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5-1

【キャシュトニーナ】


 大海原(おおうなばら)を行くリトギルカの艦隊はふつうに見えた。12せき全部が戦艦なのはヘンちゃあヘンだけど、それ以外に変わったところはない。


ぜんぜんふつうじゃねえとわかったのは、艦隊の近くに1隻の魚船が見えたときだった。


 なんじゃ、こりゃ!!!


うちは目を疑った。漁船が小さくて戦艦がでかいのはあたりまえ。でも、コイツは比率がおかしいだろ!


こんなバカでかい船、見たことねえ!!


「こんなものが!」


「あり得ない!」


 みんなも驚きの声をあげてる。


ブリーフィングルームでスクリーンを見つめているのはうちを入れて7人。ポネット総司令と副官のマレリー大尉、そして、プリズナート。



 リトギルカの船はどれもふつうのサイズの1.5倍はありやがる。その圧倒的なスケールは1隻だけでもすげえ迫力だ。


巨艦(きょかん)にすえられた主砲もまた巨大で、その威力いりょくを想像しただけで背筋が凍りつく。


12門の巨砲がいっせいに火を噴いたら、(うるわ)しのマリオッシュは耐え切れるだろうか。ここにいるだれもが同じことを考えているはずだ。みんなして怖い顔してる。


「・・・・・・フォート・マリオッシュに接近しつつある敵艦隊は今回が初陣(ういじん)です。従って、データはありません。


マリオッシュへの到着時刻は1500と予測されます」


 副官の状況説明が終わると、総司令が重々しく口を開く。


「聞いてのとおり敵艦隊の戦力は未知数じゃ。巨艦とはいえわずか12隻でマリオッシュに(いど)んでくるからには、勝算があってのことだと考えねばなるまい。


桁外(けたはず)れの破壊力を有し、かつ、通常の兵器が通用しない最悪の状況を想定しなくてはならんということじゃ。


そこで、もしもの場合に備え第2の作戦を用意しておくことにした。こっちの案は一か八かでの。成否はおぬしら次第じゃ」


 うちはつばを飲み込んだ。マリオッシュの命運はプリズナートにかかってるってことだ。失敗は許されねえってか。


しかも今回はセイラガムの力は借りられんだと。理由は、教えてはもらえなかった。


どうしてこんなときに来てくれないんだろう? 得体(えたい)の知れない不安をがじわじわと背中をはい上って来る。




 戦端は開かれた。


リトギルカ艦隊が射程圏内(しゃていけんない)に入って来たところで、バリザードが火を噴いた。


動力炉が作りだしたエネルギーをプリズナートの力で増幅(ぞうふく)してバリザードに送り込む。


そうしてやっと打ち出される電磁投射砲は、敵艦隊に取り返しのつかない損害を与えるはずだった。


ところが、巨大戦艦はバリザードをしのぎきった! 


シールドで防がれちまったんだ。それぞれの艦にブロックフィッチみてえなザックウィックが配置されてるらしい。


 バリザードを打ちつくすとフルデン艦隊が出撃、マリオッシュは絶対障壁ヘザーウォールに閉じこもった。


こっからは艦隊戦に突入だ。やっぱりと言うか、巨艦にふつうの攻撃は効かなかった。味方の艦艇かんていは近距離から攻撃するっきゃねえ。


できる限り近づこうとするフルデン艦隊に敵の巨砲が照準を付ける。次の瞬間、地獄のふたが開いた。


巨大な砲弾の威力はすさまじい。小型艦なんぞ消し飛んじまうほどだ。大型艦ですら直撃を受けたら一撃で戦闘不能だ。


フルデン艦隊はたった12隻の敵艦隊に爪をたてることすらできず、次々と戦線を離脱していく。一方的な戦場には悲壮感が漂っていた。



 戦況は次の段階へと移っていく。両軍の艦艇から戦闘飛行艇スカイフィッシュの群れが吐き出され空中戦が始まった。


スピードと身軽さが長所のスカイフィッシュは、ところかまわず敵見方入り乱れながら飛びまわる。


 いよいよ第2の作戦にとりかかるときが来た。本番はこっからだ。


バリザードで使い果たした生体エネルギーバースはまだ完全には戻っちゃいないけど、そんなことを言っている場合じゃねえ。


うちらはそれぞれ割り当てられたスカイフィッシュに乗り込んだ。フェンリル隊が敵艦隊の旗艦(きかん)まで運んでくれることになってる。


この機体はそのために用意された2人乗りのスカイフィッシュだ。


プリズナートを乗せた5機と先を行くヨルマは一団となって混戦の中を突っ切ってく。

立ちはだかるものを打ち破り、追いすがるものを振り払い、一直線に。



 目的の船が眼前に迫ってきた。


うお。でけえ!!


そのスケールは圧倒的でゾウの前のアリになった気分だぜ。艦載機の発着口を見つけるとフェンリルは次々と突っ込んで行く。


ちょっと待てええ! 敵機がこっちに向かって飛んで来てるじゃねえか。激突するっ!!


――――死んだと思った。


心臓がこんなにドクドクいってる。ぶつかったみてえにしか見えなかったけど、こうして生きてるってことはギリギリですれ違ったんだ。


フェンリルは操縦(そうじゅう)テクニックもいかれ具合もうわさ通り。



 スカイフィッシュから降りて合流したプリズナートは整列、敬礼した。ここまで運んでくれたフェンリル隊に感謝と敬意をこめて。


できることならもう2度と乗りたかねえけど、そうもいかない。


 この作戦の所要時間は30分。一旦この場を離れるフェンリル隊は、30分後には迎えに戻って来てくれることになってる。


どうか無事でいてくれ。でないとプリズナートは敵艦に取り残されちまうことになる。そんなの願い下げだ。


もっとも、うちらだって5人全員が無事に戻ってこられる保証はどこにもない。


フェンリルたちがコックピットの中で敬礼してるのが見えた。向こうもプリズナートがしくじれば帰る場所をなくすんだ。


 どっちにしても、30分後にはフォート・マリオッシュの運命は決まっている。



 フェンリル隊と別れると巨大戦艦の中を奥へと急いだ。


ターネット中尉の透視(クレボヤンス)で目的の場所がどこにあるかはわかってる。最短ルートで行きてえところだけど、敵とはち合わせしたら余計に時間がかかっちまう。


うちの感知パーシブはこんなときにも役にたつ。ヒトが集まっている場所がわかるからそこを避ければいい。


なるべくヒトのいないルートで最短になるように進んでいくうちに、狭い通路にさしかかった。


薄暗い通路に5人の靴音だけがこだまする。こんなところで敵に前後をふさがれたら逃げ道がなくなる。


「パン! パン! パン!」


 後ろで銃声が響いた。


「走れ!」


隊長が叫ぶとみんないっせいに走り出す。はやく通り抜けねえと!


これ以上はムリってはやさで足を動かしてると、突然、なにかに足をとられてハデに転んじまった。立とうとするが起き上がれない。


まるで床に身体がはり付いてるみてえだ。見ると他のみんなも転んだまま動けずにいる。



「あっははははは!! あんたらベタベタに引っ付いた害虫みたいだな」


 動けないプリズナートの前に姿を見せたザックウィックは若い男女だった。女の方がなに気ない仕草でターネット中尉の肩に手を置いた。


「触るな!」


両手が床にくっついた中尉は抵抗できない。


「ふん。動力炉に爆弾を仕掛けるつもりだったのか。残念だったね」


「心を読んだのか!」


隊長がにらむと、女は得意げに胸をそらした。


「ハズレ。あたしの特殊能力ヴァイオス読心リーディングとは違う。盗み(スティール)。ひとの記憶を盗み取るのさ」


 女は指を1本立ててヒトを小バカにしたような顔になる。


「そんじゃ、問題! 記憶を盗られた人間はどうなるでしょうか?」



 ハッとしてターネット中尉に視線を向けると、中尉は落ち着かなさそうにあたりを見まわしてる。


「ここはどこなんだ。俺はどうしてこんな所にいる?」


まさか!


「ターネット中尉、落ち着くんだ。今日が何日かわかるか」


隊長がたずねると中尉はけげんそうな顔になった。


「12月23日です」


 うちらは顔を見合わせた。なぜなら今日は12月24日だ。ターネット中尉には今日の記憶がない。本当に記憶を盗み取られちまったんだ!


「あんたらも面倒な任務のことなんて忘れちまえばいい。あたしが忘れさせてやんよ」


冗談じゃねえ。記憶を奪われたら任務どころじゃなくなる。



「来るな!」


女がメッセル中尉に近寄って行く。中尉を2番目のターゲットに定めたんだ。


 助けねえと! 


なんとか床にはり付いた手足を引きはがそうとするけど、どうやってもはがれやがらねえ。みんなも血管を浮かび上がらせてもがいてる。それでも自由になれたヤツはいない。


「やめろぉおおおお!!」


 中尉の叫び声が狭い通路に反響した。他人に記憶をいじられるなんてうちだって絶対にヤだ。


「今助ける!」


隊長が叫んだ。汗びっしょりになってなんとか自由になろうと必死だ。でも、メッセル中尉には助けが来るのを待ってる時間はない。


手足が引きちぎれんばかりにもがく―――― その動きが、、ピタリと止まった。



 メッセル中尉の両ほおには女の手の平が当てられている。


間に合わなかった! 


中尉はどうなっちまうんだ? 


一瞬だけ肩にさわられたターネット中尉は今日一日分の記憶を失うだけですんだけど、今度はたぶんそんなもんじゃすまない。あんなにしっかりヴァイオスを使われちまったら。。


「うおぉおおおおお!」


 どうやって引きはがしたのか、隊長の手の中でエネルギーが圧縮されていく。


ボールぐらいの大きさになったところで打ちだされたボリュックは、女めがけて一直線に飛んでいく。そうだ、あのザックウィックを倒せば盗られた記憶は取り戻せる。


 隊長のボリュックはよけられちまったけど、ブラウン中尉とターネット中尉も加わって女を攻撃し始めた。


「サージ!! もっとしっかりつかまえてろってんだ!」


「その必要はないよ。もう充分だ。行こう」



 ふたりのザックウィックが姿を消して、うちらは身体の自由を取り戻せた。でも。スティールを使う女を倒すことはできなかった。


今日の記憶を失ったターネット中尉には状況を説明すればなんとかなりそうだけど、メッセル中尉はそうはいかないだろう。


「メッセル中尉。今日がいつかわかるか」


隊長がたずねると、中尉は必死に涙をこらえる子供のような目をして首を振った。


「おじさんはだれ? ここはどこなの? ママはどこ行っちゃったの」


とうとう涙があふれた。小せえ子供になっちまった! 


 一日二日なんてもんじゃねえ。年単位の記憶を盗られちまったんだ。外見は大人でも中身は小さな子供。当然任務のこともプリズナートのことも覚えちゃいない。


「メッセル中尉、しっかりしろ! おまえはプリズナートの一員なんだぞ」


「3年も一緒に戦ってきたじゃないか!」


「思い出せ!!」


みんなは記憶を取り戻させようと口ぐちに叫んでるけど、中尉はすっかりおびえてる。


「しらない、しらない」


ひざを抱いてうずくまってやがる。



 隊長は決断するしかなかった。


「レイン少尉はメッセル中尉を連れて脱出しろ。任務は我々だけで続行する」


隊長はターネット中尉とブラウン中尉を引き連れて歩き出した。こっからは3人で戦わなくっちゃなんねえ。


「ま、待って下さい!」


 振り返った3人の顔を見つめて言葉に力をこめる。


「か、必ず帰って来てください」


右手を差し出すと隊長はしっかりと握り返してくれた。


「わかった」


ふたりの中尉もうなずいてる。



 3人は再び歩き出した。ターネット中尉とブラウン中尉がむこうを向いたまま手を振ってる。うちは3人の背中に祈る。


 神様お願いです


一生に一度のお願いってワケにはいかねえけど

たぶんなん度も同じことを願うことにはなるとは思うけど


他のことで神様に頼ったりはしねえから


どうか、どうか、みんなを守ってください


 なぜかこのときセイラガムのことを考えた。あのヒトでも神様に祈ったりすんのかな? 


    ある。


はっきりと確信を持ってそう思った。セイラガムだって人間なんだ。人間である限り、どうにもならないときはあるはずだろ。

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