1・村長の案尊重!そして俺慎重!YEAH...
戦いに勝利した俺たちは、殺しにかかってきた村人を許してやることにした。
いや、さしもの俺も、始めは許す気なんて無かったけどね。
一丁たりとも欠けていないとはいえ、穴だらけにされた奴らだっているんだぜ?
だけどよ……。
[:::]「(ぷるぷる)」
当の本人たちが――いや、本豆腐たちが許すって言ってるんだ。
感動とかそういう感情とは無縁の俺も、これにはプルっときた……。
そんなわけで、豆腐戦士のフトコロの深さを見せつけるだけにとどめたんだ。
いや、あるいは……見せつけられたのは俺の方かもな……血気に逸っていた俺を、豆腐戦士たちが鎮めてくれたのかもしれない。
俺もまだまだ、やわらかな豆腐の心には成れていなかったわけだ。
やれやれ、『豆腐は一日にして成らず』だな。
……すまん、自分でも今の言葉ワケわかんなかった。
さて、そんな俺は今。
みんなを外に待たせてたった一丁、村長宅におしかけていた。本当の村長のな。
俺が(仮)と呼んでた方はただの偉そうなジジイで全然村長じゃなかったわ。
そのせいで……
『いい機会だ(仮)、まずはこの世界のことを教えてもらおうか』
『トントロポロンよ、ワシは村長では……無い!!!』
なんてことがあって、恥ずかしッ恥ずかしッ///
豆腐戦士たちが見てる前でやらかしてしまったわ。黒歴史ですわ。
改めてまともな人に聞く事にしました。はい。
「こちらにかけてくれ、トントロポロン殿」
村長は家の床に木製の皿をおくと、そこへのるよう俺をうながした。
俺が「感謝!」といって皿にのると、村長はようやく床にすわった。
豆腐に対するこの配慮……デキるッ‼ なんて気がキく村長なんだ!
「まずは謝罪を。すまんの、村の衆が迷惑をかけた」
「……いや、襲われても仕方のない食べ物――いや、生き物だったと今は痛感している。負傷した者も気にしていないみたいだから、過ぎたことは水に流そう」
「……ほんに不思議なトントロポロンじゃのう、ほほほ」
このおじいちゃんキャラ、好きだな俺。まあ、実際おじいちゃんなんだけど。
ともあれ、向こうから謝ってくれたのもあって、こちらも豆腐な態度で接することができた。
でもタメ語でごめんね? 今や別種族、豆腐の戦士長として毅然としなくちゃいけないんだッ‼
「さて、聞きたいこととは何かのぅ?」
「たくさん……たくさんある。それでもいいか?」
「うむ」
うなずく村長の顔は、「いくつでも答えてやるぜ」って顔だった。
厚意に甘えさせてもらうぜ。
じゃあ、まずはこれを聞こう。世界うんぬんより大事なことだ。
「料理することでトントロポロンを食べられないだろうか?」
猛毒を持つフグだって毒を抜いたら食べられる。
味が薄い食材だって味付けしたら美味しく食べられるはずなんだ。
腹痛を引き起こし味も薄いらしい豆腐戦士だって――
「無理じゃ」
へえ……えらく言い切るじゃないか。
「それは……どうして?」
「言葉には力がある。ゆえに『トントロポロン』が『トントロポロン』であるかぎり、何をしようとも食べ物にはならぬのじゃ」
ほほう……意味わかんね。
「すまない、もう少し詳しく」
「『トントロポロン』という言葉に<食べ物>という力が込められておらんといえば分かるかの? 火であぶろうと、調味料を加えようと、他の食べ物に混ぜようと、<食べ物>という力がなければまるで意味をなさぬ。無理に食べれば体に異常をきたすだけじゃ」
「…………」
「逆に、『トントロポロロンズ』には<食べ物>という力が込められておる。じゃからみなこれを食べる。食べ物でないものは食べられず、食べ物は食べられる……当然のことじゃな」
オーケー、分かった。
力っていうから分かりにくいんだ。『属性』があるかどうかってことだろ?
属性――火属性、水属性、闇属性……食べ物属性、みたいな。
で、トントロポロンって言葉は食べ物属性を持ってないから食べ物じゃないと。
食べ物として認められてないから、ユキヒラソー㋮とか、クッキングパ㋩゜とか、ワンピのサン㋛゛とか、つよきすのな㋙゛みんとか、料理上手な人に任せたとしてもダメってことやね。
えっ、何それこわい……‼
てかこの世界ってそういうルールなの⁉
『トントロポロロンズ』から『ロズ』って2字抜けただけでアウト?
同じ豆腐なのに? 力ってか呪いですやん。
あ、名前アウトなら改名すればいいんでない?
「俺の名はトントロポロロンズ。さあ、おあがりよ(めしあがれ)」
「む、無理じゃ。上面を変えても力までは変わらぬ」
「おそまつ!」
クソ……豆腐戦士のプライドなげうってこれか。
ぼろぼろと型崩れした豆腐のような心境だ……。
でも、それでも、食べ物になることを諦めきれないんだなこれが。
だって諦めたら、豆腐戦士には行くあても帰る場所も無くなっちまう……。
そんな悲劇、シェイクスピアも書きたがらないぜ。
だから俺は、諦める気なんて豆腐1㎝角も無い。
「ふううむ……諦めておらんようじゃな……」
「ああ。本当に方法は無いのか? 俺は一縷の望みにだってかけるぞ」
「……心当たりがないでもないの。村におとずれた旅人が言っていたことじゃから、嘘かまことか分からぬが、それでもよいのなら……聞くか?」
ぷるっ! 俺は縦に震えてうなずいた。
「よかろう、しかと聞くがよい……この世界のどこかに、『言語学者』という、言葉の力を探求する者らがおるらしい。巷では『魔術師』とも呼ばれておるのだとか。にわかには信じがたいことじゃが、言語学者の中には言葉の力をあやつる者もいるらしいのじゃ」
言語学者? 魔術師の方が異世界チックだから俺は魔術師と呼ぶことに決めた。
で、その魔術師は言葉の力をあやつれるっぽい。つまり、
「魔術師に会えれば……」
「うむ。<食べ物>の力もどうにかなるのかもしれんの」
魔術師に会って、食べ物属性をゲットせよってか。
分かりやすいじゃん。
いいぜ、どこにいるかわからない魔術師とやら、探しだしてやるよ。
豆腐戦士を食べ物と認めない地獄の世界。
そこにたれてきたひとすじの糸。
この糸にすがりついてどこまでものぼって行けば、
きっと地獄からぬけ出せるに違いない。
俺はそう信じて、この世界をスイ~とゆこう。
ただ一丁だけだと心細いからよ、外で待ってるやつらも誘ってみよう。
みんなでスイ~すれば、楽しい旅になりそうじゃないか?
よっしゃ。冒険に出発だぜ! 待ってろよ魔術師‼
「あ、次はこの世界の常識とか教えてくれるだろうか。あと地図とかある?」
「うむ」
この豆腐、勢いだけじゃない……確認もおこたらないぜ!
そして俺は旅に出た。
ぷるぷるとふるえる、三十丁の戦士とともに。
第一章、完
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