夢と現実のおはなし
お兄ちゃんが居た。
私のお兄ちゃんは、とても格好良くて、とても優秀で、皆お兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんは世界の中心で。
そんなお兄ちゃんが、私は××だった。
お兄ちゃんを見ると、皆羨ましいねって言うから、私は照れながら、うん、嬉しいって微笑む。
それが××だから。
お兄ちゃんはとてもとても凄くて世界の中心だから、私はいつもお兄ちゃんの陰で、お兄ちゃんの不利益にならないように、お兄ちゃんに不快に思われないように、お兄ちゃんを怒らせないように、お兄ちゃんの為に、生きていた。
お兄ちゃんの、××で。
高校生になって、私は一人暮らしを始めた。
私みたいなのが傍に居るとお兄ちゃんに迷惑が掛かるからと両親に言ったら、二つ返事で許してくれた。
だけどお兄ちゃんは、私の学校によく来た。一人暮らしの私の家にもよく来た。そこでは、誰も見ていない。私はもっとお兄ちゃんが××なった。
大学生になった私は、今度こそお兄ちゃんから××た。
準備を重ねて、カモフラージュを重ねて、利用出来るものは利用したら、しばらく幸せになれた。久しぶりに、私は私だった。
ある日。とある日。運命の、日。
お兄ちゃんに、偶然再会した。私は、変われたと思っていた。お兄ちゃんから××られれば、それは習慣じゃなくなって、私はお兄ちゃんに××える、と。
思い込んでいた。
お兄ちゃんを見たら、また私は戻った。
車に轢かれた。
私が、馬鹿みたいに焦って××て急いだせい。
私が、お兄ちゃんの××を××えずにいつも通りに聞くお人形だったせい。
私が、私が、私が、
私は前世の自分が嫌いだ。
最後まで勝てずに後悔だらけで一矢報いる事さえ出来ず、死んだ自分が嫌いだ。運命に振り回されて弄ばれているだけだった自分が嫌いだ。
私は人形にはもうならない。
張りぼては得意だ。だって、ずっと兄にも家族にも友人にも誰にだって、兄の事を言われ聞かれる度に演じて来た。日常だった。
今度はもっと上手くやろう。運命に勝とう。
もう世界が違うから兄には二度と勝てない。戦える機会が無い。それでいい。
けど、運命をねじ曲げ逆らえる自分になろう。




