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【キャシュトニーナ】


 執務室(しつむしつ)にはポネット総司令がひとりだった。ほかのプリズナートもいるかと思ったら、呼ばれたのはうちだけかよ。


召集があるときは5人一緒か、でなけりゃ隊長だけというのがふつうなんだがな。これはどういうことだ?


 なぞの特殊能力者ヴァイオーサーを探して3日目の夜。うちは司令からの召集を受けた。


「もうすぐここに人が来ることになっちょる。わしとその者はとても重要な話をするから、少尉にはその者の言っていることが真実かどうか確かめて欲しいのじゃ」


司令が必要としているのはうちの特殊能力ヴァイオスだ。そりゃそうだ。ほかにうちだけ呼び出す理由はない。のぞき屋でも役には立つってか。



 ソファに腰かけて待っていると、不意に司令が口を開いた。


「時間通りじゃな」


気が付くと今のいままでふたりきりだった部屋に3人目の姿があった。夜の闇をヒトの形に切り抜いたみてえな男の姿が。


漆黒しっこくの軍服に身を包みブーツや手袋まで同じ色。それだけじゃねえ。髪も肌も瞳も、とにかくなにもかも黒ずくめだ。


こいつって!! まさかな。。


思い浮かべた名前はすぐに打ち消した。そんなヤツがこんなところにいるワケねえだろ。


 それにしても、すげえ・・・きれいだ。


端正って言葉だけじゃ表現しきれん顔立ち。照明の光をはね返して冷たく光る瞳。背中に流れ落ちる束ねられた黒髪。背があんなに高くなけりゃ女と見まちがえそうだ。


近寄りがたい雰囲気じゃあるがな。


ところで、どうやってここに入ったんだ?

ひとつしかないドアにはカギがかかってるし窓はない。完全な密室のはずだろ。



 黒ずくめの男がうちを見た。からだと心がきゅっとなる。


「プリズナートのキャシュトニーナ・レイン少尉じゃ。同席させるが異存(いぞん)はなかろう」


総司令の言葉に黒ずくめがうなずいた。


「まずは姓名を名乗ってもらおうかの」


 これは尋問(じんもん)だ。なぜ司令がじきじきに尋問なんかするんだ? この不気味なイケメンは何者?


「クリュフォウ・ギガロック」


     え?   


えええええっ!!!



 司令がうちを見た。黒ずくめの言葉が本当かどうか知りたがってるんだ。そうだった。うちはそのために呼ばれたんだった。


心を落ち着けて感知パーシブを発動する。読心リーディングみてえにそのヒトの記憶まで読むことはできねえが、今考えていることはわかる。


わかるはずなんだが・・・・・・


 黒ずくめの考えはわからん。きっと心を読まれないようにプロテクトをかけてやがるんだ。訓練を受けたヴァイオーサーなら当然か。


ふつうのパーシブならそれで完全にシャットアウトできるが、うちの力はそうはいかないよ。


考えていることまではわからなくても、今の言葉にウソはないとわかる。ということは、、、


本当に、本当なんだ! 



 こいつが、、、クリュフォウ・ギガロック!! 


セイラガムと呼ばれる史上最強のザックウィック!!


本物のセイラガム!!!!


「ひ、ひぃいいいいいいいいいい!」


悲鳴が口をついた。


 逃げたい! すぐにこの黒ずくめの視界に入らないところに行きたい! 

なのに、からだが動かねえ!! 


セイラガムがすぐ目の前にいる。それだけで全身が硬直していた。



 アビュースタにもリトギルカにも、コイツに並ぶヴァイオーサーはいないと言われている。世界にたったひとりのセイラガム。


それがこの禍々まがまがしい黒づくめの男。リトギルカ軍にとっては常に勝利をもたらす英雄であり、アビュースタ軍にとっては死神にとってかわる恐怖と憎悪の代名詞だ。


そんなヤツと向き合えばだれだって硬直するしかねえだろ!


「ふぉふぉふぉ・・・・・・ レイン少尉、落ち着くんじゃ」


 のんびりした総司令の声は場違いだ。でもいつもと変わらない声のおかげでからだの自由を取り戻すことができた。


「お、お、落ち着いてる場合じゃありません。セ、セ、セ、セイラガムなんですよ!」


そうだった。司令にヴァイオスはない。自分だけ逃げてどうする!



 うちは司令を背にセイラガムの前に立った。全身がはずかしいくらいに震えてる。しっかりしろ、ヘタレキャシュトニーナ! どんなことをしても司令を守るんだ!


「頼もしい限りじゃが、そう構えずともよかろう。こやつがわしを亡き者にするつもりであればわしはもう生きてはおらんよ」


そう言われればそうか。こんな恐ろしい相手を前にして冷静でいられる司令はすげえ。


 静まれ、うちの心臓。目を閉じて、胸に手を当てる。


総司令はヒトと会うんだと言ってた。相手がセイラガムだということはわかっていたんだ。


もし、命の危険を感じていたんならプリズナート全員に召集をかけていたはずだし、そうしなかったということは危険とは考えてないからだ。


うちは司令を信じて自分の役目を果たせばいい。



 よかった。落ち着いてきた。ソファに戻って司令を見る。ウソじゃなきゃまばたき1回。ウソだったらまばたき2回。


うちはまばたきを1回した。司令は軽くうなずいて尋問を再開する。


「わしに会いにきた目的は何じゃ」


「フォート・マリオッシュが危ないことを伝えるためです」


 セイラガムによると、障壁ウォールが消えたときに入り込んだザックウィックが12人、今もマリオッシュに残って襲撃(しゅうげき)の機会をうかがっているんだと。


リトギルカの艦隊が壊滅(かいめつ)した時に脱出したんじゃねえのかよ。



「おぬしはその12人の内に入っておらんのか」


「13人目になるはずでした。ウォールのミュウディアンの時間を止めたのは自分です」


 部屋の空気がピンと張りつめた。さすがの総司令もピリピリしてる。


「その言い草じゃと13人目になるつもりはないかのように聞こえるがの」


司令の質問はセイラガムの心の中をさぐるものだ。


「ザックウィックはやめます。ミュウディアンになります」


    !!!


また大きな声をあげそうになって口を押えた。


    ウソ、だろ!? 


ミュウディアンとザックウィックは究極のかたき同士だ。いきなり敵から味方に鞍替くらがえたあ、コイツ頭がおかしいんじゃねえの? 


混乱させるためのウソかとも思ったけど本気の本気だとうちにはわかる。



「ふぉふぉふぉ・・・・・・ これは愉快(ゆかい)じゃ」


 司令はいつもと同じように笑った。でもちっとも愉快そうには聞こえねえ。


「リトギルカの英雄が祖国を裏切るじゃと。馬鹿げたことをぬかしよる」


司令は普段見せることのない鋭い目で黒ずくめの男をにらんでる。


「輝かしい栄誉(えいよ)と名声を捨ててまでミュウディアンになる必要がどこにある?」


「マリオッシュを守りたいのです」


 セイラガムはきっぱりと言い切った。


だからって、だれが信じるよ。だって、クリュフォウ・ギガロックで、ザックウィックで、敵なんだ。


たった今、自分がブロックフィッチの時間を止めたと言ったじゃねえか。それが、今度はマリオッシュを守りたいだと。


    ふざけんな!  


でも、、セイラガムからはどこか深いところに根ざした強い想い、決意のようなものを感じる。軽い気持ちで言ってるワケじゃなさそうだ。


まばたきを1回すると、老軍人は眉間(みけん)をつまんでけわしい顔をした。



「反逆罪は極刑じゃ。リトギルカには戻れなくなるぞい」


「いいんです。・・・・・・リトギルカにはだれもいないから」


 あ。。この感覚をうちは知ってる。


セイラガムから感じるこの感情は、孤独。うちと同じ孤独がセイラガムの中にもある。総司令がヴァイオーサーじゃなくてよかった。でないとこの胸のドキドキに気付かれちまう。

 

「そこまでしてマリオッシュを守ろうとする訳はなんじゃ」


「・・・・・・・・・・・・」


 どうしたんだ? 

ここまで司令の質問につっかえることなく答えてきたセイラガムが言葉に詰まった。


「守りたいからじゃダメですか」


「わしを愚弄(ぐろう)するか」


うちも知りてえ。なんで敵の要塞なんかを守ろうとするのか。



 セイラガムはだまりこんだ。リーディングを使えばなにかわかるかもしれんけど、死神にさわるなんざ冗談じゃあねえ。そんなことをしたらきっと殺される。


判断に困った総司令は質問を変えた。


「マリオッシュが無条件降伏を迫られたとき、絶対障壁ヘザーウォールを展開したのはおぬしじゃな」


そうか! どうして気付かなかったんだろう。


 兵士が見たっていう不思議な人影 

 ヘザーウォールをつくったなぞのヴァイオーサー

 マリオッシュを守りたいとほざくセイラガム


パーツはすべてそろっていたってのに!!


 セイラガムは無言でうなずいた。やっぱりそうなんだ。これで名乗りでなかったワケもわかった。そして、コイツが本気でマリオッシュを守ろうとしていることも。



 総司令は長いこと考え込んでいた。セイラガムの言葉にウソはないとわかった。


でも、だからって、敵の言葉に耳をかすなんてのは簡単なことじゃねえ。しかも、相手は死神だ。


「詳しい話を聞こうかの」


「ありがとうございます!」


 セイラガムの緊張がゆるんだのがわかる。死神と呼ばれるヤツでも緊張するんだ。


そりゃそうか。人間なんだから。黒ずくめの姿はいかにも不気味で禍々しいけど、中身まで真っ黒というワケじゃねえってことだ。




 2時間後、執務室に黒ずくめの姿はない。


総司令もうちと同じようにイスにからだをあずけてぐったりしてる。

はあ、疲れた。。とんでもねえヤツにとんでもねえ話を聞かされて、まだドキドキしてやがる。


「付き合わせて悪かったの」


声をかけられ、あわてて座り直す。


「お、お役に立てたのならうれしいです」


「おぬしがいてくれて助かった。わしひとりではあやつの言葉を信じてよいものかどうかわからずに困っておったじゃろう。それに。ひとりで会うのはわしとて怖い」


いたずらっぽく笑う司令につられてつい笑っちまった。


「すっかり遅くなってしまったの。急いで宿舎に戻った方がよかろう。シュバイク大尉が心配しておるはずじゃ」


 そうだった。今夜のことはだれにも話せねえのに、こんな時間までどこでなにをしていたのかってしつこくきかれそうだ。隊長はまだ35歳だってのにまるで父親みてえだからな。


実の父親だってあんなにうるさくはなかった。むしろうちと関わるのをこわがってた。


うちの能力を考えれば当然の反応だから、別になんとも思っちゃいねえけど。



 帰るとするか。ソファから立ち上がったとき、視界の(すみ)でなにかがきらりと光った。なんだ? 

ほら、また! 司令も気が付いたようでかがんでそのものを拾い上げた。


「な、なんですか、そ、それ?」


気になってたずねると


「なんじゃろう」


はっきりしない返事だ。


 司令が手にしているものに目をこらす。


「おぬしはなんだと思うかの」


「さ、さあ。な、なんでしょう?」


うちと司令は顔を見合わせた。


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