表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/72

とある屋敷での一幕

フィー・クロウが義理の弟であるシェド・スワローズの出した三つの問題に正解した頃、フィーとそれぞれ何らかの関わりを持つ国の次代を担う中心人物達の一行も屋敷に辿り着き、中へと潜入していた。


そう、潜入である。

彼等はフィーとは違い堂々と正面から入る事はせず、裏口から屋敷へと入り、そのまま裏通路を足早に進んでいた。

無論これだけ聞くと疑問が生じるだろう。何故彼等が来た事も無い屋敷の裏口から屋敷に入れたのか、だ。

それには先頭を進む、一行の中では浮いた存在である平民の修道女ナンシーが全てを握っていた。彼女は何故か、屋敷の裏口の鍵が隠してある場所を知っていたのだ。


どう考えてもどう見てもナンシーは怪しいのだが、彼女本人は碌に言い訳をするでもなく、知ってるものは知ってるんです!と勢いだけで押し切りさらには、そんな事より聖女様の救出が先でしょう!と正論のような気もする事を言ったせいで、それぞれ警戒こそしているものの問題は後回しとされた。

メルヴィン・クラビットは既知の少女のそんな突然の有り得ない行動に、笑みを浮かべていた。彼はこの屋敷を何処の誰が所有しているかを知っている。メルヴィン・クラビットはこの国の中でも指折りの、あらゆる人物事情の情報を有した存在だからだ。

しかしそれでもわからなかった。メルヴィンがいくら頭を捻っても、出る結論は"ナンシーがこの屋敷の裏口の鍵のありかなど知っているはずがない"だ。ナンシーは幼い頃からずっとあの町で修道女として暮らしていた。そもそもメルヴィンは知っているが、ナンシー自身は自分とこの屋敷の関係さえ知らないはずなのだ。知り得たはずが、無いのだ。

だからこそメルヴィンの口元は笑う。不可解な人間の言動や心理を解明する事こそが、彼の中で至上の喜びであるからだ。



ここで別の人物に注目しよう。

ナンシーに懐疑の目が移った事により少しだけ動きやすくなったのか、ニコラスの護衛の一人、タメ口の護衛がもう一人の敬語の護衛に自然な動作で近づき声を掛けた。


「なぁ」

「仕事中ですが。私語は慎んでください」


屋敷の人物に気付かれないようにとなるべく音を出さず進んでいるとはいえ、彼等は皆ほぼ走っているような速度だ。しかしこの二人の息は全く乱れない。

声だけ聞けば、座ってお茶でも飲みながら優雅に会話していると言っても誰も不思議に思わないような呼吸の整い方だった。そもそも二人の交わす会話の音量は常人ではすぐ隣に居ても聞き取れない、聴覚に優れたこの二人であるから初めて成立する程の小声での会話なのだが。

敬語の護衛にざっくりと話を切り捨てられたタメ口の護衛だったが、全く気にした様子無く反論するようにまた話し掛ける。


「これもう俺等のオシゴト超過してる気がするんだけど。やー、だってこれ、護衛っていうか…なぁ?」

「護衛は護衛ですよ。…まぁいいです。で?何です?」


含みのあるタメ口の護衛の言葉を窘めた敬語の護衛は、面倒臭そうな顔をしながらもどうせ最終的には聞かなければならないのだろうという諦観の面持ちでタメ口の護衛に尋ねた。タメ口の護衛は機嫌良く口を開く。


「俺等ってさ、この場合どう動くのが正解な訳?」

「…」


敬語の護衛が一つため息を吐く。


「邪魔をしない程度に、護衛ですよ。我々の仕事は護衛なんですから」

「…誰の?」

「二人の、です。他はまぁ余裕があれば。…一応言いますがニコラス様は含みませんからね。何故かはわかるでしょう?」

「あーうん、必要無いもんな。でも一人はいいとして、もう一人は誰よ?」

「着いた先に居るであろう人物で、最後の恩売りと言えばわかりませんか?」

「オッケー、心得た」


敬語の護衛は、こいつにしては早く理解した方だなとかなり基準の低い感心をした。一秒も経たないうちにそんな気持ちさえ忘れたが。

話は終わったと敬語の護衛はタメ口の護衛から視線を逸らし、代わりに自分の雇い主であるニコラスを見る。

馬車からずっと無口な雇い主が、きっとこの次期王妃誘拐事件の裏に気づいている事を敬語の護衛は気づいてる。けれど、かと言って、敬語の護衛は彼に何の言葉を掛ける気も無かった。

彼等がニコラスの護衛となった時期は、フェリシア・スワローズが平民に身分を落とされた直後。護衛となった理由は、一番都合の良い立ち位置で一番都合の良い行動を取ってくれそうな人物だと思ったからに過ぎない。彼等にニコラスに対する愛着の気持ちはほぼ無い。

敬語の護衛は思う。結局誰がどう動こうが、結末は変わらない。周到に張り巡らせた罠の先に待ち受ける落とし穴に、レディローズは気づかないだろう。エル様の予言が、幾らかの道筋を既に辿ってしまった後ではくつがえす事が出来ないように。かつて自分と隣に居る相棒以外、流行病に村人全員が死んだ故郷の村と同じように。

運命とはそういうものだ。



「お前はさ、レディローズ勝てると思うか?」

「は?」


突如タメ口の護衛がまた話し掛けて来た事というよりはその内容に、敬語の護衛は反射的に、半ば口癖である低く威圧するような一言の疑問符を口から発した。


「何を馬鹿言ってるんですか。勝てる訳が無いでしょう。というか、勝たれても困ります」

「何で勝てないって思う?」

「そんなもの、彼女が圧倒的に自己理解と状況理解が足りていないからに決まっています。この勝負、彼女が全てを理解してから対峙しない限り彼女の勝利はあり得ません」


敬語の護衛はそう言ってから脳内で、しかし、と自分の言葉に自分で異論を唱えた。

しかし、逆にもし彼女が全てを理解してから対峙出来たとしたなら、勝敗は逆転するかもしれない、と。かと言って敬語の護衛はそれが彼女に出来るとは思っていないし、先に彼が言ったように勝たれても困るという考えには変わりないのだが。


「俺は、もしかしたら勝つかもって思うけどなぁ」

「はぁ?根拠は?」

「ねぇけど」


敬語の護衛は呆れ返った目でタメ口の護衛を見た。タメ口の護衛はやはりそれを気にせず言葉を続ける。


「ねぇよ。ねぇんだけどさぁ、そんなありきたりで決められてて袋小路な運命変える事が出来ちゃったとしたら、面白いなって思うだろ。あの女、やらかしてくれるんじゃねぇかって期待してんだよ。エル様の忠臣としては」

「ただの感情論ですか。…まぁ、言われてみれば確かに、それはそれで有りかもしれませんね。エル様の忠臣としては」


二人は小さく笑って拳を合わせた。話しているかさえわからないようなこの小声過ぎるやり取りに、気付いた者は居ない。



「…これが運命か。成る程、抗えない」


ニコラスが自嘲気味に呟いたその言葉を聞いた者も、居なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ