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どうして私は平民なのに王族と週一でほのぼのツッコミどころ満載な会話をしながら帰宅する日々を送っているのだろう。
その事に違和感こそ禁じ得なかったしこうしてふとした時に真顔で首を傾げこそしていたが、今の所はそれにより何も弊害は発生していないからまぁいいかと放置していた。
何故ならそれよりも遂に私もパン作りに関わらせてもらえるようになり、その事で頭がいっぱいだからだ。
自分では同じように作ったつもりでも、生地のこね方・スピード・成形・焼き加減・最後の盛り付け…私とミシェルさんの作ったパンは工程から完成までもうまったく違うものだ。前世では販売しかしていなかったけど、パン作り…なんて奥が深い…。早く、早くあの美味しいパンの数々を私も焼けるようになりたい…！こんな楽しみを見つけられたのも平民になれたお陰！人生楽しい！！
だけど今日は仕事が休みです。
働かせて欲しい…働かせてください…馬車馬のように働くから、私に開店前と閉店後パンを焼く練習をさせて…。
家に居てもそんな事をずっと考えては家の中をうろうろふらふらするだけなので、私は目的なんて無かったもののとりあえず散歩でもしようと家を出た。
すると、遭遇した。
「フェリシア姉上、お久しぶりですね」
勘当される前の私の義理の弟、シェド・スワローズに。
とりあえず二度見する。こんな所に護衛も連れず居るはずがない…けど、無表情に抑揚の無い話し方、私へのその呼び方、黒髪金目の中性的美少年な容姿…なんて事だ。こいつ、どんな角度から見てもシェドだ。
彼は殿下と私を婚約させるにあたり跡取り問題を解消する為にと遠い親戚から、恐らくかなり無理やりな手段で父親に引き取られて来た。私が殿下との婚約を両親に伝えられてからすぐ、特徴に見覚えがあり過ぎる一歳下の弟が出来た私は、これもう間違いも抗いようも無くあの乙女ゲーのレディロだわ…と強く実感した過去がある。
私はそんなシェドとの遭遇に急速に血の気が失せるのを感じ、何故軽率に家から出てしまったのかと激しい後悔に見舞われた。
「…あれ、もう敬語じゃなくていいのかな？」
うーん、とマイペースにシェドが首を傾げる。
…落ち着け。落ち着け私。まずはシェドが此処に居る理由を聞き出さなければならない。シェドは…見た目でクールと見せかけ、中身は意外にもわりとチャラいナンパ系キャラと見せかけ、その実――である故に、レディロの中でも随一気をつけなければいけない相手だ。
「…何故此処に？」
「ん？元気にしてるのかなーって思って」
そんなフランクな理由で私の心臓に必要以上の仕事を強いるのはやめて。まだこの子どっくんどっくん騒いでいるから。
…いや待て待て待て。あの、レディロのトラップボーイと呼ばれるシェド・スワローズが、本当にそんな理由で私に会いに来るわけがない。顔からも声からも感情を読み取れないせいでこっちの方が動揺してしまうが、私はこんな事でるんるん平民ライフに幕を閉じる気はない…！
「私の家にでも来ますか？スワローズ家の一番小さい部屋の半分程度の大きさですけれど」
「へぇ、フェリシア姉上は犬小屋に住んでるんだ。うん、いいよ。見てみたいし」
別に毒舌なのは全然気にならない。こいつはただ身内には口が軽いかつ悪い内弁慶なだけで性根は悪くないからね。心底人を見下したりしているわけでも無ければ、自分が他人より優れているとナルシストしているわけでも無い。
という事情を、レディロのお陰で私は知っているから良いけど、もし知らなかったら普通に何こいつ性格悪！ってドン引きしていただろうが。
そう、私がシェドにびくびくしているのはそんなちゃちな理由じゃない。
「…ほとんど話した事の無い元姉に会いに、よくこんな遠くまで来ましたね」
私は大好きなゲームの攻略キャラにも拘らずシェドのある事を恐れて、今まで家でも学園でも必要以上に接触を避けて来た。私とシェドの関係性はどう思い返してもスカスカで、何ならただのクラスメイトなんかとの方が会話の機会は多かったんじゃと思うぐらいだ。
普通、そんな元義理の姉で今他人な女に元気？なんてはるばる会いに来るか…？来ない。絶対来ない。
「学園ちょうど夏休みだったし、暇だったんだよね。それに、」
シェドが言葉を区切り黙った。
シェドを見る。相変わらずの無表情で、こいつ意識あるのかってぐらいの死んだ目で歩いている。…。
……三分経過。
それに何？！ちょっと！続きはどうした？！
明らかにおかしなタイミングで言葉を切ったのはそっちの癖に、何でいくら続きを促す視線を送っても無視するのこいつ？！天然キャラじゃないんだから、絶対視線に気づいているだろおい！わかってんだぞ？！
ああもう…何でこんな事になっているんだ。私はシェドを避けて来たし、彼のルートには入っていないはずだ。
ただこのまま平民としてパン売ってほのぼの暮らしたいだけなのに、どうして私の平民ライフはこんな波乱に満ちているの…っ！！
