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センチメンタルといえばセンチメンタルだけど、メルちゃんのお陰で一人でうじうじキノコ生やしながらネガティブな考えに囚われているよりはよっぽど明るくなれた。
さて、相変わらずメルちゃんは今にも帰ろうとしているけど、私としてはお帰りはもう少し話して私がむしろポジティブな楽しい気持ちにまでなれてからにして欲しい。凄く自分勝手だとは思うけど、メルちゃんはきっと何だかんだで許してくれる。
となると話題だけど、うーん…あ、そういえばメルちゃんの事で一つ気になっている事があった。
「ねぇ何でメルちゃんそんなキャラなの?私の知ってるメルちゃんは、もっとあざとくて口調もだよとかだねとか可愛らしく、人間を知りたいって楽しそうに言いながらも俗世からは隔絶して生きてるような子なんだけど…」
今のメルちゃんはぶっきらぼうで淡白かと思いきや突っ込み属性でお人好しという、いまいちレディロのメルちゃんとは違うキャラ属性になってしまっている気がする。
私がレディロのメルちゃんも好きだったけど今のメルちゃんも大好きな事は前提として、この差異はやっぱりちょっと気になった。
「あ、あざと…何だよ、あんた俺の事ちゃんと前から知ってたのかよ…。俺だってあんたが相手じゃなきゃもうちょっとなぁ…」
俯き赤くなりながら悔しそうに睨み上げてくるメルちゃんの拗ねたような呟きに私は微笑みを浮かべた。尚、心の中では感謝の合掌をしている。恋愛する気は無いけど、君はいつだって私の中でど嵌りしていた大好きなゲームのキャラクターです。凄く可愛い、ありがとう。
「だいたいあんたこそ、敬語はどうしたよおい」
「疲れちゃった」
「酷ぇ理由。俺に素出すぐらいなら、ニコラス様にも出してやりゃいいのに」
私は笑って下手な誤魔化しをした。いつもみたいに上手にしなくてもメルちゃんは許してくれるだろうから。
メルちゃんは面倒臭そうに溜め息を吐いた。けどやっぱり、それ以上掘り下げて聞いてくる事は無かった。
「じゃ、あんた元気そうだし俺もう帰るわ」
「うん、ありがとう」
素直にお礼を言って、護衛の人が開けたドアを通り抜けるメルちゃんの背中をじっと見送る。
だけどふと気になって、外に一歩踏み出した足を止めるように口を開いた。
「ねぇ」
胡乱げな顔で迷惑そうに振り返ったメルちゃんは、目が赤いせいで相変わらずそういう表情をするとちょっとだけ怖い。中身が優しいのとか身長が低いのとか、そういうオプションが無きゃ今の性格だと微妙にノラとキャラがかぶってしまうところだ。まぁ、何にせよ根本の危険度が雲泥の差だけど。
「結局質問には答えてくれないの?」
「は?質問?」
「だから、何で私に良くしてくれるのかってやつ」
得心したらしいメルちゃんは、だけど素直に答えてはくれず唸る。
「一問一答にしてはあんたからの質問回数の方が多過ぎだっただろ」
「あれはビジネスで、これはただの友達同士の会話だから、それは適用されないの」
私の屁理屈に呆れた顔ででもちょっと面白そうに笑ったメルちゃんは、友達の言葉を否定しないでくれた。ニカ様にもノラにもナナちゃんにもどうしてもかぶった猫を外せない私にとっては、メルちゃんが一番の仲良しだ。
「あー…それでも、やっぱやめとく。あんたも聞いたら嫌な気分になるだけだろうし」
「私が嫌な気分になる事…?」
まるでわからなくて首を傾げた。
私に対して優しい事への理由でどうしたら私が嫌な気分になるというのか――はっ!もしや?!
「や、やっぱり私を好…?!」
「んなわけねぇだろ、そろそろ殴るぞ?!」
私のからかい混じりなボケにメルちゃんがわりと本気でキレた顔で拳を握り締めていたのですぐに両手を挙げ降参の意思を示した。メルちゃんは舌打ちし、手を開く。
何だか私のせいでメルちゃんがどんどん公爵家跡取りと思えないような庶民的な子になって行ってしまっている気がするけど、まぁ気のせいだろう。…メルちゃんが親からあの子と付き合うのはやめなさいって言われたらどうしよう。あっさり了解って頷かれる気しかしないよ。悲しい。
メルちゃんが目算三メートルぐらい我が家から離れ、最後の三人目の護衛の人が閉めようとしたドアを慌てて止めた。
「ねぇ!」
メルちゃんが疲れた顔で振り返る。
「…何だよ、いい加減本当に帰らせろよ」
確かに。私は何度彼を呼び止めれば気が済むのか。…でも。
「また来てね」
「…お前友達居ねぇの?」
「居るよ。素を出せる人が居ないだけで。ねぇ、返事は?」
とびっきり可愛く見えるように計算した角度と媚び過ぎはしないのを意識しつつほんのりと甘えた声音で聞いたのに、メルちゃんは照れた素振りの一つも見せてくれなかった。…いや、それで惚れられても私が困るだけだからむしろ良い事なんだけど。
メルちゃんは世話の焼ける子供か妹でも見るように苦笑した。
「気が向いたらな」
またさっさと歩いて行ってしまうメルちゃんに、隣の家は空き家だからと声量を気にせず私は叫んだ。
「向いてね!」