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花火大会はこの町を賑やかす

作者: ゆまち春


 ――――1


 彩の国で知られた県の中心で長年名を馳せ、ときに合併もした俺の地元では、年に一度大きな花火大会がある。駅の裏手の公園を会場にあつらえ、屋台も警備員も浴衣女子も整然さなんて忘れて祭りに浮かれる。


 風でも止まる武蔵野線から吐き出された遠縁の人ばかりでなく、地元住民までもが毎年あるのに飽きず熱に侵される。


 花火は耳目を引き付けるだけに止まらず、心をも釘づけにする。

 事前告知に余念はない。チラシは至るところの掲示板で見かけ、当日には昼間から合図の空砲が鳴りやまない。


 だからいざ花火が始まる夜の帳が下りたこの時間には、浴衣を着ているカップルや友人同士、自転車で坂を思い切り下る家族連れがこぞって花火会場がある駅へと向かう。浮き立つ人々は、花火が打ちあがる駅と反対方向に目をくれることなんてしない。


 ベランダから花火を見る。駅まで歩いて三十分の俺の家からでは、花火と音がズレて聞こえる。迫力も臨場感も足らない米粒より少し大きいくらいの花火玉は、夜空に小さな大輪を咲かす。目線より幾ばくか高い位置でその数を増やしたり減らしたりしていた。

 電線の合間に収まる、たまに上下隣の電線にとびかかったり。赤ちゃんのてのひらに収まるポケットサイズ花火。観覧ご希望の方は俺の家のベランダまで。花火会場みたいな喧噪はなく、浮かれる人もいないから静かですよ。

 遠目では形がわからないから、どれも色だけ違う似たり寄ったりの花火に見えた。思う以上につまらない花火とは反対方向の空に目をやると、半月が浮いていた。今宵、花火が打ちあがる宵闇に、毎晩存在する月を見る人などいるわけがない。それも花火と逆方向なら尚更だ。

 

 休めばいいのに。


 毎日休まず働くルナ様。たった一日、必要と思われない日は休んだっていいじゃないか。それでも月は空を漂う。そんな頑張り屋を誰も眺めないなんて悲しいじゃないか。だったら、たった俺一人だけど、月を見上げていよう。


 ベランダに誰かが入ってきた。網戸を開け、スリッパを履いたそいつは猫避けタイルの踏み潰しながら歩いて、「お兄ちゃん」と俺を呼んだ。


「お兄ちゃん、花火大会に行こう。彼女どころか友達すらいないお兄ちゃんのために、今年は友達の誘いを断った私がお兄ちゃんと花火大会に一緒に行ってあげるよ。準備して」


 俺が断ろうと振り向くと、すでに妹はベランダから見える小さな花火に目を輝かせていた。犬の尻尾のように触れた腰には、黄色い花が咲いていた。見たことがない。妹は、卸したての浴衣を着ていた。腕にはキャラクターが描かれていない大人用の巾着も持っている。


 もしもここで俺が断ってしまえば、来年には高校生になる妹は一人で花火会場に行くことになる。もしくは、成長盛りで来年には着られなくなっているかもしれない新品の浴衣を使わずに押入れに収納するかもしれない。

 それはあんまりにあんまりだろう。


「わかった。着替えるから玄関で待ってろ」

「え、それでいいじゃん」

「これはパジャマだ」


 見える花火くらい小顔の妹はてってこ部屋に戻っていった。

 俺はベランダの下を通る人らを観察する。男子大学生は花火会場に、どんな服装でいけば普通だろうか……。


「お兄ちゃん、それは寒いと思うな。Tシャツ一枚は寒いと思うんだ」


 玄関で妹の私服チェックを通るために、わざわざタンスからチェックの服を取り出した。


「うん。オーケーだね。それじゃあ花火大会に向けて、レッツゴー!」


 俺が靴を履く前に妹は家の外に飛び出た。慌てて追いつき、財布やら携帯を持っていることを確認する。

 肌に感じる温度がいつもより暖かい。家の前は人通りもないが、密度の高い大通りから暖気が流れ込むようだった。大きな血管から末端まで血を巡らせるようで、町は息づく。


「待つんだ妹」

「どうしたのお兄ちゃん」


 大通りへと直進する妹の肩を掴む。このまま道を妹に誘導されるのは不都合があった。


「花火大会の日には、悪い奴らがたくさん出没するんだ。彼らにとって油断した遊び人は格好の獲物だからな。今だって、お前は家の鍵をしめようとはしなかっただろう」

「うん。だって中にお兄ちゃんいたし……」

「それでもだ。強盗にスリにひったくりに物取りとか、それに置き引きだって起こるんだ。花火大会の日というのは危険がたくさんある。だから、道の先導は俺に任せてくれないか」


 妹は少しばかり目を細めたけど、何も言わずに頷いてくれた。


「よし。まず、大通りというのは歩いてはいけない」

「え、どうして? だって大通りの方が人がたくさんいるから、そういう泥棒とかに限らず、露出狂や痴漢とかヤンキーみたいな人に会わないんじゃないの」


 正論だった。妹の危機認識の能力に花マルをあげたい。

 これが地元民さえ沸く花火大会じゃなければ、俺は迷わず大通りを歩いていた。


「甘いぞ妹。悪者っていうのは知恵を働かせるんだ。あいつらはいつも裏の裏の裏をかいてくる。だから俺たちは裏の裏の裏の、そのまた更に裏をかいて大通りを避けるべきなんだ」


 妹が「うらのうらの……」と指を折りながら考えていた。でまかせがばれないように、早口で押し倒す。


「悪い奴らのなかには泥かけ大好きな人間もいる。新品の浴衣なんてあっという間だ」

「人に泥をかけて楽しい人がいるの? そんなの変だよ」

「変だがこれが現実だ。なんだったら泥以外にもぶっかけてくる奴がいるから、俺から絶対に離れるなよ。わかったか」

「……うん。わかった」


 さっきまで指折り数えて口をすぼめていた妹は、ようやく元気な足を止めてくれた。納得してくれたらなによりだ。花火大会が終わったら、夜道に路地なんて通るなと教育しなおそう。


 先導権を見事握ったところで、俺たちは駅にまで繋がる大通りを迂回した。


 花火はどれくらいやっているのだろう。そもそも見にいくことなんてありえないと思って、花火の終了時間なんかを確認していなかった。子供が見ることも考慮すれば、九時には終わるはずだ。夏は夜が始まるのが遅いから、花火師はそういう時間調整も含めて大変な仕事だろう。最近は協賛企業をアナウンスすることも多い。今も、「どこどこスーパー」のと言っていた。てかおい、今の俺のバイト先じゃねえか。リア充御用達の花火イベントに金払うくらいなら俺の給料を上げてくれ。


 住宅街の一角を曲がる。そこからだと木々がなく、高いビルもないおかげで、ベランダから見るよりかは少し大きな花火が確認できた。


「わーい。ネジみたーい」


 同じ花火を見ているはずなのにどこからそんな感想が湧き出てきたのかわからないが、走る妹を諫める。


「待つんだ妹。ここは迂回だ」

「え、どうして。だってこっちの方が近道だよ」

「あそこに人がいるのがわかるか」


 家の前に椅子を並べて花火を鑑賞する人らがいた。ここからでは見難いが、きっと男女一組様だ。しかもあの家はたしか、俺の中学校のマドンナが住んでいたはずだ。笑顔どころか素顔さえ可愛いかった。小学生のときは可愛すぎてテレビCMに抜擢されたぐらいだ。


「あれは食人花なんだ。うっかり花火に見とれた通行人から金銭をいびったり思い出の毛まで毟り取ったりするんだ。俺たちはその罠にはまっちゃいけない。迂回路を通ろう」

「そっか。わかったよお兄ちゃん」


 その先、住宅街は食人花ばかりだった。そのたびに妹は、何度も同じ台詞を使った。


 呆れた先生のように。疲れて帰ってきたときの父親のように。仕事が上手くいって自分にマルあげる俺のように。まるで何もかもわかっていると慈母のような笑顔と共に。


 ――――2


 迂回路に迂回路を重ねた。たかだか地元駅までの道のりなのに、母親探しの三里より歩いた気がする。

 それでも、花火は元のサイズが大きいから、その輪郭も段々と大きくなっていった。

 俺は道の分かれ目でしばし逡巡した。


「どうしたのお兄ちゃん。あっちは大通りだよ。こっちを通るんでしょ?」

「……いや。あっちを通ろう。妹、あれがなんだかわかるか?」


 俺が指さした空を妹も見る。協賛企業のアナウンスの最中は花火が打ちあがらないため、星も雲もない夜空は真っ暗だった。


「何も見えないよ」

「よーく見てろよ。花火の明かりを頼りに見るんだ」


 自分で言っていて、まるで蛍を妹に示しているみたいだった。そんなに綺麗なものならどれだけよかったか。けれどその先にあるのは、信号機みたいな色して掲げられた提灯と、乾杯の音頭で笑う大人や子供の姿だった。


「ビアガーデンだね。マンションの上ってことは、住人参加かな。あの場所だと花火もよく見えそうだね。よくおばあちゃん家の町内会でお盆のときにビアガーテンやってたよね。懐かしいな、くじでおもちゃ貰えたりして。それがどうしたのお兄ちゃん」

「よく聞くんだ。あそこにいるのは悪の手下だ。花火の明かりを灯台のように活用して、下を通る人を観察している」

「……一応聞くけど、どうしてそんなことをしてるの? あのマンションに私の友達も住んでるんだけど」

「金目の物を見分けるためだよ。あいつはいい時計をしているだとか。あいつの靴はボロっちいだとか。あの可愛い子の浴衣は新品だ、とか。こういうときは目立たないように大通りに逃げ込んだほうがいいんだ」


 妹は自分の浴衣が大切なんだろう、裾が切れていないか背側を確認したり、帯や胸の襟を正し始めた。


「そっか。うん、わかったよお兄ちゃん。大通りに行こっか」


 マンションを挟んで向こう側の大通りに出る。すぐさま、俺の手は元の道へ強く引っ張られた。妹が俺の腕を掴んでいたのだ。尋常じゃない力で体ごと腕をもっていかれ、足がつっかかりそうになるのをなんとか堪えた。


「どうしたんだ?」


 俺が訊くと、妹は俺の胸に飛び込んできた。


「い、妹? えっと、お前は確かにかわいいけれど、妹は妹だからそんな女として見てるわけじゃ……。大体まだ中学生だし」

「うっさいお兄ちゃん。今はそのためじゃない。いいから動かないで」


 妹は体を小さく閉じ込め俺の影に隠れるようにしながら大通りを伺っていた。体を反転させたら妹に怒られるので、耳だけ大通りにそばだててみた。なんだか家族連れっぽい子供の叫び声や、高校生っぽい姦しい騒ぎ声が聞こえる。至って普通の祭りの喧噪だ。……まあ、あんましお祭りに参加したことないから、これが本当に普通なのかと問われれば推定の修飾語を足さなければならないが。


「悪の手下が、大通りにいた」


 俺から離れた妹は、ようやく口を開いたと思ったら、俺みたいなことを言い出した。


「悪の手下?」

「そう。だからお兄ちゃん、大通りはやめよう。マンションの下を通ろう。私の浴衣はどうでもいいから……」


 声は、俺にくっつけていた体よりわかり易く震えていた。俺は顔だけ出して大通りを偵察した。駅に向かう道に、先ほどの姦しく騒ぐグループを見つけた。

 背中しか見えなかったが、彼女たちは妹と同じ黄色い花を染めた色違いの浴衣を着ていた。お互いに同じ花簪をつけて歩く彼女らは自信の塊に見えた。


 道の分岐点で待っていた妹の髪の毛は、何にも縛られず夜風に揺れていた。


「お兄ちゃん。私、疲れちゃったみたい」


 妹の足を見る。サンダルには裸足の小さな足が収まっている。外見からは怪我をしたようには見えないが、結構歩いたから、どこか痛むのかもしれない。


「足じゃなくてね、目が疲れたみたい。なんだかね、光だけが滲むの。点の筈の花火がね、滲んで線になるの」

「……妹。その疲れは癒える。だから悪の手下には屈するなよ」


 妹は巾着から自前のハンカチを取り出した。

 ここで帰るのは無惨だった。浴衣を一度も使わないなんて浴衣に可哀想だ。だから花火を妹に見せなければならない。


 けれど花火会場へは行けない。大勢が集う花火会場は、時間帯や人数によって見る場所を指定される。今いけば、悪の手下と妹が鉢合わせになるかもしれない。そうなれば花火どころではなくなってしまう。

 何か良案はないだろうか……。


「……妹。花火の見方には楽しみ方がいくつもある」

「……お兄ちゃんみたいに、花火から目を背けて月を見たりする楽しみ方とか?」

「それも一興だ。だがそれ以外にも数えきれないほど楽しみ方はある。ごく一般的で普通な楽しみ方は、高校に入学した来年、俺の超絶可愛い妹には味わう権利がある」


 彼氏なんかと一緒に、花火会場で花火を見上げる一般的な幸福が、妹には訪れて欲しい。


「だから今日は、特殊なコネを使って見る楽しい花火の眺め方だ」


 妹は冗談でも聞いたかのように顔を赤らめて笑った。


「コネって。お兄ちゃんに彼女も友達も彼女もいないのは知ってるよ」

「なんで同じの二回言ったんだよ。二人いたら男として最低だろうが。いいから俺に任せとけ」


 妹に先導させてマンションの下の道を通る。俺は携帯の電話帳欄にある「店長」にコールした。


 ――――3


 屋内の非常階段を妹が駆け上がる。浴衣だというのに元気なことだ。


「屋上じゃなくて三階だからな」

「わかってるよー」


 三階まで俺がのたのたと上がると、踊り場で妹が仁王立ちで待っていた。顔に「遅い」と書いてある。ならさっさと入ればいいのに。鍵は渡しただろ。甘えん坊な妹だな。


「早く開けろよ。絶対に誰もいない特等席だ」


 頷いた妹は、ノブを捻って鉄扉を押した。非常階段に風が舞い込む。それは夜風を更に高所で冷やした特注で、浴衣だけの妹がくしゃみをするほどだった。俺もTシャツ一枚じゃ風邪をひいていた。


 妹のサンダルが小さな音を鳴らす。その音は、コンクリートの床や天井一帯に反響する。やまびこもかくやという勢いで妹のスキップの音が反響した。


「誰もいない、貸し切りだ! お兄ちゃん。てんちょーさん、ほんとにいいって言ってたの?」


 俺が電話したのはバイト先のスーパーの店長だ。駅近くのこのスーパーは三階建てで、花火会場以外から花火を見上げる人には超邪魔でしかない立地だ。逆に、お店内部からは絶景のポイントとなる。

だが、店長の意向で、花火の日にはスーパーの駐車場を閉めていた。なんでも、花火が終わった後に駐車場がゴミだらけになったから禁止にしたらしい。そりゃそうだと思う。自分でゴミを片付けられない人のために店側が不便を被る必要なんてない。その掃除するの俺だし。


 電話した店長に事情を説明したら快諾してくれた。一重に人徳といっても構わないだろう。妹のために切れる最初で最後のカードだ。店長様には明日でにも菓子折りを持っていこう。


「もちろん。俺はバイトを真面目にやるから、使うぐらい構わないって。妹さんと楽しんできなってさ」

「いい人だねてんちょーさん」


 妹は笑いながら、スキップにターンも加えて両足で着地。が、着地の足音はそれ以上の音にかき消された。

 くじらの超音波のように攻撃的な爆発音が駐車場に舞い込んできた。

 それは反響して、四方八方からダイナミックな臨場感を……って、そりゃそうだ。だってここからだと、


「うわー! おおきい! すっごく、すっごく、すーごっく、大きい花火だあ!」


 とびきり特大級の花火が見えるんだから。近過ぎて光と音が同時にやってくる。


「4Dだよ!」


 車のない駐車場から外を見る。喉と鼻に針のようなものが入ってきて、胸をほのかに熱くした。


「馬鹿だな妹は。これは現実なんだから、映像よりもっとすごいじゃないか」


 上がった花火は、ベランダから見えたものとは比べもにならない。ベランダから見えた花火は指先でつまめたけれど、ここから見る大輪はどれだけ腕を広げても掴みきれそうにない。寧ろ、俺が包まれているかのようだった。


 ぎゅっと、心が驚きで握られる。

 それが心地よかった。


 手でメガホンを作った妹はお決まりの台詞を叫んだ。


「たまやー! たまやー!」

「違うぞ、こうだ。たまやー! かぎやー!」


 叫んでみると、胸がすっきりしていた。余計なものがなくなった場所に、花火の音や光が吸収される。


「かぎやーって何? 泥棒さんを警戒してるの。ひのーようじん」


 大切なことだが、花火をしている最中にいう言葉ではなかった。いや、最大限の警戒をしてるんだけどさ、プロの人たちが。


「鍵屋っていうのは、玉屋と同じで花火屋さんの名前のことだよ」

「ふーん。でも、たーまやー! の方が、声が張れて気持ちいいよ」


 確かにそうだった。だから玉屋ばかりが残ったのかもしれない。


「たーまやー!」

「何回目だよ」

「えへへ。何回でもいいじゃん。花火はこんなに綺麗なんだから。たーまやー!」


 寂しいのは嫌だろう。だから俺はもう一つを叫ぶことにした。


「かーぎやー!」

「かーぎやー!」


 ――――4


「すー……すー……」

「すいません店長。ありがとうございます」

「ああ。うん。お疲れ。ふふ。妹さん、寝ちゃったのね」

「はい。たまやーって叫んでたら疲れちゃったみたいで」

「若いっていいわね。楽しんでくれたなら、私も花火に出資した甲斐があったわ」

「……ありがとうございました。それじゃあ今日は失礼します」


 もう一度お礼を言って、俺はスーパーを後にした。


 花火会場から駅へ向かう人並みを避けてから歩き出したのに、それでも熱狂していた浴衣男女やお面を被った子供と同じ大通りを歩いている。四方八方で笑顔に笑顔。お腹から声を出して笑うことに無理がない。


 おぶった妹がずり落ちないように持ち直す。寝息が首にあたってくすぐったい。

 リラックスした人並みは、周りが見えているらしい。俺と妹にぶつかるような人はいない。俺も子供にぶつからないように足元を確認していた。

 

 寝こける妹は、大通りを歩いている俺の頑張りなんてわかってくれないだろう。本物の悪の手下と出くわさない兄の頑張りを誰か評価してくれないだろうか。


「……すー……ありが、とう。おにいちゃ……すー」


 思わず頬が緩む。いい、花火大会だった。


 駅を背にして空を見上げると、花火が終わった空に半月が漂っていた。

 もしかしたら、あの半月は休んでいたのかもしれない。年に一度のお祭りくらい、誰だって羽目をはずしたくなる。

 半月が、眠たい目をこじ開けて花火を見ようとするさっきの妹と重なった。

 

 花火大会は、この町を賑やかす。



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