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2-4

【キャシュトニーナ】


 セイラガムを尋問(じんもん)した夜から2日後、ヤツが予告したことは現実になった。


軍港が襲撃(しゅうげき)されたんだ。それからは日替わりで色んな軍事施設が標的にされた。


もともとセイラガムもこの作戦に加わる予定だったけど、いつどこが襲撃されるかは知らねえんだと。状況をみて標的を決めることになってるらしい。


 セイラガムの情報によると12人のザックウィックは全員F4以上の能力を持ってやがる。F4てのは特殊能力者ヴァイオーサーのランクを表すもんだ。


Fは特殊能力ヴァイオスの希少価値を表していて3段階、その後の数字は破壊力を表していて5段階ある。いちばん能力が低くてF1、高くて3F5ってえことになる。


プリズナートでいうと、ブラウン中尉とターネット中尉はF3で、メッセル中尉はFF3、隊長はF4だ。うちは3F。


ちなみに、セイラガムは5F7。規格外ってことだ。


 こっちのF4は隊長だけだし、全員でかかったとしてもうちらに勝ち目はない。そこでワナが必要になってくる。


作戦部が打ちだした対抗策は、次に襲われると予測した施設にプリズナート全員を配置して待ち伏せするというもんだった。


でも、情報部が総力をあげてたたきだした予測はなかなか的中しなくて、空振りに終わる日が続いてた。



 そして最初の襲撃から5日目の夜。


プリズナートは第8弾薬倉庫を取り囲むようにして物陰(ものかげ)に隠れていた。次に襲撃される確立がいちばん高いのはこの倉庫だと予測されてるんだ。


“来るんじゃねえ”と心の中でくりかえしながら待ち続けること3時間。


 来た!! ザックウィックだ!!


プリズナートに緊張が走る。6つの人影が弾薬倉庫の中に入った。


「今だ!」


隊長たちが4人がかりで倉庫を包み込むシールドを張ると、うちは起爆装置のスイッチを押した。弾薬倉庫にしかけられたガルドット爆弾がいっせいに爆発する。


「ドーンンン! ズドーンンンン!!」


 爆発はもっとでかい爆発を呼んで地面を震わせる。倉庫に残してあった弾薬に誘爆したんだ。


シールドの中はまるで小せえ太陽だ。目もくらむ強烈な光があたりを真昼みてえに照らし出す。隊長たちは歯を食いしばって耐えている。


もし、シールドが破れるようなことになれば犠牲は弾薬倉庫だけじゃすまなくなる。あたり一面火の海になっちまう。


 

 やがて、爆発はおさまって炎は勢いを失っていった。シールドを張り続ける重労働から開放されたみんなは、肩で息をしながら呼吸を整えてる。


「灰になったかもしれないな。死体を確認できればいいが」


隊長はそんなことを心配してやがる。うちは死体なんざ見たくねえ。それが敵のもんであっても。


 かけ付けた消防隊のがんばりで炎はすぐに小さくなっていった。もうもうと立ち込める黒い煙が夜空に昇っていく。


ようやくうっすらと焼け跡の様子が見えるようになってきたとき、煙の中でなにかがうごめいた。それはだんだんはっきりとした人の形をとりはじめる。


1人、2人、3人・・・・・・ 

まさか! うそだろ?



「ひどいよ。服がぼろぼろだ」


 煙の中から現れたのはまだ若いザックウィックだった。自分の姿をながめてブツブツ言ってやがる。


「ぜいたく言うな。俺がとっさに空間隔離(キューブロック)を発動しなかったら、今頃みんな燃えかすになっていたんだぞ」


応じた背の高い男も同じくらい若い。


「だったらもう少し早くしてくれればよかったんだ!」


「この状況でそういうこと言うか」


なんだ、コイツら。ケンカをはじめる気かよ?


「落ち着け。服の代金は彼奴(きゃつ)らの命で払ってもらおうではないか」


 先のふたりとは親子くらいに年の離れたザックウィックが割って入った。


「そうだな」


残る3人も加わってうちらの前に立ちはだかる。あたりの空気がキーンと張りつめて息が苦しい。



 にらみ合うミュウディアンとザックウィック。隊長が一歩前に進み出る。


「自分はプリズナート隊長、ラッツ・シュバイクだ。だまし討ちのような真似は気が進まなかったのだが、上からの命令でやむを得なかった。許せ」


まじめすぎる隊長のセリフに年長のザックウィックがこたえる。


「わびる必要などない。お(ぬし)らは我々に勝利する唯一の機会を逃したのだからな」


これにはこっちの3人の中尉も顔色を変えた。


 うちはと言えば、ただただこわくて震えてるだけ。


こうやってザックウィックを目の前にするのははじめて、、、じゃないか。セイラガムに会ってるし。


あの黒ずくめより恐ろしい相手がいるかよ! 


そう思ったらみっともないほどだったからだの震えはなんとかおさまった。


それでも居並ぶザックウィックのツラなんかまともに見れやしねえ。



「パチッ!!」


 まだくすぶってる炎の中でなにかがはじけた。その瞬間、動く!


 いっせいに地面をけりつけ、空気を切り裂く。地面がえぐられ、血しぶきが飛び散る。何度かの激しい攻防の後、静かになった。


ザックウィックの何人かは負傷してるけど、くそっ、たいしたことはなさそうだ。かたや、プリズナートのダメージはでかい。


隊長は肩で大きく息をしてる。汗がすごい。きっとどっか負傷してるんだ。


ブラウン中尉は足から血を流してるし、ターネット中尉は肩を押さえて顔をゆがめてる。(ひじ)が奇妙な方向に曲がっていた。


メッセル中尉は、、メッセル中尉は、、、地面にうずくまってる。胸に大きなへこみができていた。


 うちをかばったりするから! 


感知パーシブ読心リーディング以外たいしたヴァイオスはないからって、そんなこと頼んでねえ。これじゃうちはただの足手まといだ。



 このままじゃみんな()られちまう。どうすりゃいい?!


左手首のリストバンドに目を落とす。あの夜にセイラガムから渡されたものだ。ザックウィックが現れたら使うようにと言われてる。


思念波(テレパシー)を送受信する装置で(つい)になるものはヤツが持ってる。助けを求めると同時にうちが見ている景色の映像を送ることができるらしい。


 セイラガムはその映像を頼りに瞬間移動(テレポート)して来るという。こいつはとんでもなくすげえことだ。ふつうは見えてる範囲にしかとべない。


でも、セイラガムは頭の中で思い描ける場所にならどこにでもとべる。つまり、映像や写真を見ただけの場所にでもとぶことができるんだ。


だからって、気軽にSOSできるかよ! 

だってよ、クリュフォウ・ギガロックは今戦っている相手と同じザックウィックなんだ。


 力がほしい!! ちゃんと戦えるだけの力が。

それなのに、、うちにある最強のカードはパーシブとリーディングだけなんてよ!


隊長は貴重な戦力だって言ってくれる。でも、こんな時はなんの役にも立ちゃしねえ。みんなを助けたい。でも、うちにはムリ。今、それができるのはひとりだけ。


 セイラガムは来るだろうか。仲間のザックウィックを敵にまわしてまで本当にうちらを助けてくれるんだろうか。


パーシブじゃアイツの考えてることまではわからなかった。だから、確信が持てない。もしかしたらワナかもしんない。


「あとは僕にまかせてよ」


 若いザックウィックが無造作に近づいて来る。こっちに戦う力は残ってないと思ってやがる。まあ、その通りだが。



 もう、迷ってなんかいらんねえ! 頭を振ってためらいをはらいのける。他にみんなを助ける方法は、ない!


『セ、セ、セイラガム。き、聞こえますか』


リストバンドを握りしめ心の中で呼びかける。


『い、今ザックウィック6人と交戦中です』


助けてとは言いづれえ。そんなことを考えてる間にもザックウィックは詰め寄って来る。獲物を追い詰める猛獣みてえに。


『プ、プリズナートは苦戦しています。す、すぐに来てください!』


叫びだしそうになるのをおさえて訴えた。


 返信は、ない。信じて待つしかねえってことだ。

ああ、でも、アイツのなにを信じればいいんだよ? 


うちが知っているのはあの夜のセイラガムだけ。

アイツはマリオッシュを守りたいと言った。その言葉にウソはない。


信じよう。セイラガムはやって来る。マリオッシュを守るために。

だったら、うちは・・・・・・



「キミが僕の相手をしようっての?」


 傷付いたプリズナートの前に立って身構えたうちを見て、若いザックウィックはやれやれと首を振った。


「やめておいた方がいいと思うよ。僕は手加減がヘタだから」


目が笑ってやがる。うちが戦力外なのはとっくにバレてるんだ。いいぜ。バカにしてろや。


「レイン少尉、やめるんだ!」


「無茶するな!」


 みんなして止めにかかってくる。当然だ。


「いいから逃げろ!」


うちだってF4のザックウィックに勝てるなんて思っちゃいねえ。でも、時間稼ぎならできる。セイラガムがやって来るまで持ちこたえればそれでいい。


「イ、イ、イ、イヤです。わ、わたしだけ、に、逃げるなんてできません」


どうしようもなく声が震えちまう。でも、これで覚悟は決まった。

みんなはうちが守る。どうしてこんな決心ができたのか自分でも不思議だよ。



「いいよ。かかっておいでよ。先攻はキミにあげる」


 ザックウィックはヘラヘラと笑ってやがる。挑発なんかに乗るもんか。うちの目的はあくまで時間稼ぎ。そっちが攻めて来ないのならそれに越したことはねえんだよ。


しかけるタイミングを探っているふりをして時間を引き延ばしちゃる。


ザックウィックと距離を取ったままゆっくりと周囲をまわる。逃げ腰になるな。時間稼ぎだとバレちまう。襲いかかってやるという気迫を込めてにらみ付けるんだ。


相手は身構えようともせずにうちの動きを目で追ってる。まだいけるかと思ったが、2周目はムリだった。


「おいおい、いつまで待たせるつもりだよ」


 動く! 渾身(こんしん)の一撃を空振りさせるとすかさず連続技を繰りだして来た。攻撃をかわせたのはパーシブのおかげだ。次にどんな攻撃が来るかわかっていなけりゃやられてる。


同じことが3度続くとザックウィックは首をひねった。


「キミかわいいから無意識に手加減したのかな?」


次からは思いっ切りのいいのが来るようになった。でもギリギリセーフ。なんとかかわせてる。



 さすがに変だと思ったのか、ザックウィックは攻撃の手を止めてうちを見た。


「ナヴァール中尉。そのおじょうさんには中尉の次の攻撃がわかっているようだ」


バレた! 年長のザックウィックの助言を聞いて目の前の敵が自嘲気味(じちょうぎみ)に笑う。


「なんだ、そうだったのか。キミ、すごいね」


口先でほめながら心の中ではバカにしてやがる。

ヤなヤツ! それでもF4のザックウィックだ。


早速、攻撃のパターンを変えてきた。効果を考えて正確に繰りだす攻撃から、単純だけどスピードのある攻撃に。


だんだん早くなる攻撃に反応しきれなくなっていく。次の攻撃がわかっていても間に合わねえ。ダメだ、やられる!! 



 身体の真ん中に穴が開いたような強烈な痛みに息が止まって、左肩にかみなりが落ちたみてえな衝撃があった。


少しの間、意識がとんでいたんだと思う。大声で叫びたいくらいの痛みに我に返ると、、


なんだ、こりゃ! 


自分の左肩から突き出ている鉄骨が見えた。ザックウィックのけりをまともにくらって吹き飛ばされ、倉庫の残骸(ざんがい)にたたきつけられたんだ。鉄骨は背中から肩をつらぬいていた。


 くっそー! 痛すぎるっ!! くやしいがうちにできるのはここまで。もうろうとした意識の中でザックウィックが近づいて来るのが見える。


もう、指一本だって動かせやしねえ。セイラガムはまだかよ。やっぱりだまされているんじゃ・・・・・・ 黒い絶望が胸の中に広がっていく。



 そのとき、うちとザックウィックの間に立ちはだかるものがあった。


「レイン少尉、もう充分だ。あとは任せろ」


そんなこと言ったって。隊長、あんたひどい顔色してるじゃねえか。


「ありがとう。おかげで休めたよ」


ブラウン中尉もターネット中尉もケガしてるのに。ムリだよ!


「よくやった」


いつも意地悪しか言わないメッセル中尉まで、口元の血をこぶしで拭ってうちの前に立った。


「今後の作戦で邪魔をされても面倒だ。ここで始末をつけるとしよう」


 年長のザックウィックが提案すると、見物していたほかの4人も動き出す。


『も、も、もう待てません! は、はやく来てください!! セ、セイラガムっ!!!』


一歩一歩せまり来る恐怖になりふりかまってられるか! 

リストバンドを握りしめ心の中で叫ぶ。


『し、信じます! あなたを信じます!! だからお願いです、みんなを助けてっ!!!』


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