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5-3

【キャシュトニーナ】


 やっとのことでたどり着いた動力室にはだれもいなかった。早速、爆弾のセットにとりかかる。


なんじゃこりゃ? 


気が付くと手の平にのるくらいの球体がふたつ、空中に浮かんでた。ひとつはセイラガムの方へ、もうひとつはうちの方へ近づいて来る。


 それがなんなのかはわからねえが、、ヤバい気がする。


とっさに球体から離れようとしたとき左足に激しい痛みが走った。床に倒れ込んでうめきながら振り返る。太ももから血が噴き出していた。


床にちっこい鉛玉(なまりだま)が落ちてる。コイツがうちの足をつらぬきやがったのか。


 どこから? 確かめる間もなく続けざまに玉がとんで来る。


あの球体だ! 鉛玉は球体から打ち出されてる。


「バチッ!バチッ!バチッ!」


うちを穴だらけにするはずだった鉛玉はシールドに当って(はじ)き返される。セイラガムが手を振ると、ふたつの球体は壁にたたきつけられてこわれた。



 これでじゃまするものはなくなったと思ったら、新しい球体が次々に降って来やがる。見上げると天井がはがれ落ちていた。


違う! あれは天井じゃねえ。天井にびっしりはり付いた球体だ。


その数の多さに血の気が引く。一気に動力室の空間をうめつくしちまった!


『動かないで。これは動くものに反応します』


頭の中でセイラガムの声がした。


『目を閉じて』


 強烈な光が炸裂(さくれつ)するのが、まぶたを閉じていてもわかった。


ゆっくり目を開けると、おびただしい数の球体が転がっていた。どいつもこいつもバチバチを火花を散らしてる。そして、ひざを着いてうずくまってるセイラガムの姿も見えた。


 当然だけど、特殊能力ヴァイオスで攻撃するとき、シールドで自分をおおうことはできない。そんなことをしたら攻撃がシールドでさえぎられちまう。


セイラガムも電撃を放つ瞬間だけは自分を守ることはできなかったんだ。


うちを守る余計な手間もかかってる。すぐにシールドを張ったとしても、あんなに近くにあった球体に電気が流れたんだ。感電しないですむワケがねえ。



 セイラガムのところへ行こうとなんとか立ち上がったとき、目の前にふらふらと浮かび上がる球体がひとつ。まだ生きてるヤツがいる! 


生き残りから打ち出された鉛玉は、うちの眉間(みけん)を貫く寸前にシールドに当たって落ち、球体は壁に激突した。また、セイラガムに救われたんだ。


その間にもうひとつのことが起きていた。生き残りはもうひとついやがった!!

セイラガムの後、床の上で点滅する球体から鉛玉が連射されていた。


 ゆっくりとかたむいていくセイラガム。玉は全部、彼の背中に命中していた。


「うあああああ!」


うちは腰のハンドガンを抜いて撃ちまくる。生き残りの球体はバラバラだ。



 セイラガムのところへ行くんだ。立ってるだけで激痛の足をひきずるようにして進むと、冷や汗が噴き出した。


しっかりしろ、キャシュトニーナ・レイン! これっぽっちの傷で情けないぞ。


セイラガムはもっとずっと深い傷を負いながら戦ってきたんだ。それにくらべれはこんなもん、どうってことねえ! 


「爆弾を・・・・・・ はやく・・・・・・」


冷たい床に倒れたまま動かないセイラガムがかすれた声で言った。

 

 次の瞬間、うちは動力炉の前にいる。セイラガムが力を使って運んだんだ。


違う! うちが行きたいのはこっちじゃねえ!!


「レイン少尉・・・・・・ マリオッシュ・・・守って・・・・・・」


そうだった。セイラガムはマリオッシュを守るためこんなにボロボロになってまで戦ったんだ


マリオッシュが持ちこたえているうちに、任務を遂行すいこうできなけりゃ全部ムダになる。


うちは(くちびる)をかみしめた。



 なんとか爆弾を取り付けてタイマーをセットして、、これで任務完了だ。


「お、終わった! や、やりましたよ!!」


振り向いて息をのむ。セイラガムのまわりには血の池ができていた。


「さ、さあ。た、立って!」


 カウントダウンははじまってる。早く逃げないと爆発に巻き込まれちまう。なんとか起して抱きかかえ立たせようとする。


「あううっ!!!」


悲鳴が口をついた。足を踏ん張った途端、傷口から血が噴き出した。


くそおおおっ!! 痛すぎるぜ! あまりの痛さに気を失いそうだ。


「少尉は脱出してください」


 セイラガムはそう言いながらうちの傷に手を近づけてる。治癒ヒーリングを使う気だ。


「ダ、ダメです!」


うちは黒い手を払いのけた。こんな状態で力を使うんじゃねえ。


「そ、そんな体力があるのなら立ってください」


「自分は、ここに残ります」


      え? 


一瞬、なにを言っているのかわからなかった。



「置いて行って。帰る場所は・・・・・・もう、どこにもないから」


 ああ、そうか。セイラガムに逃げる気はないんだ。


悲しみがじんわりと全身に広がっていくと同時に力が抜けていく。


その気のないヒトを、非力なうえにケガまでしてるうちに(かつ)いで行くなんてムリだ。絶望的な状況に目の前が暗くなる。


「バ、バカなこと言わないで・・・・・・」


 うちの声は震えていた。


「いいから・・・・・・ はやく行って」


「イ、イヤ。ぜ、絶対にイヤ。あ、あなたを置き去りになんかしない!」


動けないセイラガムをこのまま放っておいたら確実に死ぬ。それがわかっていて自分だけ逃げるとかありえねえ!


「少尉は帰って。仲間のところへ」


 別れ際のみんなの顔が思い浮かんだ。ついさっきのことなのにずいぶん昔のことのような気がする。


うちが本当の意味でプリズナートの一員になれたのはセイラガムのおかげだ。


「い、言ったでしょう。わ、わたしはどんなことがあっても、ぜ、絶対に、あ、あなたを置き去りになんかしません」


うちはセイラガムのそばに腰を下ろした。もうすぐ爆弾が爆発するってのに不思議と恐怖は感じない。



「レイン少尉?」


「わ、わたしもここに残ります。す、好きなヒトをひとりで死なせたりしません」


 どさくさにまぎれて告白しちまった。気持ちを伝えられたし満足だよ。隊長、みんな、ごめん。うち、戻れない。。


セイラガムはうちのことをどう思っているんだろう? 


今さらそんなこと、どうでもいいか。セイラガムがうちを好きでも嫌いでもこの気持ちは変わらねえんだ。このまま寄りそってけるならうちの想いは成就(じょうじゅ)する。


 そんな甘い思いに浸ってると、不意にからだが浮き上がった。


なんだ!? どうなってやがる?


「お別れです」


セイラガム・・・・・・ 


少しほほえんでるみてえにも見えるその顔はこの上なく清々すがすがしい。


 つい見とれちまったうちは、気付いたときにはシールドに閉じ込められていた。


あんたの仕業か! 


「な、なんのつもり! こ、ここから出して!!」


力まかせにたたいてもセイラガムが作ったシールドのカプセルはびくともしやしねえ。



 うちのからだはシールドに包まれたまま動力室の外へと運ばれていく。セイラガムはうちだけを逃がすつもりなんだ。そんなことされてもうれしかねえ!


「や、やめて! こ、ここから出して!! い、一緒にいるって言ったのに!! ひ、ひとりにはしないって言ったのに!!!」


こうしている間にもどんどん遠ざかって行く。これっきりもう二度と会えないんだ。こんな別れ方って、ねえだろ・・・・・・


 うちを閉じ込めたカプセルは巨大戦艦の中をすべるように進んで、やがてフェンリル隊との合流地点に出た。


『レイン少尉、ありがとう・・・・・・』


頭の中でセイラガムの声がした。本当に、もう、これで最後なんだ。。


「いやぁあああああああああ!」





◇◇◇◇


 タイムリミットが迫っている。フェンリル隊隊長ロイエリング大尉とサバイブことタルティーニ中尉は、それぞれの愛機の中でレイン少尉を待っていた。


レイン少尉と一緒でなければここを離れない、と言い張るプリズナート隊長を説得するのは大変だった。どうあっても連れ帰らなねばならない。


巨大戦艦の内部は静かだ。先ほどまで戦闘が続いていたが、侵入者を排除しようとするリトギルカ兵はもういない。


戦闘飛行艇スカイフィッシュに乗り込んだフェンリルは無敵だ。コックピットから見える床には無数の死体が転がっている。


 ファラムリッドは何かの気配を感じてそちらに目を向けた。


(何だろう?)


音もなく視界にすべり込んで来たもの。それは直径1コール程の淡く輝く球体だった。球体は動きを止めるとシャボン玉がはじけるように消えた。中から現れたのは


「レイン少尉!」


床に座り込んだままがっくりとうなだれて様子がおかしい。左足から血が流れているのがコックピットからでも見えた。



 ファラムリッドは愛機を降りてキャシュトニーナに駆け寄った。サバイブは応急手当中のふたりのそばで周囲を警戒けいかいしている。


「よくぞ戻って来てくれた。シュバイク大尉がお待ちかねだ」


ファラムリッドの言葉に反応はない。キャシュトニーナは心ここにあらずといった様子で呆然(ぼうぜん)としている。


「う、うちだけ助かるなんて・・・・・イヤだ・・・・・ こ、こんなの・・・ダメ・・・・・・」


 何やらひとり言をつぶやいていたキャシュトニーナは急に立ち上がろうとしてよろめいた。


とっさに抱きとめて身体を支えてやると、初めてその存在に気付いたような目でファラムリッドを見た。


「・・・・・・た、助けて。セ、セイラガムを助けて!」


 ファラムリッドの心臓が激しく()ねた。


セイラガムはルシオンだ。ルシオンは今軍病院のベッドの上にいる。なぜこんなところで少年の名が出て来るのだろう。激しい鼓動こどうが胸を打ちつける。


「あ、あのヒトは動けないんです。も、もうすぐ爆弾が爆発するのに、このままじゃ死んでしまう!!」


キャシュトニーナは訴え続ける。


「あ、あんなひどいケガをしているなんて知らなくて、、わ、わたしが呼び出したりしたから、、もっとひどいことになって、、、だ、だから、一緒にいるって言ったのに!」



 ファラムリッドの顔色が変わったことに気付き、キャシュトニーナはハッとした。


アビュースタ人でセイラガムを助けようとする者などいない。ましてやファラムリッドとセイラガムの間には何やら因縁いんねんがあるらしいことは知っている。


「セ、セイラガムは・・・・・・ セ、セイラガムには・・・何度も助けられて、、


きょ、今日だって、あ、あのヒトがいなければみんな死んでたはずなんです。ほ、本当は、死神なんかじゃありません。だ、だから・・・・・・」


 キャシュトニーナは必死に訴えた。


「知っている」


「え?」


思いがけない言葉に顔を上げるとファラムリッドのアメジストの瞳はけぶるような色をしていた。


「連れ戻すさ。無茶したことを叱ってやらなくてはならないからな」


 キャシュトニーナは驚いた。今のファラムリッドの言葉からするとセイラガムのことをよく知っているらしい。しかも親しい間柄のように聞こえる。


「サバイブ、私のわがままに付き合ってくれるか」


「今さら何を言ってるんですか」


フェンリルたちのやり取りにキャシュトニーナは顔を輝かせた。



 2機のスカイフィッシュが巨大戦艦の中を疾走しっそうする。先行するファラムリッドの機体に、道案内のキャシュトニーナを乗せたサバイブの機体が続く。


巨大な戦艦であることが幸いした。異常に広いダクトの中を飛ぶことができたのだ。わずかな時間で行って戻ってこなくてはならない状況では大きな助けになる。


 ほどなく動力室にたどり着いた。探すまでもなく動力炉のそばに人が倒れている。銀色の長い髪。ファラムリッドが確信するにはそれだけで充分だった。


「ルシオン!!!」


コックピットから飛び出し駆け寄って絶句した。赤い服を着ているように見えたのは少年の血で染め上げられていたからだった。ぶかぶかの看護師のユニフォームは白かったはずなのに。


そして、服とは対照的に血の気のない白い顔には死の影が差している。


「しっかりしろ! 勝手に死ぬことは許さない!!」


身体を抱き起こすと固く閉じられていた少年のまぶたがうっすらと開いた。


 ルシオンはぼやけた視界に会いたくてたまらなかったひとの姿を捕え、その名を呼ぼうとする。


「・・・・・・・・・」


声は出なかった。ファラムリッドの顔を見ていたいのにまぶたが重くて開けていられない。


一度目を閉じてしまったらもう二度とファラムリッドには会えない。そう思って必死にあらがおうとしたが無駄だった。



 キャシュトニーナはあせっていた。別れ際にセイラガムがいた場所には、なぜかルシオン少年が血まみれで倒れている。


どうしてこんな所にいるのかわからないが、今はそれよりも消えたセイラガムを探さなくてはならない。動ける状態ではなかったはずなのだ。


「脱出する! レイン少尉、コックピットに戻るんだ」


ファラムリッドは少年を抱き上げ自分の機に向かって走り出している。


「ま、まだセイラガムが見つかっていません!」


 あわてたキャシュトニーナは叫んだ。目的を果たしていないのに帰る訳にはいかない。


「それならここにいる」


ファラムリッドの言葉でますます訳がわからなくなる。ここにいるのは自分とファラムリッドとサバイブ、それにルシオン少年だけだ。


「こ、ここってどこですか!?」


混乱したキャシュトニーナは涙声で叫んだ。


「説明は後だ。時間がない。急げ!!」



 死のカウントダウンは続いている。爆発前に巨大戦艦から脱出しなければ万に一つも生存の可能性はない。


2機のスカイフィッシュは障害物を破壊しながらほとんど一直線に突き進む。


弾薬が尽きるのが先か、外に出るのが先か。


「・・・・・・ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピ――ン」


 動力炉に仕掛けられた爆弾のタイマーが00:00を表示した。ガルダナム爆弾は得られる効果が爆弾と同じことからそう呼ばれてはいるが、そのものが爆発する訳ではない。


まず、動力炉の3か所に取り付けておく。するとそこから円錐形(えんすいけい)に整えられたガルダナム結晶が内部に向かって打ちこまれる。


中で3つの結晶が衝突しょうとつして化学反応を起こし、更に動力炉内のネリトロン12と反応する。加速度的に広がる化学反応が動力炉を暴走状態にするのだ。


 膨大(ぼうだい)なエナルギーに耐えきれなくなった動力炉は、弾けて小さな太陽が爆発したような衝撃しょうげきをまき散らす。


外部からの攻撃には強くても内部からの攻撃に弱いのは巨大戦艦も同じだ。


内側から弾け飛んだ巨大戦艦は跡形もなく消滅し、(すさ)まじい衝撃波と鋼鉄をも蒸発させる高熱が一気に広がって周囲を飲み込みんんでいく。


巨大戦艦の巨大動力炉の爆発は予想を超える破壊力を生み出していた。


 間一髪のところで巨大戦艦から脱出したフェンリルたちの背後にエネルギーの暴走が迫る。


逃げる間もなく次々に消滅していく敵の戦艦。獲物を飲み込む度に巨大に狂暴に成長しているようだ。2機は態勢を立て直しフルスピードでマリオッシュを目指す。



「なんてこった!! マリオッシュが!」


 サバイブが叫んだ。マリオッシュを視認したファラムリッドの息が止まる。


絶対障壁ヘザーウォールが ない!!


「マリオッシュが・・・・・消滅する・・・・・・」


 ヘザーウォールがなければエネルギーの暴走に飲まれてしまう。死の脅威(きょうい)はすぐそこにまで迫っており、マリオッシュの人々に脱出する時間はない。


「ど、どうしてこんなことに・・・・・・」


 キャシュトニーナは無慈悲むじひな現実に呆然とするだけだった。自分たちは何のために戦ってきたのだろう。


プリズナートもセイラガムもマリオッシュを守るために必死で戦ったのに。その結果、マリオッシュまで滅ぼしてしまうことになるとは――――



 プリズナートが敵旗艦の中で戦っている間、マリオッシュも未知の敵と戦っていた。


これまでのようにバリザードの一撃で退けることのできない敵を相手に苦戦を強いられていたのだ。


フルデン艦隊の全艦艇が出撃すると、後は壁の中に閉じこもって耐えるしかなかった。


戦艦主砲の直撃を受けてもびくともしないマリオッシュのヘザーウォールだが、今回の敵にこれまでの常識は通用しない。


巨大戦艦に似つかわしい巨砲の威力は凄まじく、ブロックフィッチに力を出し惜しみしている余裕はなかった。


 頼みの綱のフルデン艦隊も巨大戦艦の前では赤子のようなものだった。まるで歯が立たない。マリオッシュを守ろうと必死の抵抗を続けているが次々に数を減らしていった。


マリオッシュが落とされるのが先か、プリズナートが作戦を遂行するのが先か。この競争に勝利したのはプリズナートのはずだった。


ところが・・・・・・


力を使い果たしたブロックフィッチが次々と脱落して、とうとうヘザーウォールを維持することができなくなってしまったのだ。


今、すべてが無に帰そうとしている―――

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