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意識の浮上と同時に、ああまた馬鹿な夢を見たなと思った。前世の悪夢の次は自分がか弱い乙女にでもなったような夢とは。

まるで今でもニカ様の手を握っているようなふわふわとしたくすぐったくて笑っちゃうような気持ちで、私は目を開ける。


目が合った。



「…………おはようございます」

「ああ、おはよう」


一見冷たくだけど優しいアイスブルーの瞳と透き通るような美しい銀髪を持った、よく知っているその人を明確に認識した私は途端、急速に血の気が失せて行くのを感じながら切実に思った。

もう一度意識を失いたい、と。


身じろぐと同時に目を逸らし、そっとそーっとさりげなーくニカ様の手から自分の手を離す。

聞きたい事も謝りたい事も山ほどあり過ぎて、最早どうしていいのかわからない。だれかたすけて。

なんて思っていても始まらない。私は「このまま眠って難を逃れようそうだそうしよう!」と訴える心の中の現実逃避推奨悪魔を撲殺し、まだ頭が回っていない自覚はあるものの身体を起こす。


「…無理やり引き止めてしまい申し訳ありませんでした。…ニカ様が寛容な心で振り払わず居てくださったお陰様で安眠出来ました。…ですが、今後は錯乱している私の馬鹿な願いなど無視してくださると嬉しいです…」


初手、土下座。

前にナナちゃんがしていたからこの世界にも土下座文化はあるとわかっていた。まさか役立つ日が来ようとは。もう二度と来ないと思いたい。

しかしここでいかような罰もお受け致しますとは言えない私は、とにかく謝り倒すしか道は無いのだ。だって、じゃあ俺様殿下にリリちゃんとの真実を告げろなんて言われても、私は絶対に言えないからね。


「何を謝っている?」


顔は上げないまま、この質問は罪状をいかに自覚しているかを確認するから自らの口で述べよという意味か、と震えながら口を開いた。


「王族たるニコラス・キャボット様の希少なお時間を私の身勝手により無駄に浪費させた事に御座います」

「…無駄に…浪費」


どこか釈然としない声でニカ様が私の言葉を繰り返す。部屋の端からため息が二つ聞こえた。ほんの少しだけ顔を上げ視線を向けると、ニカ様の護衛二人がやれやれとでも言いたげに私とニカ様を呆れた顔で見ていた。

お前等居たのか。私へは未だしも、何でニカ様にまで呆れた顔をしているんだ。


「頭を上げろ。私は、好きでフィーに会いに来て、好きで留まった。実に有意義な時間を過ごしたと思っている」


ニカ様は堂々と私を許す言葉をくださった。その心遣いが苦しい。穴掘って埋まりたい。二階の窓から飛び降りたい。

私は気まずさ満点の顔で渋々土下座をやめた。見上げたニカ様の顔は、何故か異様に嬉しそうににこにこしている。

……え、何?何でこのタイミングでそんなに嬉しそうなの?鬼畜腹黒設定とかこの人に無かったはずなんだけど?


私の困惑した表情の原因に気付いたらしいニカ様が、ハッとして咳払いし顔を引き締めた。しかしまだ口元は緩く弧を描いている。


「そんな事より、フィーは私を兄とは思わないと言ったな?」


言ったよ。確かに浮わついた馬鹿な思考回路の時の私はそんな事言っちまったよ。

何でわざわざ正気に戻った後の私に確認をさせる…?この人、私を羞恥で殺すタイプの罰を与えようとしているのか?

私が渋々頷くと、ニカ様は満足そうな顔をした。馬鹿な私が悪いとはいえ、なんていじめだ。


「では私達は友人だな?」


朗らかにニカ様が確認するように聞いてきた。私は顔を笑顔で固定させたまま逡巡する。


……そう、なのか?

今平民な私が、王族を友人です!と言うのは不敬な気がする。かと言って、兄のようだった人というのは既に否定したし、知り合いで済ませるにはその領分を越えている気が凄くする。

友人…友人かな。確かに。ニカ様からはそんな風に思われていないだろうとは思っていたけど、私がこの世界で一番親しくさせて頂いていたのはニカ様なんだし…違うとは言えない。


「…ニカ様さえよろしければ、はい」


ニカ様は破顔した。私にはそんなに何が嬉しいのかさっぱりわからなかった。

明らかに私よりニカ様が優位に立っている現状では、自分の家なのに酷く居心地が悪い。特に意味無く居住まいを直した。


「フィー」

「はい」

「父は、私でもいいと言ってくれた」


抽象的だな、おい。

陛下とその子供の王族の話という時点で、色々邪推出来そうだぞ。何で私に言うんですか。それ王位継承とかのドロドロした話じゃないでしょうね?


「だから、私も欲しいものを手に入れようとしてみようと思う」


何この宣言、怖いんですけど。

私は真面目な顔で聞きながら、心の中では子犬のようにぷるぷると震えた。そういうのは私の居ない所で私と関係無い人に言って欲しかった。やめて、フラグ立てないで。権力争いに巻き込まれるのとかマジ勘弁…!

すっきりした表情のニカ様と対照的に、私は頑張ってくださいとばかりに微笑みながら心の中で泣いた。


こうしてニカ様は最後に私を怖がらせる宣言をするだけすると、安静にと言い残して帰って行った。

私は笑顔で見送った五分後、ニカ様の発言を無視するようにいそいそと家を出た。


ナナちゃんに会いに行こう。

私に今必要なのは、安静よりもストレス解消の為の癒しだ。

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