1/43
序
ああ……今、プツリと……
命の糸が切れたのが分かった……
しかしどうしてか、
失われつつある俺の魂は
誇らしさに包まれている……
「お兄ちゃん死んじゃやだあーー!!」
名も知らぬ幼女の声。
そうだ……まるで、使い古されたワンシーンのように……
車に撥ねられそうだったこの子を庇ったのだった……
『死』にゆく自分……
無力で、空っぽで、好きになれなかった自分。
今まで生きてきて、何者にもなれなかった自分。
最後だけ……最後だけは違ったか?
誇れる自分に……昔憧れたヒーローみたいな自分になれただろうか?
どうせなら最期までヒーローのように……
俺はなけなしの気力を振り絞り、笑顔で幼女に告げる。
「無事で良かった」
そして、全ての感覚は喪失した。
おとずれる眠りはあまりにも安らかで……こう願わずにはいられなかった。
――どうか、このまま起こさないでくれ、と……