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2-1

【キャシュトニーナ】


 ウワサってヤツは強力なウイルスみてえだ。あっという間に広まっちまう。


そのスピードはウワサの衝撃度しょうげきどに比例するらしく、最新のものはたった1日でフォート・マリオッシュ駐屯軍ちゅうとんぐんのすみずみにまで行き渡っていた。



「おい、知ってるか。あのとき絶対障壁ヘザーウォールをつくったのはブロックフィッチじゃなかったらしいぞ」


「その話なら聞いた。7人とも意識不明だったんだろ? 心臓が止まってたって話だ」


「だったらだれがヘザーウォールをつくったんだよ」


「プリズナートじゃないのか」


「それが、違うらしい」


「第3のミュウディアン部隊といううわさもある」


「おれは特殊能力ヴァイオスに目覚めた民間人だと聞いたぞ」


 大勝利の歓喜かんきがまだ冷めやらないマリオッシュじゃ、こんなウワサ話があちらこちらで聞かれた。


かん口令は敷かれていたけど手遅れだ。この分だと、民間人の間にまで広まってるかもしんない。



 マリオッシュの危機を救ったヘザーウォール。うちらがその真実を知ったのはリトギルカ軍を撃退した日から2日後のことだった。


ポネット総司令に呼び出されたプリズナートは驚きの話を聞かされた。


あのとき、ブロックフィッチは時間を取り戻してなんかなかった。7人の時間が動き出したのはきっかり24時間たってからだったんだ。


 じゃあよ、ヘザーウォールをつくったのは、だれだ?



 話はこれで終わりじゃなかった。それはひとりの兵士の目撃談だった。


マリオッシュでいちばん高い山、セレンツ山の(いただき)にはレーダー基地がある。そこで歩哨(ほしょう)をしていた兵士が尾根に立つ不思議な人影を見たと言うんだ。


それはちょうど司令が無条件降伏を決めた直後のことだった。


 ソイツは全身をまぶしい光に包まれて神々(こうごう)しく輝いていた。


なにかを空に解き放つような仕草をすると、上空へと舞い上がった光が四方八方に広がった。


広がりきったところで、光の先端は海へと下りていきマリオッシュ全島をすっぽり包み込んだ。


その後すぐに光は消えて、なぜか空を飛んでいた鳥の群れが次々と海に落ちはじめた。見えない壁に激突したみてえに。



「この話をプリズナートの諸君はどう思うかの」


 総司令はうちらを見まわした。


「ヘザーウォールをたったひとりで展開するなど不可能です」


隊長の言う通りだ。ブロックフィッチのメンバーは全員が防御に特化したミュウディアンだ。それでも7人も必要なのに、ひとりでなんてありえねえ。


「じゃが現にヘザーウォールは存在しとった」


 それは事実だ。だからマリオッシュは火の海にならずにすんだ。


「兵士が見たという特殊能力者ヴァイオーサーに心当たりはあるかの」


うちらは顔を見合わせた。


「ありません」


明言するも隊長はこむずかしい顔をしてる。


「そうか。ではおぬしらに突き止めてもらおう」


こうしてプリズナートに特別な任務が与えられた。



 なぞのヴァイオーサーはだれなのか。ひとりでヘザーウォールをつくったなんぞ信じられんが、それが本当ならミュウディアンに違いねえ。


ところが、マリオッシュ駐屯軍に登録されているミュウディアンは12人だけ。プリズナートとブロックフィッチのほかにはいない。


 もちろん、プリズナートのだれかってこともない。あの時うちら5人は総司令と一緒にいたんだから。


そもそも、うちはもちろん、他の4人にだってあんなことできやしねえ。ミュウディアンじゃないが強力なヴァイオスを持っただれか、ってえことになる。



 そんなワケでうちの感知パーシブとメッセル中尉の残留思念サイコメトリーとで、英雄探しをすることになった。


ふたりでヒトが集まる場所を中心に調べてまわっているところだ。ショッピングセンターや映画館、オフィスや工場、モロモロ。

 

 それにしても、どうして自分から名乗り出ないんだ? 


マリオッシュを救った英雄なんだから堂々と出て来ればいいだろ。


はずかしいのか、(つつ)ましいのか。それとも、ヴァイオーサーだと知られたくないのか。だとしたらその気持ちはわからないでもねえな。



 なんの手がかりさえ見つけられないまま3日目になった。もうマリオッシュにはいないんじゃねえの?


あーあ、腹減った。腹が鳴ってるの、メッセル中尉に聞こえてなけりゃいいけど。


「飯にするぞ」


突然なにを言い出すんだか。中尉はさっさと歩き出した。


「なにしてるんだ。行くぞ」


 そんなこと言ったって。


「に、に、任務の最中なんですけど」


「少尉の腹の虫が騒いでる」


デリカシーのないヤツ! やっぱりサイテー!!


「お、お、お腹の音なんて、き、聞かないでください!」


「聞こえたんだからしょうがない」


「そ、そこは、き、聞こえない振り、し、してください!」



 もう、うんざり。この際だから言ってやれ!

黙っていたらずっとこの調子だ。そんなのゴメンだ!


「わ、わ、わ、わたしのことは、ほ、ほ、ほっといてください」


メッセル中尉は、はじめて会ったときから印象最悪だった。言いたいことをズケズケ言いやがる。気をつかうってことを知らんのか!


「少尉と仲良くなりたいだけだ」


とみんなは言うが、仲良くなりたいヤツがあんな毒を吐くかよ!


「ど、ど、どうしていつも、わ、わたしをからかうんですか?」


 よく言った! なけなしの勇気を振り絞って抗議したってのに。


「からかう? そんなつもりはないんだが。知りたいのなら力を使えばいいだろう」


とんでもないことをこともなげに言いやがって! またうちをからかってやがる。


「そ、そ、そんなこと、で、できるワケないでしょ!」


「どうして? 人の本心を知ることができる便利な力を持っているのに、使わないのはもったいない」


 

 そんなことを言われたのは2度目だ。1度目は訓練生だったとき、マッカラーズ基地のリアンクール少佐に言われた。


「あなたは素晴らしい能力を持っているのだから自信を持ちなさい」と。


 でも、やっぱりうちはこの力が大キライ。だれだって心の中をのぞかれるのはヤなんだ。うちだってそんなことされたらはずかしくて死んじまう。


だから、ふつうのヤツラがうちをさけるのは仕方ねえんだってわかってる。


ヴァイオーサーのヤツラがあからさまにうちをさけないのは、読心リーディングとパーシブを正しく理解しているからだ。それでもやっぱり、仲よくしようなんて物好きはいねえ。


ウルリカさんは別だけど。



 ウルリカさんは同じ部隊じゃないから一緒に任務につくこともない。ムリにうちと付き合う必要なんかないんだ。それでも親切にしてくれる。


プリズナートの連中は同じ部隊だからしょうがなくうちと一緒にいるだけだ。それがわかっていても居心地がよくて・・・・・・


だからこそ、おびえたように目をそらされたらと思うとこわくてたまんねえ。


 メッセル中尉だって、一度でも心を読まれたりしたらきっとうちをさけるようになるんだ。からかわれるのはヤだけど、さけられるのはもっとヤだ!


なんと言われようと、任務で必要なとき以外、力を使ったりはしねえ。特にプリズナートのみんなには。



「も、もういいです」


 うちがそっぽを向くと


「まともにコミュニケーションもとれないのか」


言いたい放題言いやがって!


「ちゅ、中尉が、わ、わたしをからかうからです」


「いいや、違うね。少尉は、わざと、他人の心を理解しないようにしているんだ」


「!!」


 言い返すことはできなかった。メッセル中尉の言う通りだ。うちは心をのぞいたと誤解されるのがこわくて、他人の気持ちには無関心でいるようにしていた。


ズバリ言い当てられてぐうの音も出やしねえ。


「じゃ、じゃあ、わ、わたしはどうしたらいいんですか。お、教えてください」


くっそー! もう涙目だよ。


「普通にしてれば」


すごく新鮮な言葉を聞いたような気がした。うちはふつうじゃない。だからふつうに他人と接することはできない。ずっとそう思ってきた。

でも・・・・・・



「とにかく飯にしよう」


 メッセル中尉はさっさとレストランに入ろうとしてる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「“20食限定、本日のおすすめランチセット”でいいな」


「か、勝手に決めないでください。そ、それはメニューを見てから、、じゃなくて、い、い、今は任務中ですってば!」


「レイン少尉が空腹のため力が使えなくなったので栄養を摂取(せっしゆ)させました。隊長にはそう報告しておく」


 あ、そう。うちをダシにするんだ。もう勝手にしやがれ!


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