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私はいやに静かな、大きな物音や声が聞こえて来ない上階の様子に逆に嫌な予感を覚えながら、相も変わらずシェドと向き合っていた。


「簡単って言われても、公式…解き方がわからなきゃ解けないよ。出来れば教えて欲しいんだけど…」


私は一度クールダウンし、敵意を一旦引っ込めて下手になり話を聞いてみる事にした。シェドは楽しそうな顔をして私を見る。


「俺としてはもう少しゆっくりしたいところなんだけど…うん、じゃあゲームをしよう。一つ、俺がどうしてこんな事に手を貸したのか。二つ、どうしてフェリシア姉上に執着するのか。三つ、フェリシア・スワローズは何故運命から逃げられないのか。…この三つのうち一つを教える代わりに、全部正解するまで俺はフェリシア姉上を上には行かせない。全部正解した時は、俺は…まぁ多少口は出すけど、フェリシア姉上含め誰にも手出さないし足も止めない。どう?乗る?」


私は緊張し、唾を飲み込んだ。

一つ目と二つ目はいい。だけど、三つ目。これはエルにも繋がる重大なものじゃないのか…?


「先に少し質問いい?三つ目は、エルが裏で動いて運命を操作しているから、で話を終わらせるわけじゃないんだよね?」

「ああ、違う違う。俺が話せるのは俺とフェリシア姉上についてだけだから」


それは口止めされているからという意味か、それともシェド自身もエルについては詳しく知らないのか…。

何にせよ、それを聞いたところで三つ全て正解するまで上には行かせてもらえない。そもそもそんな事をしなくても、貴族としてある程度の鍛錬を積んでいるシェドが武力ではまるっきり無力な私を足止めするのは容易いはずだから、私からすればゲームを受けない意味も無いんだけど。口約束とはいえ、ゲームさえクリアすればシェドが手を出さなくなるのも有難い。この問題が解けた暁にはシェドの歪みを少しは矯正出来る手立てもわかるかもしれないし。

となると、本人から一つ確実に答えを教えてもらえるんだから、問題はどれを聞くかだけど…。


どうして私、フェリシア・スワローズにシェドが執着するかはレディロを通して前世の頃から私は知っている。シェドがレディローズである私に羨望と劣等感を感じているからだ。引き取られて来た身としては、実子で完璧なゲームの中の主人公やそれと同じものを演じていた私には、そりゃまあ色々と感情を拗らせるのはわからないでもない。

私が運命から何故逃げられないかは…非常に気になるけど、エルがどうこうじゃなく私が主体となった話なら、一つ目のシェドの事情や感情を探るよりはまだ答えを出しやすそうだ。


「一つ目…シェドがどうしてリリアナ様を誘拐するのに手を貸すに至ったかを教えて」

「予想通り。いいけど、これ一応さっきから言ってるんだけどな…」


嘘だろ?いつ言った?

私が半目でシェドを見ると、シェドは優しく微笑んだ。今日のシェドは無表情キャラなのを忘れたかのように、その中の種類こそ違えどずっと笑顔だ。

そうしてシェドは笑顔のまま、一つ目の解答を口にした。



「俺ずっと、フェリシア姉上を怒らせたかったんだ」


…は?

私は一生懸命頭を働かせる。リリちゃんを攫った理由の話だよね…?つまり?え?


「リリアナ様を攫った理由が、私を怒らせる為…たったそれだけ…?」

「それだけ」


リリちゃんがとばっちりどころの騒ぎじゃないんですが?!

てか、それ私がまさかと思いつつもついさっき似たような事聞いて――いや、その時は全部私を嫌いだからなのかと聞いたんだったか。


「本当に全部それだけの為…?いやでも怒らせたいけど私の事を嫌いでは…」

「無いね」

「意味がわからないよ…」


何で私を心底嫌いな訳でも無いのに、こいつは重罪を犯してまで私を怒らせようとしてるんだ…。シェドがわからない。さっきからシェドについてこればっかり言ってる気がするけど、本当にわからない。むしろ話を聞く程に謎が深まる。同じ人間かどうかも疑わしく思えてきた。


「一つ目の解答は以上。…さて、二つ目。どうして俺はフェリシア姉上に執着しているでしょう?」

「…スワローズの実子かつ上手く立ち回る私に、羨望と引け目を感じていたから」

「ふーん…そこまではわかってるんだ?でも、それを踏まえての答えを俺は聞きたいんだよ。貴女自身の口からさ」


それを、踏まえて?

シェドの言葉を反復しながら頭を捻る。私に羨望と引け目は感じているけど、それを踏まえた上で他にもっと大きな理由が…?


「私が、勝手にスワローズの家の事を全部シェドに押し付けて平民になったから…?」

「そんな最近の話じゃなく、俺と最初に会った時からずっとの話」


シェドと最初に会った時…確かこの世界がレディロの世界だと気づいた後で、私はシェドの事を避けようと既に決めていたはず。私はとにかくずっとさり気なくシェドを避けて来ただけで、特に執着されるような何かをしたとは思えない。

でも、私がそう思い込んでいるだけで、事実私は何かをしたんだろう。何をした…?


…それにしても、私もシェドも黙るとやはり上階の静けさに違和感を覚える。未だに気になる物音や声が聞こえて来ない。これは恐らく、戦闘は疎か声さえ荒げていないだろう。

俺様殿下、気絶させられてあっという間に無力化されていたりしないだろうな…?ミイラ取りがミイラになって人質増えちゃいました、なんて洒落にならないぞ。


駄目だ駄目だ、今は目の前の事に集中しよう。


「やっぱりフェリシア姉上は、自分じゃわかんないのか。予想は出来てたけどさ」


シェドは笑わず、何故か寂しそうに、だけど言葉通りわかり切っていた事であるのを物語るような諦観の目でぽつりとそう零した。


私はそれを見て、自分が無意識に何かを間違えて来てしまったんだろう事だけ、ぼんやりと理解した。

シェドがリリちゃんにした事は許されるものではないし、彼は間違い無くその件に関しては加害者だ。

だけど私もたぶん、シェドを知っていて止められなかっただけじゃない。私自身も間違えたから、私とシェドはきっと今こうしている。

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかったのですが、助けに来た先で本筋に関係なく長長と義理の弟と会話する神経が解りません。
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