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近頃、気になる事がある。


ニカ様とかシェドとかそっちの手合いは置いておいて、それとは別に気になる事がある。


私が平民となり城下の外れにある今の町まで来た当初は俺様殿下の婚約破棄の話が流れ、それから数日後リリちゃんとの電撃恋愛婚約が発表され、よしよしと機嫌良く頷いていた。

なんだけど、近頃よく殿下と婚約者が不仲だという噂を耳にする。

ただの噂と言ってしまえばそれまでだけど、一ヶ月そこらでこんな話が出るのは不穏だ。鵜呑みにはしないにしても何でそんな事になっているのかと噂に耳を傾けてみれば、これがいまいち要領を得ない。具体的なものは何も無く、ただ社交界で二人揃って上の空な事があったり、二人の間での会話がぎくしゃくしているように見えたり、そういうなんとなくが貴族からやんわりと伝わって行き遂には城下町の端に住む平民の私にまで届くに至ったのだと思われる。噂の内容からして、程度はわからないけど嘘とは思い難い。

…うーん、国としてあんまり良くない傾向かな。人の口に戸は立てられないから仕方ないと言えば仕方ないけど、こうも簡単に広まるとなると誰かの陰謀かもしくは俺様殿下及び王族の威厳が薄まっているのか…。


さて、これは二人の問題なのか、それとも多少なり私が関わっているのか。

でもレディロでは、ヒロインが別の攻略対象を選んだ時は丁度ご都合主義に俺様殿下とリリアナが結ばれていて、円満にお互い好きな相手とって話になる。よって私が婚約破棄された件はそんなに影響無い。…と、思うんだけど。

私が平民になる夢を切り捨てて、貴族として生まれたんだからと割り切り恋愛感情は抱いていなくても好意はある他の攻略キャラのルートを選べていたなら。きっと皆が一番幸せになっただろう。


だけど平民になりたかった。どうしても平民になりたかった。その為にずっと頑張って来たんだ。

平民になる事での苦労なら甘受する。でも生まれた家で人生を全て決められ自由を選べないなんて嫌だ。自分で選んだのではなく押し付けられた責任なんて受け入れられない。せめてその地位を利用して守りたいものの一つでもあれば違っただろうけど、私にはそれに価するものなんて浮かばない。敷かれたレールの上でなくその横の道に早々に幸せの道を見つけてしまっているのに、レールの上の見つけられるか知れない幸せを探せばいいなんて思えない。

まだ私に記憶が無かったなら、純粋で親や周りの人だけが世界の全てだと思い込んでいる期間があったらなら、話は違っただろう。だけど私は逃げた先にも未来が続く事を知っている。

聖人君子のような自己犠牲が出来る程、優しい人にはなれない。


俺様殿下とリリちゃんのそれが、レディロでの俺様殿下とヒロインのようにただのすれ違いであるならいい。

ただ、間違ってもリリちゃんにはあの嘘を暴露してもらっては困る。私とリリちゃんは一連托生なのだから。




とはつらつら考えたものの、今の私に直接的に出来るのって何もしない事だけなんだよね。まさかフランクにリリちゃん自宅のイノシー家やら学園やらに訪ねて行って、相談乗るよ!なんて馬鹿な発言出来るはずがないし。リリちゃん視点じゃ報復に来たようにしか見えねぇわ。

そんな訳で私は、今日もパン屋に私を迎えにおいでとなったニカ様と私の家まで並んで歩いている最中、件の噂について間接的にふわっとだけ尋ねてみる事にした。ニカ様なら渦中の二人とは近い位置に居るから何か知っているかもしれない。


「リリアナ様は元気にしていらっしゃいますか?」


口に出してから、私の立場を考えると随分嫌味っぽい質問に聞こえるかもしれないと思った。本心から元気にしていて欲しいんだけど。

私は外見は穏やかな笑みを取り繕ったままに慌てて訂正すべく話を続ける。


「殿下の婚約者になる上でのご苦労は私が一番よく知っていますから…急に婚約者になられては幼少期から徐々に経験を積ませて頂いていた私以上に苦労も多いかと思うのです」


…ダメだ。頭を回して何通りかリリちゃん擁護言論を考えてはみたけど、どう訂正しても私の立場がある以上言えば言う程嫌味っぽい。私が何を言っても詰み。リリちゃんと仲直り出来る夢の確率は一生零なのか。

そう人知れず落ち込んでいる私だけど、無駄に洗練された面の皮により今日も私の内心が外に洩れる事はない。今世の幼少期からどころか実は前世から培われて来た猫かぶり技術は伊達じゃない。平民になる目標の為にとさらに磨いたから、今やこれが私にとって文句無し一番の特技となった。うん、全然自慢出来ないし人には言えない特技だ。知ってる。

案の定、ニカ様は私の内心の落ち込みを気にした様子も無く口を開く。


「肉体的には元気だろう、恐らく」


ニカ様から素っ気なく返ってきたのは、それはそれは酷い回答だった。

要するに肉体さえ恐らくで、精神は元気じゃないのか。心配過ぎる。確実に俺様殿下との仲なんて聞いてる場合じゃないですね、これ。

ここで私がどうにかしてニカ様を誘導しリリちゃんのサポートに回ってもらい私からも離れてもらえれば一石二鳥なんだけど…無理だろうなぁ。私天才じゃないし。そんなに頭回らないし。

私の沈黙に多少思うところがあったのか、ニカ様が眉を下げた。


「私も最近は少しリリアナ嬢に同情しているよ。フィーと同等の立ち回りなど彼女に出来るはずが無い。それでも諦めない姿勢だけは評価するが…潰れるのも時間の問題だろう」


ちょっと待って。ニカ様の推察ではリリちゃん近い将来潰れちゃうの?!

待て待て!そりゃ、幼少期から婚約者立場で学ばせてもらっていた私と同等の立ち回りは今のリリちゃんには難しいかもしれない。新しい人脈の形成とかその立場になって初めてわかる細かな振る舞いとか、色々あるもの。だけどそれって努力と時間が解決するものじゃないですか?ねぇ?

くっ…ニカ様に協力して欲しい。私も幼少期は多少なり王族として場慣れしていらっしゃるニカ様に支えてもらった。ここは出来ないなんて言い訳していないで、私が何とかしてリリアナちゃんには未来がある事を少しでも示唆しなければ。


「リリアナ様は元々優れたお方なんですから、未来の王妃としての立ち回りや能力なんて私と同程度にであれば少し頑張れば追いつけるでしょう」

「……」


あれ、同意どころか反応無し?リリちゃんの事そんなにも嫌いですか?

…まあいいや。このまま事実で畳み掛けよう。


「ニカ様なら知っていらっしゃいますよね?少し前まで私完璧令嬢レディローズなんて畏れ多くも持て囃されておりましたが、私の実際の能力なんてほとんどが平均の少し上程度で特別に優れてはいなかったでしょう?」


そう、私は平均以上になるだけ頑張った後は猫かぶりと見せかけと偽造で、ついこの前まで貴族と俺様殿下の婚約者をのらりくらりとこなして来たに過ぎない。これは、私がそのままどちらの立場になる予定も無く、本物である必要が無かったからだ。レディローズという呼び名は私にとっては美しい造花を纏ったマネキンを指す。

張りぼてを本物にしている時間があるなら私、これからずっと生きていく事になる平民のお勉強の方をしたかったもので。

ニカ様なら、本人が天才かつまだ私の猫かぶりが多少拙かった幼少期から幼馴染だったんだから、さすがに私の実際出来る能力範囲程度は見破っていただろう。…一応自爆しただけじゃなかったか確認しよ。


「ニカ様はその事、ご存知でしたよね?」

「…ああ、そうだ。それはその通りなんだが、少し待ってくれ」


とりあえず出任せじゃなさそうな同意をもらえて良かったけれど、何で急にそんな慌てたように静止されたのか。同意しているよね?ならこの話題自体は終わりじゃない?だからリリちゃんにだって未来があってうんたらと私は話を発展したいんだけど。今の話で何か気になる事ってあるか?

私の疑問をよそに、ニカ様はそれはそれは真剣な顔で黙り込んだ。


そして一分程経った後、急に、今物凄く重大な何かにでも気づいたかのように目を見開いた。

おうおう、どうした。


「――まさか、俄かには信じられない話だが…フィー…君は、そこに関しては本当に自覚が無いのか…?」


いや、所々溜めて勿体振りながら重大新事実の発表かのように言ってくださっている所申し訳ありませんが、まずその仰っているそことやらはどこだよ。ニカ様の中で私はどこを自覚していてどこを自覚していないんだよ。その前にしていた話を踏まえてもわからないし、抽象的に言うのはやめて欲しい。

私がそんな文句を込めて曖昧に首を傾げると、ニカ様が真顔になった。私は思わず不安になる。

な、何ですか。私さっきから何一つ状況を理解していないんですけど。勝手に理解していないで教えてくださいよ。私はニカ様と違って天才じゃないから言ってくれなきゃわかりませんよ?!


「私は…どうやらとんでもない勘違いをしていたようだ」

「はぁ…それというのは?」


こういう抽象的な自分だけわかっていますみたいな会話って、される側かなりイライラするよね。スパッと言えよ。

そんな私の内の願いを無視する形で、ニカ様はまたも考えるように沈黙した。

…うん、得てしてスパッとは言ってくれないものなんだよね。知ってる。


「……悪いが、教えられないな。フィーがもし本当にそれに無自覚で勘違いをしてくれているなら…それはむしろ好都合だ」


しかも結局教えてくれないあるあるパターンを披露して来た。

勘違いしてるのはニカ様だったのでは?私の方なの?もう意味がわからないよ。自己完結やめて。これだから天才キャラは。

そんな不満の塊を私はオブラートに包みまくって口を開く。


「私に関する事ですのに、どうしても私には教えてくださらないのですか?」

「ああ、すまない」


ニカ様は晴れやかな笑顔で謝ってきた。顔が完全に謝っていないんですが、どういう事でしょうかね?


「私は、リリアナ様にもこれから先無限の可能性があるのですからニカ様に殿下の為にもご助力頂けたらという話をさせて頂くつもりだったのですが…」

「…そうだな、フィーがそれだけ推す以上リリアナ嬢にも何かあるのだろう。少し私もフィーの件での偏見を取り除いて彼女を見てみよう」


意味のわからなさに少々面倒臭くなって、もう家も近いし最後に正直に言ってみたら、まさかのあっさりと色好い返事がもらえ逆に驚いた。

お願いした私が思うのも難ですが、何故さっきの今でこれだけ肯定的になっているんです…?私への信頼度も気になるところではあるけど、ニカ様と私両者が勘違いしていたという件とその考えの逆転、まさか関わっていたりします…?


私の聞きたかった返事は聞けたはずなのに、何でこんなに不穏な気持ちを抱かなければならないんだろう…。やっぱりニカ様もどんなに優しかろうが私の平民ライフの不穏分子だから、どうにかして離れて行って欲しいなぁ…。この前平民に会いに来るのはどうこうと説得を試みたけど、幼馴染と民との交流やら市場の調査やら何やら立派な口上で丸め込まれたしなぁ…。はぁ。

ニカ様の後ろの護衛お二人よ、いい加減空気になっていないで仕事をして頂けないか。

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