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  作者: 涼暮月
13/13

余談:写真

駿が東側へ亡命した後の小話になります。

「隼人って覚えているか?中一の頃のクラスメイトの」

 駿が東側への亡命を決意して一週間ほど経ったろうか。駿の編入する高校も決まり、紬もいつものように高校に通い、駿がいる日常というものに、紬がようやく慣れ始めたころだった。

 家にいる時、駿と紬はどちらかの部屋に二人でいることが多い。駿が東側に亡命することを決めた時、多少の物が置いてあるだけでほとんど使っていなかった部屋が駿に与えられた。客間は客間として使うかもしれないし、机や本棚を置くのにはそこまで適していなかったからだ。

「えーっと……駿くんがよく話してた男子?」

 何となく、壁ができる前に駿とよく話していた男子がいたなぁ、という程度のことを紬は思い出した。どんな顔立ちだったか、とか性格はどういう感じだったか、とか、そういうことは思いだせないけれど。

「そうそう。あいつとは電子メールで連絡取ってるんだけどさ」

「へー、西と連絡取れるんだ」

「世界中と通信できないといまどき国が成り立たんだろ」

 それもそうか、と紬は納得する。

 壁ができた当初は全ての電信が停止され、その間に様々な電波電信事情の変更が行われたらしく、当時の紬たちではお互いに連絡を取り合うこともできなかった。きっと今では多少は制限が緩和されたのもあるだろうし、そもそも外国の企業のメーラーを制限し続けることは不可能なのだろう。

「それでさ、あいつ写真を送ってほしいんだって、俺とお前の」

「私と駿の?」

 紬と件の隼人という男子とは、壁ができる前もあまり接点がなかった。駿を通して、多少話したことがある程度だ。だから、彼が紬の写真を欲しがる理由がいまいちよく分からない。

「あいつが言うには、俺がいちばん幸せに見える写真は二人で写ったものだろうと。壁を越えて東側に来ようと思ったのも、あいつに背中を押してもらったからだし、きっとかなり気にかけてくれてたんだと思う」

 駿は目を細めて、ふと遠い風景を見るようだった。

 そんな表情を見ると、紬は不安になる。せっかくまた会えたのに、せっかくまた一緒にいられると思ってるのに、またどこか遠くへ行ってしまうのではないかという、漠然とした不安。

「駿くん」

 上半身を乗り出して、紬はその名前を呼ぶ。

「どうした?」

 気圧されたのか、駿は少しだけのけぞった。

「好きだよ」

 きっと、今の自分の表情は、いっぱいいっぱいだろう、と紬は思う。じっと駿の眼を見つめて、きっと頬を紅潮させながら、それでも想いを言葉にしてぶつけた。そうしないと、駿がどこかに行ってしまいそうな気がして。

 駿は眼を逸らして、左手で前髪をいじくり始めた。

「えっと、紬さん……?」

「駿くんのことが好きだから、ずっと離したくないから、心配になるんだよ。たまに遠いところ見つめてるから……」

 言い終えて、ぎゅっと紬は唇を結んだ。何というか、重い言葉だ。時には自分の想いをぐっとこらえて、胸の奥にしまいこむことも必要なんだろうけど、駿が目の前にいるとつい重い言葉でも紡いでしまう。三年間の空白は、きっと思っていた以上に紬には厳しいものだったのだろう。だから、誓いの言葉を贈られた今でも、不安に思うし安心を求めるのだ。

「……紬、まぁ確かに俺は西側の人間だったから西側を懐かしく思うこともあるかもしれない。けれど、俺が生きるのは東側で、お前の側しかないんだ」

 駿は優しい笑みを浮かべていた。彼が誓ってくれた永遠は、きっと彼の中ではとても重い意味を持つのだろう。その言葉を疑っているつもりは毛頭ないが、けれど、それでも不安になってしまう。ひどい女だと自分でも思うけど、どうしようもないのだ。

「写真……」

 紬はふと呟く。そうだ、写真を撮るという話から始まったのだ。二人で仲良く写る写真という確かな証があれば、少しでも不安はなくなるかもしれない。

「あーそうだ。隼人に送る写真、スマホで撮ればいいか」

「いや、デジカメでちゃんと撮ろうよ、うちにあるから」

「いいけどさ、なんで?」

「えっと、ほら、私の机の写真も新しくしたいし」

 紬の机の上には中学校の入学式の時に二人で写った写真が飾られている。この時にはまだ、紬と駿はただの幼馴染みだった。そんな微妙な関係を象徴するかのように、二人の間には微妙な空間が存在している写真だった。

 だから、一応結婚も申し込まれ、単なる恋人ではなく婚約者と胸を張って言える今、机の上に飾れるような新しい写真が欲しい。

 それが幸せの象徴だろうから。

「あー、じゃあ俺も飾ろうかな。それなら三脚を持ってさ、ちょっと風景が綺麗なところで撮らね?」

「グッドアイデア!」


 ぴったり寄り添った写真の中で。

 幸せな笑顔を咲かせてみよう。

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