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とある町外れでの一幕

元公爵令嬢フェリシア・スワローズ、現平民のフィー・クロウの家を出て早足に馬車へと向かうニコラスは、二人居る護衛の内の一人が足を止めた事に気付き、己の足も止めた。

相変わらずつまらなさそうな顔をしたその護衛の男に、ニコラスはどうしたのかと逡巡する。

王子のニコラスがこうして気を遣う事からもわかるように、彼を護衛する二人の男達はただの護衛ではない。王子を好きに出歩かせても二人で守り切れると一任されているような、国一番の強さを誇る剣士と称して過言でない、国の切り札の一つでもあった。

故に、彼等は護衛でありながら多少の我が儘は軽く許される。


「ニコラス様、思ったんだけどさー。パン置いといたらあの人勿体無いって結局食べるんじゃねぇの?」

「…行って来る」


ニコラスは瞬時に踵を返した。

その隣でもう一人の護衛が腕時計を見ながらため息を吐いたが、ニコラスにとってはその様子に気づいていても気づかずとも彼女の元に戻る事に変わりは無い。


「行ってらっしゃーい。俺等此処で待ってるなー」


あっさりと、暗にどころかおおっぴらに護衛を放棄する宣言をしたタメ口の護衛に、もう一人の護衛が呆れ眼を向ける。


「護衛として我々が付いて行かないのはまずいのでは無いですか?」

「別にいいだろ。レディローズはどうせニコラス様に危害なんて加えねぇし。ニコラス様も多少は腕立つし。腹減ったし。パン食いてぇし」

「は?お腹が空いていらっしゃるなら先程のニコラス様の手料理でも食べればよかったじゃないですか」

「やだよ、あんな貴族料理。口に合わねぇ」

「それは同感ですが。…疲れていらっしゃいます?」

「おう、お前もだろ?疲れるよな、オシゴト」

「…」


敬語の護衛は目を逸らして黙り込む。タメ口の護衛は解答を最初から求めていなく、むしろ聞かずともわかっているとばかりに息を吐くようにほんの少し笑った。

周囲には二人の会話を聞くような人どころか人通りがまるで無い。馬車までの道を人通りの少ない道に指定したのは彼等自身だ。


「この一週間が終わったらさ、オシゴトどうするよ」

「…そうですね、長期休暇をもらって此処で暮らすのも悪くないのでは?」

「お、いい案出すじゃねぇか。ならいっそ辞めようぜ。此処は俺等の故郷にも似てるし、ニコラス様に付いてしかまだ回れてねぇけど結構住みやすそうだ」

「はい。故郷には帰るつもりはありませんか?」

「お互い様に、だろ?あんな誰も知り合い居ない廃村、行く意味ねぇよ。俺等に帰る場所があるなら一つだけだ」


今度は敬語の護衛がにやりと笑い、タメ口の護衛に向けて軽く拳を突き出した。すぐにタメ口の護衛がそれに自分の拳を軽く合わせる。

ずっと昔から、子どもの頃で廃村となる前の村で遊んでいた頃から、お互いの気分が良い時にだけ二人はそんなやり取りをする。


「あなたは偶にいい事を言いますよね」

「まぁな。…つーか、お前はいい加減俺にぐらい敬語辞めたらどうよ。生まれてすぐからだから…もう二十八年の付き合いだぜ?」

「は?でしたらあなたこそ、目上の方には敬語を使う事をお覚えになった方がよろしいですよ」


さっきまで仲良くしていたかと思えばまたすぐ睨み合う二人は、端からは国一番の剣士達とも二十八歳のいい大人達とも見える事は無いだろう。仕事中ほぼ言葉を発しないようにしているのは正解と言える。その理由がただ面倒臭いからだとしても。


「……」

「……」


ふと、幼馴染の無言の了解で睨み合いをやめた二人は同時にため息を吐いた。


「怒られますかね」

「だろうな、あの人はすぐ怒る。そこらのチンピラの千倍怖ぇし…一緒に怒られような」

「仕方ありませんね」


護衛達はまた二人同時に苦笑した。二人の動作が妙にシンクロするのは、幼い頃より苦楽を共にしずっと共に生きていたからと言えよう。


「あ、家借りるならパン屋の近くにしようぜ。自炊出来ねぇし」

「それよりスムーズに仕事を辞める方法を…考えるのはどうせ私の役目ですね。はいはいわかっていますよ」


二人は戻って来たニコラスを遠くに見つけた瞬間、また仕事中の気怠げな顔に戻り口を閉じた。

今日もエル様の為に、と頭の中でさえ同時に考えた二人は似た者同士である。

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