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ニカ様を我が家にお招きし恭しく椅子を勧めた後、しかし王族に出せるような飲み物も摘めるものも平民の家にある訳もなく、かと言って何も出さないのも失礼極まりなく、私はどうしたものかとキッチンを見ながら数秒思案していた。そんな私に、察してくださったらしいニカ様が声を掛けて来た。


「何も出さなくて結構だ。いきなり押し掛けたのは此方だし、目的はフェリ…フィー、と話す事だけだからな」


空気の読める人って素晴らしい。あの俺様殿下と半分血が繋がってるなんて信じられない。あいつは読めないし読む気も無かった。

私はお言葉に甘え、大人しくニカ様の前の椅子に腰を下ろした。護衛の人達には座って万が一の時の動きに遅れるといけないので、椅子を用意する必要は無い。そういうものだ。そもそも家に椅子二つしか無いし。


「さて、単刀直入にまず要件を言おう。私は君の冤罪を晴らし、フェリシア・スワローズとして帰って来て欲しいと思っている」


嫌です、やめて!!!


テーブルを両手でぶっ叩きそんな威嚇の大声を上げたいのを気合いで堪えて、私はフェリシア時代よくしていた淑女の穏やかな笑みを作った。

しかし言うべき事は言う。


「その必要はありません。私は、フィー・クロウとして生涯を送るつもりです」


ニカ様には私の答えが意外だったようで、眉間に皺を寄せた。

ちなみに冤罪どうこうはあえてとぼけなかった。たぶんニカ様が今更になってわざわざ私の元まで来た理由は、証拠をきっちり揃えた上で私の返事だけを聞きに来たからだと思ったからだ。感情だけで冤罪に決まっていると言って来たエヴァン君よりも、ニカ様の発言は責任が重い。でも俺様殿下が間違いを認めるのも問題だから、その辺をどうする気なのかは聞かなきゃわからないけど。

だいたい、私とそこそこ親しくしてくださっていたニカ様からあの後何も音沙汰が無いのは、気にしないようにしていたけど少しの寂しさ以上に違和感を禁じ得なかったんだよね。

ニカ様には既に、あの件は私が何もやっていない事とリリちゃんが色々やった事がバレていると考えていい。つまり、ここからの私の言動により私とリリちゃんがこれまで通り幸せに生きられるかが決まる。責任重大だ。


「何故だ。…そもそも、何故君は冤罪である事を主張しなかった」


おや。これは私の答えの下手さによっては話が大きく飛躍し国への反逆と思われかねないのでは?まぁそう考えられなくもないもんね。リリちゃんの殿下への大嘘を私はわざと否定せず肯定したんだし。

何とか殿下の為だったかつ、私が元の地位に戻されないような返答を捻り出さなくては。


「…リリアナ様の方が、殿下にお似合いになると思ったからです」


私は儚げに笑った。

…どや?!しかもこれ、本心で嘘を言っていない。内心俺様殿下大っ嫌いであいつの言動にピキピキ怒りを訴えるこめかみを無視して穏やかに微笑んでいるだけの私と、奇特にも俺様殿下を心から愛し国母になる事にも積極的なリリちゃん。どっちがお似合いかなんて言うまでもあるまい。むしろこの前提を聞いた上で私って答えた奴は小一時間問い詰めたい。正直に言うなら問答無用で壁に埋めたい。


「…それは全く、ありえない話だ」


ニカ様は険しい顔で私の言葉を否定した。


……。

いえ、大丈夫ですニカ様。ニカ様は私の内心で提示した前提を御存知ない上でのその結論ですから、壁に埋めるなんて無礼は致しません。むしろしようと動いた三秒後には非力な私が護衛さんに殺されてます。


「確かに、我が弟は間違いを犯した。君には謝罪で済む話ではない。だが、だからといってリリアナ・イノシー嬢がお似合いという程には酷くないはずだ。君を蹴落とす為最低の嘘を吐いたリリアナ・イノシー嬢には誰よりも王妃となる資格が無い。冤罪で罪の無い次期王妃を陥れるような女が、良き王妃になどなれようはずが無い。それにフェリシア嬢以上の王妃適任者もこの国には居ない。リリアナ・イノシー嬢は経験も知識も所作も拙く、決定的に中身が愚かだ」


私の天使令嬢リリちゃんがボロクソ言われてる。もうやめて。

てか、私が現時点で一番に王妃適任者なのは仕方ない話ですからね。だって私、五歳から十年以上掛けてそういう教育を受けさせられて来たんだから。リリちゃんなんてまだ王妃教育受けたの一ヶ月程度でしょ?それで私より上手くやれるなら天才どころじゃないからね?これからだよ、頑張れリリちゃん。


「私は、リリアナ様の性根はとても清らかでお美しい方だと思っております。あの件は例外…仕方なかった話なのです。何より、お二人は愛し合っておりますから。…まだ殿下の王位継承までに時間がありますでしょう?きっと未来には力を合わせ、良い国を作り上げてくださると信じております」

「罪無き君を踏み台にし、何が良い国か」


もう私がいいって言ってんだからいいでしょ?!しつこいな!

というかちょっと思ったんですけど、ニカ様が私の冤罪を晴らしたいのは本当なんだろうけど、それを前提としてもこの人リリちゃんの事嫌い過ぎない?自分が真摯誠実な人間だから許せないの?だったら私も本当は嘘吐きまくっていますけど。


「ニカ様のお心遣いは嬉しく思いますが、私、この生活を存外気に入っているのです。だからご心配頂かなくても大丈夫で…あ、この事は殿下には秘密にしてくださいね?罰になっていないと知られてしまうと、別のもっと重い罰を与えられてしまうかもしれませんから」


茶目っ気たっぷりに、だけど内心本当に危惧しているそれを軽く言ってこのお話はおしまい。ついでにこういうシナリオ終了後の私の平民ライフを脅かす事件もこれっきりのおしまいにして頂きたい。


「…フィーは強情だな。わかった。だがまた来よう。君が苦しくなった時はいつでも言ってくれ。準備はいつでも整えておく」

「ふふ、次にいらっしゃる時は私のお仕事がお休みの時にお願いしますね」


平民なのに王族と交流が続く事になってしまったのは頭が痛いですけど、これにより怖いフラグは立たなかったようですから一先ずはよしと致しましょう!

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