2・団員ナンバー003.の驚愕
聞き忘れたことがあった。マイカさ~ん!
「はい、何でしょう?」
「FランクからEランクに上がるのにどれぐらいかかります?」
「だいたいひと月ほどでみなさん昇格してますね」
「ほほう。では一番早い人だと?」
「うーん、私が知る限りでは、朝登録して翌日の昼に昇格だったかと。これはよほど運が良くなければ無理な早さですね。無理に急ごうとせず、着実にこなしていくことをおススメしますよ」
「ウス、あざっす!」
一日とちょっとか……ふむ、ヤバイな。何がヤバイって、急がずともその最速記録、ぬり替えてしまうかもしれんからな。
何せこの体、疲れ知らずの眠りいらず……人間どもがスヤスヤ眠っている間にもスイスイ動けるし。しかも31丁に分離してそれぞれが自立行動できるときた。
そ、そんなのチートや、チート!
イヤ、違フ……チがフ……フート、トーフや!!
などとアホなことを考えつつ、ギルド内に貼られている依頼の数々を眺める。
依頼は『討伐』『採取』『護衛』『家事手伝い』の4種類にわけられてるけど、狙い目はズバリ討伐と採取やね。それも依頼者が冒険者ギルドになってる奴。
他は依頼者と直に関わりそうで、やりきれるとは思えねぇわ……黒衣を脱げと依頼者に強要された時点でアウトだもの。
俺が頼む側だったら全身隠した奴とか信用ならないし、絶対に脱衣を所望する。あわよくば美少女だったりしないかなぁと期待しながら。
そんで期待した中身が[・∀・]だったらショック死する自信あるわ。
てなわけで、討伐か採取からチョイスしたいところだが……。
なにぶん新人なわけでして、どれがいいやらサッパリだ。
「何を受ければいいか分からない……そんなご様子ですね」
「マ、マイカさん!」
後ろから受付嬢様がご降臨なされた。
「そんな新人冒険者の方におススメなのが、コチラです」
手を向けた先には――
『採取/薬草:2本あたり銅貨一枚、功績ポイント1』
薬草採取! 依頼者は冒険者ギルド!
2本で1Pか……50PでEランク昇格だから、100本集めるだけでええやん!
いける、いけるぞ!
「これが新人の進むべき道……‼」
「はい。誰でも出来ますから」
「この依頼、受けましょう」
「かしこまりました。薬草の見本はあちらに置いてありますので、分からない場合はご確認ください」
「アザーッス!」
何から何まで助けられてしまったな。
気配りに感謝しつつ、スイスイと見本のある素材買取コーナーに移る。
これが見本か。へぇ、薬草って特徴的な形してんのね。葉っぱがトンガリ帽子みたいな形をしていて、球根はナイスバデーな女体みたいな形してら。
葉っぱはトンガリ帽子、球根は女体!
お前ら、覚えた?――「「「(ぷる!)」」」――いいね!
よっしゃ、あとは行くのみ。
薬草頂戴レッツ&ゴー‼
* * * * * * * * * *
街の外に出た途端、強烈な日差しが黒衣を襲った。
ウヘ、蒸し豆腐になっちまわあ!――と思ったのもつかのま、一面に影が差す。
もしやと思い空を見上げると、1体のドラゴンが通り過ぎていくところだった。
か~、やっぱドラゴンかっけぇわ。最強種族の貫禄あるわ~~。
もっと近くで見てみたいけど、空にしか興味ないみたいで降りてこないんだよな。ま、見れただけ良しとするぜ。
んじゃ、薬草採取といきますか。
みんな、分離だ! そう訴えかける様に震えると、もぞもぞと黒衣がうごめき、足元からスイーと一丁ずつ抜け出していく。
そしてこの場に31丁の豆腐戦士が並んだ。
31丁だから、1丁あたり4本確保すれば100本を超える計算となる。
明日の朝までに4本……多分余裕だろう。
「みんな、薬草をそれぞれ4本以上頼むぜ。集まらなくても朝までにはここに集合ね。つーわけで、散開‼」
「「「(ぷるぷる! ぷるぷる!)」」」
[・∀・ ]Ξ Ξ[ ・∀・]
[´∀`]彡 ∫∫∫ ミ[ ・∀・]
[・∀・]
みんながスイ~していくのを見届け、俺もまたスイ~するのだった。
* * * * * * * * * *
翌朝。
「フーハハハハァッ! 圧倒的! 圧倒的だな‼」
目の前に広がる薬草、薬草、薬草。
100本などぶっちぎって、300本はあろうかという薬草が目の前にあった。
「団員諸君、素晴らしい働きをしてくれた。おかげで我々は着実に胃袋へと近づいただろう。この調子でいけば食死の日は――近いッ‼」
「(ぷるッ! ぷるッ! ぷるッ!)」
ふるえの喝采が湧き、場の興奮は最高潮に達した。
演説とか超テキトーなのにお前ら盛り上がりすぎだろ……。
ま、そうやって反応してくれるのは嬉しいけどよ……へへっ!
さてと、ハリケーンウインドに凱旋しますか!
この薬草の数、マイカさんの驚く顔が楽しみやね……ってチョット待て。
足んねーぞ、団員の数が。1丁足りねぇ!
2、4、6……18、20……29で俺含めて30……やっぱりいない!
俺は周囲を見回す。
お、おおっ! 遠方からこちらに向かってくる豆腐戦士の姿が。
遅いぞ、心配かけやがってこの野郎!
ほんの少しだけあせっちまったじゃんかよ!
「……んん?」
奴、体に薬草くっつけてなくないか?
ははあ、遅れたのは薬草が見つからなかったせいか。ドンマイ!
――いや、違う‼ 何か引きずってるぞ……なんだアレは。
馬鹿な……大きい。土ぼこりが舞うほどの薬草を引きずっている‼
豆腐戦士にそれほどの膂力など……ハッ⁉
顔が――[>∀<;]――必死の形相に変わってやがる。
顔が変わるほど頑張って引きずってきたのか……すげぇじゃねぇかよ。
良し、個性ゲットっつーわけで、お前は団員ナンバー003.デクオと命名する。
頑張れって感じのデクオだ!
俺たちは見守った。
デクオが巨大な薬草を引きずり、俺たちを目指しているところを。
②④時間マラソンのランナーが完走する瞬間は個人的にクソどうでもいいけど、デクオのゴールだけは見逃せないぜ……!
そして――
――俺たちの元に……ゴォオオオオル‼ 完走ッ! 圧倒的完走ッ‼
すげぇな……豆腐戦士って頑張れば何でもできるんだな。勇気もらいました!
「(ぷる?)」「(ぷる?)」
「ん? お前らどしたん?」
「(ぷるぷる!)」
「え、何かおかしいって? 何が――あっ!!!」
デクオ……お前、コレ薬草じゃねぇぞ。
いや、気持ちは分かる。確かに薬草に似ている。
頭の部分はトンガリ帽子のようになってる。なってるっつーかトンガリ帽子そのものなんだけど。あとね、これは女体のような球根じゃなくて、女体です。
「おま、これ……人間ですわ」
[ ⊙Д⊙]「 (ぷる!!?)」
必死顔が超絶ビックリ顔に変わった。顔の変更有りなんかい。
デクオから変える必要があるな……お前の名前はビックラコキオに決定‼
ってそんな場合じゃねぇ!
「気絶してるみたいだが、この女を襲って持ってきたのか?!」
[ ⊙Д⊙]「 (ぷるぷる!!)」
「そこらへんに落ちてただって? んな馬鹿な……ん?」
あれ、この女……なんか……
「みんな、女を仰向けにする。手伝ってくれ」
「「「(ぷる)」」」
豆腐戦士が5丁並び、腹でピタッと体にくっつく。
せーので押すぞ。せーのっ、スイ~。
ゴロンとうつ伏せから仰向けに変わった女。
ウゲエエエ!
「血で真っ赤!!」
い、急いで助けなきゃ!! 救急車よぼ!
救急車……何番だっけ!?――ってアホか! 電話持ってないっつーの!!
それどころか救急車すらねぇわ! ヤバイ、パニック!!
「(ぷるぷる)」
「はっ! 街にかけこめってか!! うし、合体だ!」
31丁の豆腐が一体となり豆腐神マロゾロンドとなった。
黒衣バサァ! 薬草は草むらに隠し!
女を抱き上げてっと――あ、バランス的に無理! 引きずっていくぜ!
「キレイなオネエサン、死ぬんじゃねぇぞ」
俺たちはシューティングスターのように街へとランナウェイするのだった。
29歳くらいの女を引きずりながら――




