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ニカ様に意味深な事を言われましたが、その夜三分頭を悩ませるもこれ絶対自分一人で延々と考えたところでわからないやつだと早々に思考を切り上げる賢明な判断をした私は切り替えの出来る子です。

そもそも頭の中でこれだけ好き勝手考えておきながら外面は綺麗に取り繕えているように、私は物事も思考もスパスパ切って分けて生きているタイプなので。わからない事はわからないんだよ。

転生特典で天才になれた訳でも無いし、ただスタートダッシュが早く前世からの使える知識が多少あっただけで、頭の出来自体は一切変わらない。人生やり直せたとして天才ガールになれるのは最初だけなんだから、調子に乗ったら大人になるにつれてボロが出て行き、周りの期待に応えられるような結果を出せなくなって結局後悔する羽目になるのが大半だろう。夢の無い生き方に見えるかもしれないけど、現実的な夢は見ているから。平民になりたい夢は私、ちゃんと叶えましたよ。



翌日、私は通常運転でミシェルさんのパン屋で使う乳製品(牛乳やらバターやら)の買い出しに向かった。

車が存在せずあっても貴族が使う馬車って世界なので、荷車だけじゃ運搬してくれる店も物も限られている。私もパン屋の看板娘として町内で顔と名前が浸透して来たようで、店から少し離れたこういうお使い仕事も任せてもらえるようになって来た。最高のパンが作れる程の技術を手に入れるにはまだまだ時間が掛かりそうだけど。


「フィーちゃん買い出しかい?」

「はい、乳製品店まで!」


やや早足に町の中でも端にある牧場近くの乳製品店まで歩いていると、声を掛けられた。顔と名前の浸透のお陰でこのように町の皆さんから声を掛けてもらえる事も今や少なくない。平民としてだいぶ町に馴染んで来たのでは?


「今日はあの貴族様の彼氏とは一緒じゃないのか?」

「ふふ、彼氏だなんて恐れ多いですよ」


…ニカ様も同時に浸透しているのがだいぶかなり気になるけど。テレビも写真も無くマスコミも居ない世界だし、俺様殿下ならまだ王都中心部に行った時に偶々顔を見たり姿絵を見た事があるかもしれないけれど、ニカ様は本人が出不精なせいもあり王族とまでは気づかれないだろう。現状、平民と貴族の夢のあるラブストーリーを周りに勝手に想像されている。


そんな感じで町の皆さんとにこやかに軽く雑談を交わせつつ歩いていると、目的の場所近くにあるわかりやすい目印の十字架が見えて来た。乳製品店は教会の隣にある。


レディロという一つのゲーム内では、当然だけどこの世界の全ての常識を語り切れてはいなかった。例えばこの教会なんかは一番大きい王都のものが結婚式の背景スチルで使われたぐらいだ。

なので民衆の神への信仰レベルとかそういう話は私がこの世界で勉強して初めて知ったんだけど、この世界での神は唯一神で信仰レベルはそこそこらしい。そこそこっていうのは、神様を居ると思っている人は多いけど熱狂的な信徒や過激派なんかは全然居ないって意味でだ。

前世の日本よりは神を皆信じている感じなんだけど、そもそもの文化が神様に全てを捧げ信奉するタイプではなく、例えば配偶者や子供を持てたのは神様のお陰ですっていう、今ある幸せを感謝するタイプだけなのだ。神秘的に静かに祈りを捧げる場所というより、偶に家族で訪れて明るい笑顔でありがとうございますと言いに行く場所と言えばわかりやすいか。よって規律が緩く、教会の従事者にも結婚している人が多い。かなり自由だ。

という訳で私にはあまり関係無い場所なんだけど、平民祝いに一度ぐらいお礼を言いに行こうかなぐらいの気持ちはある。


つらつらと考え事をしながら私が教会を横目にその前を通り過ぎた時、ちょうど教会の中から修道服姿の私と同い年ぐらいの女の子が出て来た。

ああそうそう、前世では修道士とか修道女とかって確か教会所属じゃないんだっけ。そもそも禁欲的な面が全然無いから前世の修道女の人とは定義がだいぶ異なるどころか、名前だけ同じな全く違う職業と考えた方がいいかもしれない。


そんな思考の為に意図せず私がまだ彼女に注目している最中、その彼女だが、なんとすっ転んだ。

三段程度とはいえその前には下り階段。



「な、危ない…っ!」


急展開に私は慌てて踵を返し、彼女の前で両手を広げる。


どしん、という音と共に受け止め切れずに地面に尻餅をついた。痛い。これはお尻に青あざ確定だ。


「ひっ、え、ああああの、…すみません!!」


私が受け止めた女の子は状況に気づくや否や私の胸の中にあった身体を起こし、階段ぎりぎりまでずり下がるとその場に土下座した。この世界にも土下座文化はあったのか。そいつは初めて知った。


「顔を上げてください。お怪我はありませんか?」

「は、ははい!私は!どこも…あなた様は?!」

「私も大丈夫ですよ」


お尻は痛いけどそれは言わぬが花。誰かにお尻を見せる予定は今のところ無いし、万が一実は骨折していたとしてそれは私の力不足。彼女のせいにはするまい。

私が立ち上がると、彼女も恐る恐るといった風に立ち上がった。土下座をやめてもまだぺこぺこしているけど。


「ありが、ありがとうございまひた!」

「どういたしまして」


ずっとわたわたしている修道女ちゃんかわいい。頭を下げる度ミルクティー色の左右の三つ編みがぶんぶんゆらゆらして癒し。明るめな色合いだから黒い修道服に映える。

もう一度深く頭を下げてから、修道女ちゃんが顔を上げる。と思うと、私の顔を見て呆けた。瞳は綺麗な赤紫色だ。


「…どうかなさいましたか?」

「あ、すみま!すみません!聖女様と同じぐらい美人で驚きました!すみません!ジロジロ見てすみません!」


修道女ちゃんがまたぶんぶんぺこぺこ頭を下げる。さっきからとんでもなく謙って来る子だなぁ。顔を褒めているんだからそんなに謝らなくてもいいのに。

しかし、はて、聖女様?そんな存在というか位というか聖職というかなんてこの世界にあっただろうか?私の勉強不足?一般教養の勉強は平民でも活かせるからとそれなりにやったつもりだったけどまだまだだったのかな…。


「お褒め頂きありがとうございます」

「いえ、そんな!すみません!」

「私はフィー・クロウと申します。よろしければお名前をお窺いしても?」

「ひゃ、ひゃい!ナンシーでしゅ!」


成る程、ナンシーちゃんね。覚えた。愛称は何だろう?ナンちゃん?いや、ナナちゃんだな。三つ編みダブルしっぽブンブンのナナちゃん!


「私はお使いの最中なので今日のところは失礼しますが、お嫌で無ければ今度お話して頂ければ嬉しいです」

「いい嫌じゃない!光栄でひゅ!」

「そうですか、ではまたお会いしましょう」


私はナナちゃんに手を振り、ほくほく顔で無駄に優雅に隣の乳製品店に入った。



…やった!これは私の今世初となるお友達フラグです!ですよね?!

今世では貴族内での派閥争いやら身分差やら家を挟んだ関係やらに加え、自分が結局全部捨てて平民になった時に同級生に陰湿に嫌がらせして婚約破棄された平民の友人なんて言われるのかと思うと、どうも親しいお友達は作れなかったんだよね!平民になる上での知識の地盤作りにも忙しかったし!でも、今から平民なお友達を作るのは何の問題も無い!

なんですか、私の平民ライフ全然順調なんじゃないですか?!

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