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自分が何かを間違えて来た事に気付いたからと言って、答えにすぐ気づけるなら苦労は無い。推理ものの探偵や刑事なんかは特別な頭脳を持った選ばれた存在だからすぐに閃けるに過ぎない。

シェドが執着した理由を考え無言で頭を働かせるも全くそれらしい考えの一つも浮かばない私に、シェドが笑いながら口を開いた。


「ヒントあげようか。俺って結局、フェリシア姉上には甘いから」

「お願いします」


プライドを守ったところで答えはわからないので、私は一瞬で僅かにしか無いプライドをその辺に放り投げ、頭を下げた。

流石にここで、うっそぴょーん!とでもやられたら勝てる勝てないの問題なんて考えずイケメンなお顔に一発拳入れるところだったけど、シェドは宣言通りにヒントを教えてくれた。


「俺はさ、フェリシア姉上の事があくまで好きなんだよ。どうしようもなく憧れて、どうしようもなく届かなくて…。……。だからさ、一つ目の答えとフェリシア姉上が不思議に思った事よく考えてみて。それが二つ目の答えに繋がる」


私の一つ目の答えへの疑問…それは、シェドが私を好きなのに何故怒らせようとするのかだ。


…怒らせたい、と、好きな人に思うのはどんな時だ?

好きなのにいじめる小学生男子とか、忙しくしている親にいたずらを仕掛ける子供とか、些細なちょっかいをかけてくる恋人とか。


そこに共通するものは何だ――?


「反応が、欲しいから…こっちを見て欲しくて、感情を向けてもらいたいから…?」

「そう。正解」

「…それは執着する理由っていうか、執着したからこそ起こした行動としか思えないんだけど」

「だってフェリシア姉上、俺の事全く見ないから」


何が"だって"なのか。確かに私はシェドを避けていたからシェドには全然視線を向けなかったし、興味が無いようにも映ったんだろうけど…やっぱり順序が逆なような…?

シェドにとっては既に私には充分な情報を与えてくれているんだろうけど、私にはいまいちピンと来ない。

察しの悪い私に、呆れる事無く続きを話す為口を開いてくれるシェドは確かに、私に甘いのかもしれなかった。


「俺が色んな想いを込めてフェリシア姉上をどれ程見ても、視線さえ返って来なかった。何の感情も返って来ないからこそ、余計に惨めで悔しくて憧れて、執着した」


憂いを帯びた表情のシェドに、私は恐らく全部を言ってもらった情報に漸く事情を理解した。

要するに、私がシェドに対して避けたり無関心にしていた演技の一環のせいで、元々小さかった執着心が全く満たされずに膨らんで行ってしまったと。


「…つまり、私がシェドを避けて来たせい?」

「ああ…そういう考えになっちゃうのか。そうじゃない。避けるとかじゃなくてさ…そんな表面上の話じゃない。もっと根本的」


理解していなかったらしいです。ごめんなさい。

…え?いや、他に無くない?あれ、ここまでヒントもらえてもわからない私の頭が極度に悪いのかな?シェド君あなた、難しい事考え無さ過ぎなんて自己評価していらっしゃったの嘘でしょ?それさえわからない私の頭の悪さが酷いって事になってしまうから、そういう謙遜やめてください。迷惑です。


「わかってるはずなのに、思い当たらないって…十年も一緒に暮らして来たのに絶対全く気付いてないって思われる程、俺馬鹿に見えるのかな…そりゃ完璧令嬢のフェリシア姉上よりは能力低いだろうけど、ちょっと傷つく」

「えぇえ…?いや、今正に頭良過ぎだと思っていたところなんですけど」


私とシェドは顔を見合わせ、同時に首を傾げた。


「ああ、じゃあフェリシア姉上の思い込みか。思い込み激しいもんね、フェリシア姉上」


シェドの復活が早過ぎる。後、微妙に忘れてた毒舌キャラいきなり放り込んで来た。いやそっちが元々のキャラなのは知ってるし、シェドの毒舌は率直なだけだからいいけどね…。

私、思い込み激しいのかな…確かに一度こうと決めちゃった時は、もう他の考えが全然浮かばず自分の考えを盲信して脇目振らないタイプかもしれない。直すよう努力しよ。


「思い込みが激しいってのがもうほとんど答えなんだけど、でもフェリシア姉上はピンと来てないみたいだし…俺もどうせならわかってもらいたいし…そうだな…。俺を最初に見たのは、顔にパンぶつけて来た時だったよね。あの時だけ俺を見てくれた。だから、また怒らせようと思ったんだ」


私はきょとんとシェドを見る。


「私がシェドを見たのがあの時が最初、って、さすがにそんな訳…。少なくとも平民になった私に会いに来た時点から、もうバッチリとシェドの事見てたでしょ?」

「本当にそう?本当にそれ、"俺"を見てた?」


え…?

私はシェドを見る。私は今までずっと、シェドを見ていなかった?認識して、いなかった?そんな、はずは…。


無い?本当に?


彼の名前は、シェド・スワローズ。

元義理の弟で、ファンの間ではトラップボーイと度々称される、無表情で抑揚無い口調なのに軽い口調のヤンデレな少年で…。


私は、思い込みが激しい――?



ああ、わかった気がする。


「フェリシア姉上がどうして"そう"なのかは知らないけどさ、俺の事最初から全部決めつけて考えるのやめてよ」


私はシェドの心に刺さる言葉を受け止め、唇を噛み締めた。


私は最初からシェドを、同じ家に住んでいて、義理の弟で、家族だったのに…ゲームのキャラクターとしてしか見ていなかった。

シェドだけじゃない。思えば私はゲームの登場人物全員に対し、会う前から全てをゲームの基準で決めつけて見て来た。

彼等の事を思い出そうとしてみればすぐわかる。私の持っている彼等の情報はゲームの中の事ばかりで、そして少しでもゲームから外れた言動を取る度に、私はそれが何故かと、おかしいと考える事で――無意識に、ゲームの中でなく呼吸し思考し生きている目の前の彼等を、否定していた。


私は此処で生きている。これはゲームなんかじゃない。現実だ。

彼等も、同じだ。


「やっと憧れの姉上が俺の事見てくれてる。今俺幸せだな」


シェドが笑う。確かに、幸せそうな笑みだった。

シェドがずっと楽しそうにしていた理由がわかった。私は確かにゲームからあまりにも外れた不可解な行動を取る今のシェドを、ゲームから完全に外れた存在として見ていた。

こうまでされて、してもらったからこそ今の私は、シェドを人間として見ていたんだ。


「…そうまでして、何で私が好きなのよ…。人を、人として見ていなかった私に、何で嫌悪じゃなく執着する結論…私は、」


私は、私を人としてじゃなく玩具としてしか見ていなかった兄に、嫌悪していたのに。

なのに逆らえなくて、兄の命令に馬鹿みたいに従って回らない麻痺した頭で朦朧としながら走って煙草を買いに行って、赤信号なのに、飛び出して、車に――


吐き気がする。

私は命令をしていなかっただけで、兄さんと同じ目で人を見ていた。私は世界を跨いでも憎いあの人と、確かに兄妹だった。


「…ごめん。ごめんなさい」


正しい敬語を使うより、私は私の言葉で謝った。気づけたならとにかく何より先に謝るべきだと思った。

シェドは要するに、自分を人と思わない人間と生活していたせいで、王子の婚約者誘拐に加担するという重罪を犯すまでに歪んだ。


「別に俺は俺を可哀想とは思ってないし、フェリシア姉上の事好きだし、リリアナ様の誘拐に手を貸したのとか自分でもそうまでする必要無いだろと思うし、つまり俺が馬鹿で短絡的なせいだし。…んー、謝られてもなぁ。謝るよりは怒って欲しいんだけど」


ここで怒って欲しいと言葉が出る辺り、私がシェドに与えたのは心的外傷と言えるレベルなものかもしれない。口の中に血の味が広がった。力を入れ過ぎて無意識に口内を傷つけていたらしい。

目の前の彼の事だけを考えようとしてみて、私はふとシェド・スワローズという私の元義理の弟はよく喋る子だったんだなと、とても今更な事に初めて気付いた。そんな事さえ、見て来なかった。


「怒らなくてもこれからはちゃんとシェドを見るよ」

「それは嬉しいけど…まぁ、その話はこの件が終わって俺が無事だったらするよ。まだフェリシア姉上に出した問題は一つ残ってるしね」


どうやら自分への失望と罪悪感に浸っている時間は私には無いらしい。

確かに私がシェドへの罪滅ぼしをしたいんだったら、謝るよりも何とか俺様殿下や王様やお偉いさん達を平民の立場だろうが何だろうが説得して、シェドを少なくとも死刑にならないように救うべきだ。どんな手段を使ってでも。

だから今私が取るべき行動は、シェドの問題に一刻も早く正解し、上階に居るだろうエルからリリちゃんを助け出し…この件を解決させる事だ。


「じゃあ第三問、最終問題。どうしてフェリシア姉上は運命から逃げられないでしょう?」

ぶっちゃけこの件、主人公は自分をこうまで責める程には悪く無いんですけど、主人公はまだまだ自分への理解が足りません。

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