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家からもさっさと追放してもらえた私は、与えられたというか手切れとして渡された予想通りの一年は遊んで暮らせる資金と住居の鍵を手に入れ、馬車での最後の送迎を断り簡素なワンピースで家を飛び出した。


ああ、るんるるんと今にもスキップしてしまいそう!

これから仕事探しにご近所付き合い、その土地の慣習にも馴染まなきゃ!大忙し!なんて幸せな大忙しなの?!


まぁ!いつの間にか本当にスキップしちゃっていたわ!あらやだ、毎日使っていたせいで言葉がまだたまに令嬢っぽくなっちゃってる!もう必要無いのに!そう!必要無いのに!

ああスキップじゃ足りない!先生に教えられている時は大嫌いだったのにワルツを踊りたい!一人で馬鹿みたいにワルツ踊るなんて素敵!ああでも、ワルツってやっぱり令嬢っぽいし…ここはコサックダンス?!やった事無いけどコサックダンスにトライしちゃう?!


家を出て十五分足らずにして私がテンションの上がり過ぎで錯乱し始めた頃、黒歴史を生み出す前で丁度良いと言えばちょうど良かったのかもしれないタイミングで、目の前に私のテンションを落ち着かせる…要するにテンションをだだ下げる人が立ち塞がった。


「フェリシア様…!」

「…あら、エヴァン様」


私の目の前に立ちはだかるはレディロの攻略対象キャラの一人…学園でヒロインに一目惚れし婚約者が居ようと諦め切れないとヒロインに迫って来る肉食系。けれどわんこ属性でヒロインの言う事には逆らわない茶髪緑目の当然イケメンなエヴァン・ダグラス君。

俺様殿下と比べて紹介が具体的なのは当然の話。私の好感度の差だ。

でも自由を手に入れる為なら大好きなゲームキャラとはいえ眼中無しだった私にとって、この場面でイレギュラーにもキャラと遭遇するなんて不安しかない。豪華絢爛な冷たい鳥籠から羽ばたいて行こうとする私に、貴様何の用だ。


「私は…フェリシア様が無実だと確信しております!共に貴女の汚名を晴らしましょう!」


あ、いえ、盛り上がってるところ悪いけど、マジでそういうのいいんで。

これがゲームの一場面なら一枚絵スチルが手に入りそうな真剣な凛々しい表情で朝日をバックに訴え掛けてくるエヴァン君。しかし私の内心のせいでかなり間抜けな図に成り下がっている。


「エヴァン様、それは貴方の買いかぶりですわ。私は確かに殿下に近づくリリアナ様に嫉妬に駆られ我を失い、取り返しのつかない事を致しました。これはその罰…それを受け入れる事こそが、私に残された殿下への唯一の罪滅ぼしなのです」


はい、この程度の口から出まかせは、俺様殿下がやらかした事に私が巻き込まれないよう両親から叱咤折檻されないように日々培ってきたし、前世からの上乗せがあるので余裕でスラスラ出て来ます。尚、悔いるような苦笑もオプションにつけています。今日も私の演技は完璧だ。


「フェリシア様、そんなにも…殿下の事が…っ」

「ええ…一生に一度の恋でしたわ」


淡く涙を浮かべ、憂うように空を見上げた。あー朝焼け眩しいわー。


ちなみに私が何で大嫌いな殿下をあくまで好きだった設定にしているかというと…一応私の今の立ち位置は、リリちゃんが立つ事になる場所だったはずだ。本来ヒロイン役の私が此処に立つ事で望まないシナリオ変化が生まれ、望まない結末になる危険性を私は予めちゃんと危惧していた。エヴァン君はヒロインに一目惚れ設定だ。という事は、ここで私がボロを出し間違ってエヴァン君ルートに入ってしまうと、もしかしてもしかしたらエヴァン君の好意という名の刃によりリリちゃんの私視点での優しい嘘がバレて私の名誉が回復してしまい、私はスワローズ家に戻されてしまうかもしれない。

ダメ。そんなのダメ絶対。俺様殿下から逃げられ王妃となる運命からも逃れられたとしても、公爵家と貴族としての重圧がリターンなんて無理。我が儘と言われようと無理。

だから私は、ここで間違っても救済の如き孔明の罠、エヴァン君ルートに入りかねないよう注意を払わなければならない。

それにあたり、殿下の事まだ好きよって言い訳が都合良いかなってそれだけの理由で、百パーセント嘘で構成された俺様殿下を好きなふりをしちゃってます。


「…もう行かなければ。旅立ちはやはり朝に限りますわ。エヴァン様、最後に私に会いに来てくださりありがとうございます。貴方は優しい、私の友でした」


涙目の笑顔で、遠回しにお前恋愛対象じゃねぇからと木っ端微塵にエヴァン君の恋心をぶち砕いた私は、凛とした顔でつかつかとエヴァン君の隣を通り過ぎる。

ああエヴァン君、私エヴァン君のハッピーエンドで初めて主人公のお願いを振り切ってキスしてもう誰にも渡さないって抱き締めた君に悶え転がったよ。でもノーマルエンドで、殿下と婚約破棄にはなったけどエヴァン君に恋愛感情は芽生えず、これからもお友達で居ましょうねと笑顔で言った主人公に逆らえず苦笑いで仰せのままにって言うエヴァン君も好き。バッドエンドで大怪我を負ったヒロインに、俺が守れなかったせいでって勝手に責任感じて泣きながら独り善がりに消えるエヴァン君も好きだったし。


「っフェリシア様…!」


私の見た目演技は完璧だったはずなのに、私の心の中のエヴァン君好きよという邪念でも聞こえたのかエヴァン君が慟哭するように私を呼び止めた。

私はそれに驚き、びくりと足を止めてしまう。しまった。ち、違うんだよ、エヴァン君。君の事は確かにキャラクターとして好きだったけど、それはあくまで博愛な意味で、ミーハーなファン的感情で、ぶっちゃけ本気で恋愛するとしたら家の事とか貴族の事とか置いておいたとしても、君の愛重いしちょっと…。


「今は俺を好きじゃなくてもいいから!だから!俺の手を取ってください!俺は…っ俺は貴女が好きなんだ!俺を、選んでください…!そうしたら貴女を連れて逃げる!二人でなら平民でだって幸せになれる!いえ、幸せにしますから…!!」


後ろから聞こえる情熱的告白。

でも平民の評価低過ぎて私の前提と違うので戸惑います。二人じゃなくても平民になれる事が既に私の幸せで、私今世の人生で今一番幸せピースいぇいいぇいな心情なんです。


「…ごめんなさい。私の事は、忘れて」


よって私は悲痛な声で、けれど内心では歯牙にもかけずあっさりと断り、今度こそエヴァン君の元から走り去った。

なんという時間の無駄な強制最終イベント。さすがに悪役じゃなくヒロイン役という事か。

いや、時間の無駄なんてさすがに言っちゃいけないよね。ごめんねエヴァン君。君、ほぼ一目惚れでここまで重くなれるぐらい恋愛免疫無いみたいだから、きっとまた大恋愛出来るよ。私平民ライフをエンジョイしながら応援してるからね。

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