2・ブーム到来
結論から言おう――拒否られた。
カネさえ出せば何でもやるって書いてあったのに。
まあ、出したら出したで「これだけでは何の依頼もできないですよ」と言われたがな‼
しかし俺は豆腐……関節が無いから、くじけない。(お上手!)
ここは路線変更といこう……依頼抹消ではなく、依頼内容の変更を狙うのだ。
説得――言葉という武器で、ねじ伏せてやろう。
「かくかくしかじか」そして俺は結論を言う。ドン!
「――つまり、トントロポロン討伐に労を取るより、トントロポロロンズ収穫に変えてトントロポロンを生み出さない方が、倫理的にも経済的にも効果的なはずだ」
実は俺、放送部出身だし? スピーチには自信が無いことも無いことも無い。
つまり、無い。完全にその場の勢い。ファック‼ 拒否られる可能性大!
「……私には判断できかねますので、少しお待ちください」
そう言って受付嬢(ポニテ可愛い)は奥の部屋に下がっていった。
上司に判断をあおぎに行ってくれたようだ。検討してくれるみたいで有難いね。
ナイスな判断を期待して待ってます。
さーて、待っている間はギルドの中でも見ますか。
ざっと見る限り想像の範囲内な施設だが、それでもなんというかな、ワクワクするものがあるね。
まずはココ、受付。貼り出してある依頼を冒険者が受諾したりするところやね。
横のカウンターは素材買取コーナーっぽい。毛皮とか草とか置いてある。
ほかには食堂・酒場も併設されている。依頼から帰ってきた時に休憩したり、冒険者同士で何か話し合う時に便利そうだ。
現に、冒険者らしき人たちが十人くらい座っている。
座って……こっちを見ている。こっち見んな。
ま、首がズレてるところ見られたし、奴らからしてみれば「中身どうなってんの?」って思うよな。
それ以前に黒衣で全身隠してる奴とか、気になって仕方がないだろう。
やれやれ……見るのを許してやるよ。
ふう、やれやれだぜ。やれやれ……困った奴らだ。
俺の中で『ニヒルにやれやれする』という流行が突発的に到来していた最中、食堂にいたガン見連中の一人(青年)がこちらへと向かってきた。
やれやれ……何のようだ?
「おい、マイカさんに迷惑かけるんじゃねぇよ」
「……受付嬢のことか?」
「そうだよ。さっきからぐだぐだぐだぐだ、何言ってたんだか知らないが、ガキの話に付き合わされるマイカさんの身にもなってみろ」
ははあ。こいつ、受付嬢のこと好きだろ絶対。
「……好きなのか?」
「へ?」
「受付嬢のことだよ」
「ばっ、馬鹿言え‼ べべべ別に好きじゃねぇし!」
いや、慌てすぎだし顔真っ赤だし。好きだろ絶対。
「本当か?」
「本当だ! マイカさんのことなんて全ッ然、これっぽっちも好きじゃねぇ‼」
「え……?」
「「あ」」
戻ってきた受付嬢に聞かれてしまった。これアカンやつや。
「別に……好かれてなくても結構ですが」
といいつつ、目に見えて落ち込んでいる受付嬢。
全力で否定されたんだものな、そりゃこうなる。
「違うんです、マイカさん!」
「いいの……自分でも分かってるから」
いや、マイカさん、アンタ全然分かってないから。
やれやれ……俺にも責任の一端はあるし、手助けでもしてやるかね。
「受付嬢、勘違いしているぞ」
「……?」
「この青年はあなたのことが好きなんだが、好きすぎておかしな態度をとってしまったんだ。先ほどの言葉も照れ隠しにすぎない……そうだろ?」
青年に問いかける。さあ、勇気をもってこたえるんだ。
冒険者なら冒険しやがれ。
「……ああ」
「え?」
「そうだよ、そうさ。好きさ。オレはマイカさんの事、好きなんだ」
「ニック君……」
なんだかおもしろいことになってきたぜ。
受付嬢は何て返すんだい?
「ニック君、ありがとう……嬉しいわ」
「え、いや、嬉しいって言ってもらえて、こっちが嬉しいっていうか……」
「でもね――」
あ、これアカンやつや。
「私、好きな人がいるの……ごめんなさい」
「……………………誰です? せめて、それだけ教えてください」
「……レナードよ」
「レナード……18歳という若さでSランク冒険者になり、《剛剣》という二つ名を持っているあのレナードか。……そういえばこの街にも何度か来ていたな」
説明ゼリフやめろ。
「マイカさんは強い男が好みなんですか?」
「ええ……だから、ごめんなさい」
「いえ。納得できました。俺はEランク冒険者……レナードにはかなわない」
やれやれ。そんなこと言いながら……目が燃えてるじゃんかよ。
「目標が出来ました。旅に出ます」
「「…………」」
Eランク冒険者ニックは旅立っていった。
なんつーか、頑張れよ、ニック。
「あ、マロゾロンドさん。先ほどの件、ダメです」
「…………フッ」
俺もフラれちまったか……やれやれだぜ。




