


 いやいや、まてよ。今ここで自分のあまりのいい声を聞いてしまったら、いざミワちゃんの前に出た時に妙に構えてしまうんじゃないだろうか。俺、今から超イケボで告っちゃうぜ! って力み過ぎて噛んじゃったりしたら残念すぎる。それに俺の初イケボは俺自身よりも先にミワちゃんに捧げるべきだ。


 俺はスマホでショウジに「5分遅れる。コーヒーでも買って待っていてくれ」と打った。早く着いてあれこれ話しかけられるのを避けるために敢えての遅刻だ。これもイケボ第一声をミワちゃんに捧げるため。


 俺が学食に足を踏み入れると、反対側の入口からミワちゃんが紙コップを3つ乗せたトレーを持ってそろそろと歩いているところだった。


 おお。なんて危なっかしいんだ。かわいすぎるぞ。


 俺は既に席についているショウジの肩をポンと叩いた。

「お。来たか」

 ショウジが言う。だが俺はヨッと片手をあげるだけに留めた。お前になんぞイケボ第一声を捧げるわけにはいかない。


 それからさりげなく近くの椅子を少し通路に引っ張り出してショウジの向かいの席に腰を下ろした。

 ミワちゃんはトレーの上の紙コップばかり見て歩いている。きっとドジ子ちゃんは椅子の足につまずくだろう。そこをすかさず支えるんだ。彼女はきっと照れたように俺を見上げて言うだろう。「ありがとう……マルオ君……なんて優しいの」てな。それでも俺はまだ声を出さずに笑顔だけで答えるんだ。


 あ、ほら、やっぱりつまずいた……って、おーいっ! ショウジ! なんでおめーが駆け寄っているんだよ!


 う。でもまあ、ミワちゃんを支えたんじゃなくて紙コップを掴んだだけだから見逃してやろう。


 ショウジは両手に持った紙コップを自分と俺の前にひとつずつ置いた。ミワちゃんはようやく席に着くとトレーに残された紙コップを両手で包み込んで湯気の立つコーヒーをじっと見つめている。


 か、かわいい……! かわいすぎてやばいぞ、これは! こんなかわいい子の耳元で俺はイケボを披露できるのだろうか?


 緊張のためなのかイケボ缶の成分のせいなのか、喉が異様に渇いていた。


 もうだめだ。ショウジがいようと構わない。ミワちゃんの耳元でなくても構わない。もう今すぐに俺のいい声でミワちゃんに告るんだ。


 意を決した俺はコーヒーで喉を潤すと、口を開いた。


「あのっ……ミワちゃん!」


 ミワちゃんだけじゃない、ショウジまで驚いた顔で俺を見た。


 だが残念だな! 一番驚いたのはこの俺だ!



 なんだこれ、ヘリウム缶じゃねぇかよっっっ!!




♡ おしまい ♡

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 一所懸命マヌケですごく可愛かったです。 キュートな彼にやられました。 ありがとうございました!
[一言] 単品で読ませていただきました。が……面白い!! 面白すぎました。これはもうお題作品も読ませていただくしかありません。 こういうおバカな男の子は大好物、いえ。大好きです。マルオというネーミング…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ