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転生者が私以外に居たら、と考えた事が無い訳ではなかった。

だけど、だってあまりにも私が行動を起こすまでの間はおかしいなと思う事が少しとして無かった。レディロのシナリオから全くのずれを感じなかった。

だから、当たり前にこの世界には私一人しか転生者は居ないんだろうなと思い込んでいた。

転生者が居たとして、色んな話をして笑って楽しく居られるようなそんな仲間であるものだとも。



それはそうとノラが帰ってくれない。


「あー、此処犬小屋みてぇだけどこの狭さが逆に落ち着くわー。今日泊まっていい?」

「やめて」


私の家は誰かを泊める想定なんてしていないし無駄にお金掛けたくないので布団一つしかないんだよ。そもそも王子を家に泊めるとか色々無しだ。

ノラが帰ってくれないせいで全然思考に集中出来ないし、こいつ本当面倒臭い。好きだけど面倒臭い。


「ノラン様、明日は昼から公務があるのでもう出ないと間に合いませんよ。睡眠もほぼ馬車でになります」

「えー?マジかよ」

「此処に来たらスケジュールが詰まる事は事前にお話ししましたが?」

「お前も乗り気だっただろ。フィーにリリアナの話して反応をどうちゃら」

「ノラン様」


帰ってくれる流れは有り難いんだけど、なんか不穏な話始めた。反応探られてたのか。

リリちゃんの話に、普通に素で心配したのはいいとして――他の転生者が居る可能性に私が気づいた事は、どう見られているんだろうか。もしゼロがその転生者と繋がっているなら、私が何かする前に先手でそいつに大事件でも起こされそうで怖いものがある。

…ちょっと此方からも探り入れてみるか。ゼロ、には勝てる気がしないからノラだな。


「ノラ、ノラの周りにさ、未来でも知ってるみたいに行動する人とか居ない?」

「お前」

「いや私以外で…って私?」


え、私何かそんなやらかすような事してたっけ?と一瞬考えすぐ思い当たる。隣国の予言の話だ。それは今どうでもいい。


「私はいいの、私は。他には?」

「他ってなると、そりゃエルじゃねぇの?」

「…エル?ちょ、ちょっとその人について詳しく!」

「あ?お前エル知らねぇの?」


いきなり当たり引いた感が半端ない。

私は身を乗り出し、大きく頷きながらノラに詳しく尋ねようとした。その肩をそっと優しく押され離される。

もちろんノラにじゃない。ゼロにだ。ノラならこんな優しい動きは出来ない。


「ノラン様、かの人に関しては同盟国だからと教えて頂いているだけで国家機密ですよ。フェリシア様でさえ知らされていなかったのですから、最低限の分別は弁えください」

「けど、エルについてぺらぺら話してエル怒らせりゃ、上手いこと戦争出来るんじゃねぇの?」


私は居住まいを直した。思ったよりヤバそうな案件だった。

ノラは平静な顔して戦争に繋げて来るから怖い。私で暇潰しをしているとはいえ、彼はまだまだ戦争を諦めている訳じゃないらしい。とんだ爆弾だな。義理の弟のシェドは対私専用地雷だったけど、ノラは私に当たるとは限らないけど広範囲爆撃機って感じだ。どっちが良いかとか考えたくもない。どっちもやめて。


「戦争になんてなりませんよ。エルを怒らせれば、何も始まる前に潰されてチリも残らないでしょう」


エルは核ミサイルらしい。ゼロにこうまで恐れられているって、凄いなエル。でもこのままでは何も情報が手に入らなさそうだ。

エルが本当に転生者ならそこまでの力は無いと思うんだけど、もしも違くて単純に最強なだけだったら、無理に聞いて本当に隣国潰されたら洒落にならない。

…今度メルちゃんに聞こ。あの子なら何かしら知ってるでしょ。


「ちなみに何か言える事は無いの?年齢とか性別とか」

「それは言えるかの前に俺も知らねぇし」

「え。それって、つまり会った事無いの…?」

「ねぇな。エルは表にゃ顔割れてねぇんだよ。存在自体はともかく顔まで知ってんのはこの国の王ぐらいなもんじゃねぇか?本名も性別も知らねぇし、歳も百年前から居るやら十六年前ぽっと出て来たやら色々言われてるけど、」

「待って。…何で十六年前なの?理由は?」


前言撤回。十六年前…私でありヒロイン、それからリリちゃんや攻略キャラ達の多くが生まれた年であるその年が話に出て来た以上、後でメルちゃんに聞けばいいなんて楽観的に考えている場合じゃない。

わざわざ十六年前と中途半端な年が噂になるには何らかの理由があるはずだ。


「そりゃ、十六年前にどっかの貴族の赤子にエルが予言で、」

「ノラン様。…戦場で死にたいとまだお思いでしたら、口は慎んでください」

「…ん、ちょっと喋り過ぎたな。やっぱ好みの女には口軽くなっちゃうのが男の性だよなぁ」


ノラが茶化すようにへらりと笑う。私は黙り込んだ。


十六年前、貴族の赤子に予言。…偶然?そんな訳が無い。そんな、訳が。

誰の話をしたかは知らない。だけど、その予言が当たったのはただそれを最初から知識として知っていたからじゃないのか?

…十六年前に予言したなら少なくともそいつはその時赤ちゃんでは無かっただろう。だけど、元より予言は子どもが戯れに口にするようなものでもある。ならそれを訴えたのが子どもでもおかしくない。

最初はそこまで信頼されなくても、知っているシナリオを話しているだけのそいつの言葉は外れない。嫌でも重要視されて行くだろう。子どもならむしろ顔を知られないようにしているのもそうしないと信用されにくいからだと理由付け出来る。

だけど王様だけが顔を知っている、そんな立場を許されている以上、元々かなり高い身分の存在の確率が高い。

…そいつの年齢も性別もわからないんだから、もしもそいつが素知らぬふりで社交界中なんかに何も知らない私と既に話した事があったとしても、おかしくは、ない。


「じゃ、フィー。俺等帰るわ。…精々俺にとって面白い事やらかしてくれよ?」


帰り際ノラが近寄って来て耳元で囁いた言葉に寒気がした。

偶に忘れかけては本人により思い出させられるノラの本質はあまりにも狂気的で恐ろしい。


振り返った先の背中からは、お忍びだからとあまり目立たない服でも人目が無いからと雑な歩き方でも、それでも尚、王子としての風格を感じざるを得ない。ゼロが付き従いたくなるのも頷ける。

しかしそれに伴い、そんな彼をさえ口を噤まさせるエルという存在が私にはあまりにも強大に思えた。


勝てるだろうか。…勝たなきゃ。

そうじゃないと、この想いは報われないのだから。

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