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とある教会での一幕

聖女様はいつも、十字架に向けて手を合わせ誰にも聞こえないような小さな小さな声で祈りを捧げている。


――正確には、つい最近までは祈りを捧げていた。



城下の端にある町の中でも端の端。

多少は物がある田舎程度のそんな辺鄙な場所に、聖女様は今日もひっそりと出向き十字架の前で手を合わせた。

虚ろな目で、震えながら、儚く今にも消えそうに、僅かに口を開く。

誰にも聞かれる事の無い呟き。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、神様、全部私が悪いです、ごめんなさい、だから、だから――」


最後に声にならない声で口を動かし、自嘲した。

これが神への祈りと言えるわけが無い。

そして、聖女様の中でこれは懺悔でさえも無かった。


聖女様は目を閉じて深呼吸する。息を深く吐き出した後に目を開けた彼女は、未だ憂いを帯びてこそいたが消え入りそうな弱さを掻き消した。


「ありがとうございます。今日も私は幸せです…神様」


聖女様は最後に、さっき自分が呟いていた事など無かったように普通の声量でそう言うと笑顔で一礼し、教会を出た。

声の聞こえていなかった、己を慕う牧師と修道女に憧憬の目で見送られる事に酷く居心地の悪さを覚えながら彼女は馬車に乗り込む。

帰るのだ。帰る。自分の居場所だとは一切思えない場所へと。



途中、馬車が一人の平民にしては荘厳な雰囲気を纏った美しい女とすれ違う。


しかしその時聖女様は外を見ていなく、平民の美しい女も馬車自体は視界に映したもののカーテンのような布仕切りにより、中の人物が見える事は無かった。


こうして糸は絡まり捻れ、二人はすれ違ったまま。

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