2-5
【キャシュトニーナ】
プリズナートの前で足を止めたザックウィックどもは、冷やかな目でいちべつをくれた。そして、とどめの一撃を振り下ろす。
みんなを助けることはできなかった。時間稼ぎもムダだったんだ。
ちくしょうめ!!
もう、終わりだ――――
ザックウィックが至近距離で放ったボリュックは防ぐこともよけることもできやしねえ。うちらは高エネルギーの赤い炎に包まれた。
死んだ、、と思った。
ところが。炎が消えたとき、見えたのはアホづらぶら下げて突っ立ってやがるザックウィックだった。プリズナートは生きていた!
シールドがみんなを守ったんだ。うちがやったんじゃない。他のみんなにもシールドを張るだけの力は残っちゃいなかったはずだ。
「プリズナートは5人じゃなかったのか?」
いぶかしむようなザックウィックの声。
「5人だろうが6人だろうが僕らの敵じゃないさ」
今、6人つったか?!
ザックウィックの視線の先にもうひとりいる!
もしかしたら?!
確かめてえけどうちの位置からじゃ見えないし、肩をぬい付けられて振り返ることもできやしねえ。
目の前のザックウィックが音もなく動いた。そして、6人目に襲いかかろうという姿勢のまま止まった。
いったいどうしたんだ?
しばらくすると糸の切れた操り人形みてえにくずれ落ちた。感知を使ってみる。
まさか・・・・・・死んでる?!
ゆっくりとした足取りでうちの後から姿を現したのは黒ずくめの男。はじめて見たときと同じ、髪も肌も、身に着けているものも、何もかもが黒一色だ。
セイラガム!!!
本当に、本当に、来てくれた!
ちっくしょー!! ほんとにいいところに現れやがる!
ほっとしたら涙があふれてきた。
「動かないで」
セイラガムはあいさつもなしにうちの肩をつかんで鉄骨から引き抜いた。
その痛さときたら! 意識がとんじまったくらいだ。気が付くとすぐ目の前に黒ずくめがいて、うちの左肩に手をかざしてる。
黒い手の平からはオレンジ色の光が出ていて
・・・・・・あったけえ。
「・・・な、なにを・・・・・・し、してるんですか?」
「傷をなおしています」
これは、治癒だ。痛みがどんどん薄れていく。破壊と殺戮の代名詞みてえなセイラガムがこんな特殊能力を持ってるなんてな。
ちょっと待て!
こんなことしてる場合じゃねえだろ。ザックウィックどもがこっちをにらんでる。背中に殺意が集まってると気付いているはずなのに、セイラガムは振り返ろうともしない。
「よくもナヴァール中尉を!」
「その命であがなえ!!」
仲間を殺されたザックウィックは復讐に燃えて威嚇してくる。
「も、もういいから、う、後ろを見てください!」
今にも襲いかかってきそうで気が気じゃねえ。それなのに
「だいじょうぶです」
そんなワケあるか、と思ったが、ザックウィックどもはいまいましげにセイラガムをにらみつけているだけで近づこうとはしない。
どうして攻撃してこないんだ? ムシされたヤツラの腹の内は煮えたぎってるってのに。
「何者ですか」
黒ずくめにたずねる年長のザックウィックの声は冷静だ。でも声の裏には不安と恐怖とが渦巻いてる。同じザックウィックなのにコイツがセイラガムだとわからないんだ。
そういえば聞いたことがある。
リトギルカじゃセイラガムの戦果は大々的に報道されるけど、ヤツ自身についての情報はほとんどないと。同じ作戦に参加するはずだったチームの仲間ですら顔も知らないなんてな。
ザックウィックがしかけられずにいるのは、黒ずくめの正体がわからないことだけが理由じゃなさそうだ。
仲間のかたきを取りたい。でも、不気味なものを感じる。そんな憎しみとおびえが葛藤中だ。だから、動けずにいる。
セイラガムにはこうなることがわかってたから、威嚇してくるザックウィックをムシしたのか。なんて自信だ。
うちの傷がいえたところでやっと、セイラガムは立ち上がりザックウィックと向き合った。両者の間には冷たくなったナヴァール中尉とやらが倒れてる。
仲間のなきがらを見つめる、背の高いザックウィックの中で憎しみが大きくなっていく。とうとう憎しみがおびえに打ち勝ったとき、鋭く息を吐いて地面をけった。
矢継ぎ早に攻撃をくりだしセイラガムの気をそらしたすきに、両手の人差し指と親指で作った四角形の中に黒ずくめの姿を捕える。
その瞬間、セイラガムはザックウィックが指で切り取った空間から出られなくなっていた。
空間隔離だ。憎いかたきを異次元空間に閉じ込めることに成功したザックウィックの顔には、勝ち誇った笑みが浮かんでる。
ふつう、キューブロックでつくった異次元空間に干渉することはできない。でも、キューブロックの使い手にだけできることがある。
長身のザックウィックは、セイラガムを封じたキューブと同じ大きさのものをもうひとつ作りだした。そして、勢いよく手をたたく。
「「パン!!!」」
鼓膜を破りそうな大きな音があたりに響くと、ふたつのキューブは同時に消滅した。セイラガムを閉じ込めたまま。まさか。そんなっ!!
「ははははははははは・・・・・・・・」
復讐をとげたザックウィックは笑ってる。
「ははは・・・は・・・は・・・・・・・」
むなしく響く笑い声が途切れとぎれになってきた。なんだか様子がヘンだぞ。笑いが完全に止まるとそのままバッタリ倒れた。まただ。
また、男の意識が消えている。
「ベルジャコフ中尉!」
かけ寄ったザックウィックが脈を調べて首を振った。やっぱり死んでるんだ。
「一体何が起きた!?」
「なぜ死んだ!」
あわてるのもムリはねえ。突然仲間が死んで、どうして死んだのかもわからないんだから。大声で騒ぎ立てているのは恐怖心をまぎらわすためなんだろう。
そんな中で今度は、ひとりだけ冷静に見えていた年長のザックウィックが声もなく倒れた。やっぱり死んでる。何の前ぶれもなく。唐突に。
こうなるとさすがのザックウィックも恐怖心をねじ伏せてはおけなかったみてえだ。仲間の遺体を抱えて夜の闇に消えた。
「どうなっているんだ?」
命拾いしたプリズナートのみんなは説明を求めてお互いの顔を見合わせてる。
うちになら説明できる。感知で断片的な情報を得ることができたから。それらをつなぎ合わせて導き出された答えは
「キュ、キューブロックです」
みんなの視線がうちに集中した。
「ザ、ザックウィックの心臓を、キュ、キューブロックに閉じ込めたんです。だ、だから、な、なにもしていないのに、と、突然死んだように見えたんです」
キューブロックに閉じ込めるということはロックされた空間が異次元になるということ。つまり、心臓だけを異次元空間に封じ込めたんだ。
心臓を抜き取られたのと同じことだから血流が止まって全身に酸素が供給されなくなる。そうして、自分になにが起きているのか気づくこともないまま死んだ。それが答えだ。
「レイン少尉の言った通りだとして、そんなことをしたのは誰なんだ?」
疑問を投げかけたブラウン中尉はそのだれかを探してあたりを見まわしてる。
「そ、そ、そ、・・・・・・それは・・・・・・」
どう答えたらいい? みんなは黒ずくめがただ者じゃないとわかっていても、その正体がセイラガムだとは夢にも思っちゃいないだろうし。
考えあぐねているといつの間にか、消えたはずの黒ずくめがそこに立っていた。
なにもなかったような顔でみんなの治療をはじめてる。
「キューブと一緒に消滅したように見えたが、今までどこにいたんだ?」
不自然な方向に曲がった肘を元の位置に戻してもらいながら、ターネット中尉がきいた。
「自分で作ったキューブに逃げました」
「それじゃ、ザックウィックを倒したのは君なんだな」
みんな納得がいったようだ。
全員の治療がひと通り終わると、セイラガムは姿を消した。現れたときと同じ、こつ然と。瞬間転移を使ったんだ。
「今のは誰なんだ。応援が来るという話は聞いていないぞ」
隊長も他のみんなもスッキリしない顔をしている。やべぇ。どうしよう。
総司令はいずれ時期をみてみんなにもきちんと説明するつもりだと言ってた。
司令、今がその時ですよ。
「少尉は顔見知りなんだろ?」
説明は司令にまかせるつもりだったのによ。余計なことを言いやがって!
やっぱりメッセル中尉は意地悪だ。
「そうか、レイン少尉の知り合いだったのか。それで、誰なんだ。あの男は。見たことのない顔だがどこの部隊から来たんだ?」
そんなに知りたがるんじゃねぇ! 隊長が知ったら怒るくせに。
「ミュ、ミュウディアンじゃありません」
「そんなはずはないだろう。あれだけのヴァイオスを持っているんだぞ」
ああ、くそ。ごまかすことはできそうにねえ。どうせいつかはバレるんだ。
「ザ、ザ、ザ、ザックウィックです。な、名前はク・・・・・・クリュフォウ・ギガロック。セ、セイラガムと呼ばれているヒトです」
長い沈黙があった。
「言っていることがよくわからんのだが、からかってるのか?」
隊長の顔は引きつっている。
「い、いいえ。ほ、ほ、本当のことです」
「・・・・・・・・・我々は敵に窮地を救われたうえ、傷の手当までされたということなのか」
「は、はい」
隊長は声もなく呆然と立ちつくしてる。どんなにか怒るだろうと思ったが、怒りを通り越したみてえだ。
「そんなのおかしいじゃないか! なぜ、ギガロックが我々に味方するんだ!?」
否定しようとするターネット中尉の顔も強ばってる。
「わ、わ、わたしが頼みました」
みんなに隠しごとはしたくない。
「どういうことなのか、説明してもらおうか」
ひいぃいいいいっ!!! そんなににらむんじゃねえ!
宿舎に戻ったプリズナートは隊長の部屋に集まっている。これから他のヤツラには絶対に聞かせらんねえ話をするんだ。
しばらくだれも近づかないように頼んである。総司令の許可はもらった。うちはあの夜の密約について説明した。
「つまり、ギガロックを見逃す代わりに、マリオッシュを守るために協力させるということだな」
あれ。なんか違ってね? 逆だと思うんだが。でもまあ、そういうことにしといてやるよ。それで隊長のプライドが守られるんなら。
「そ、総司令はみなさんにも、き、きちんと説明するつもりでした」
このことはちゃんと伝えておきたい。司令を悪者にしたくねえ。
「我々は信用されていると考えていいんだな」
そうですと答えようとしだけど、
「信用しているならば敵の力を借りたりはしない」
隊長の言葉にさえぎられちまった。いっせいにみんなの顔がくもる。
「ザックウィックの力を借りるなどプリズナートの恥だ!」
隊長の怒りは半端ねえ。密約のせいというよりは、セイラガムに助けられた自分自身に対する怒りなのかもしんねえ。
「レイン少尉、今後はどんなことがあってもやつに助けを求めたりするな」
隊長の気持ちはわかるよ。わかるけどそんな約束はできねえな。もし、みんなの命が危なくなったら今度は迷わずセイラガムを呼ぶつもりだ。
「あ、相手が強いのだから、し、仕方がないと思います」
「少尉にはプリズナートとしての誇りはないのか!」
「い、い、命よりも大切な誇りなんて、あ、ありません!」
プリズナートのだれにも死んでほしくないだけだ。そんなやるせない顔をすんなよ。
「そりゃあそうだ」
気まずい雰囲気を破ってくれたのはメッセル中尉だった。
「要はやつの出番を作らなければいいんでしょ。我々だけで任務を遂行してしまえばレイン少尉がギガロックを呼ぶこともない」
「その通りだな」
助かったぜ。
冷静さを取り戻した隊長は矛先を向ける相手をまちがえていたことに気付いてくれた。
「レイン少尉。すまなかった」
自分のあやまちを新人の部下にでもきちんとあやまれる隊長はりっぱだと思う。
「よーし! これから作戦会議だ!!」
勝手に盛り上がって部下を巻き込む隊長は迷惑だと思う。
「ちょっと待って下さい!」
「今何時だと思っているんですか」
「明日にしましょうよ」
「隊長――!!」×3
みんなのブーイングもなんのその。




