表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

第8話。 唸るムラサメブレード。

「くらいやがれっ!!――ソウル・バレット!!」


「うぐっ……」

「が……」

「ごふッ……」


 青白い念体が唸りを上げつつ射出され、恐怖に慄く奴らの心臓に全弾命中し、そして貫いた。

 ほぼ即死をしてしまった盗賊5人が力なく崩れ落ちる。


「よし。あとはもう物理で屠るだけだ」

『がんばるですのー!悪い子は後8人ですのー!』

「あいよーう」


 なんとも気の抜けたように聞こえる掛け合いをしながらも、一気に盗賊との距離を詰めて、ムラサメブレードを一閃する。


 薙いだ感触はビッグベアロードよりも遥かに軽く、殆ど手に残らない。まるで豆腐を包丁で切った時のような柔らかい感触しか残らなかった。


「ぇ……あえ?」


 切られたであろう盗賊は動きを停めたかと思うと、切られた事すら分からないようで、お腹を押さえたままぐらりと体を揺らし、直後に上半身と下半身で綺麗に折れ落ちた。


 これが幻想級と呼ばれる武器の威力か。

 同じ人族を屠る事で漸くわかるムラサメブレードの圧倒的な力。それを肌で感じ心が躍る。


 そして仲間が一刀両断されたところを間近で見た盗賊は、恐怖で顔が歪む。

 その男に向け1歩踏み込み、なんの躊躇もなく心臓を一突き。


「き、貴様……ごふっ」

「ふん……」

「死ねやああああ!!」


 ほぼ即死状態なのに俺を見やる視線は憎悪に満ちている。

 それに対して小さく鼻を鳴らしつつ、返す刀で後ろに迫っていた男を脳天から唐竹に割る。


「あがっ……」


 脳髄をまき散らし体が半分に裂けて崩れ落ちる様は、自分でやっておいて、まるで映画の惨殺シーンを見ているようだ。


「死ぬのはお前だ」


 残りは5人。


 得物を探して周囲に目を向けると腰が引けた盗賊が目に入る。


「ひっ……」

「く、くるな……」

「行くに決まってるだろ」


 既に戦意は喪失されているかのようだが、それでも容赦なく<活歩>で跳躍しつつ再度心臓を一突きし、唖然としつつ俺を見やったまま固まっている隣の男も、着地と同時にそのままクルリと体を回転させるかのように横へ薙いだ。


「がぐ……ぎ……ぎさま……」

「ひ……ぐぎゃ……」


 人を切るその事に対して全く抵抗が感じられないのは元世界での経験によるものだ。

 それだけの経験をして来たからこそ今があるわけで、こちらの世界においてもそれは同義で更に遠慮なく屠れる。


 遣らなければ遣られる。

 それは元世界よりも強い現実で確実で事実なのだから。

 こちらに来るとき、神そのものが「決して躊躇するでないのじゃ」と口にする程にこの世界は混沌としているのだから。


 そして後3人かと思い至ったその時だった。


――ビリィィィィ!


「くっ、下郎が!」

「寄るな!」

「こ、こないで……」

「オラッ!おとなしくしろ!」


 馬車の中から女性3人分と一人の男の声が聞こえた。

 そして服か何かが破かれる音。


「チッ……」


 人質を取られると面倒だ。

 舌打ちをし魔法を撃つ準備をしながら馬車の入口へ回り込めば、二人の女性が二人の女性を庇うように両手を広げ、その手前の薄汚い身なりの盗賊はビリビリに破いた布の切れ端を握っていた。


「――ソウル・アロー!」

「はぶっ!」


 それを見て即座に盗賊へと<ソウル・アロー>をぶち込む。

 心臓を見事に貫かれた盗賊は布を握りしめたまま床に倒れ落ちる。


 あと二人……確かシャルルが言うには13人居た筈だ。


「君らは固まってろ!」


 馬車の中に居た4名にそう告げ、返事も聞かず馬車から周囲に視線を移し辺りを見渡す。

 すると、どうやら二人ほど林の中へ向かって逃げているらしく。


「馬鹿が……逃がすかよ!……それっ!――リストレイン!使える筈っ!!」


 そう言いながら拘束魔法の<リストレイン>を唱え、逃げ出していた盗賊を捕縛した。

 盗賊は意識があるまま身動きが出来ない状態になった為、顔面蒼白でこちらを見ている。

 俺は俺で初めて使う魔法は自信が無い為に、どうしてもおまけの言葉が口を吐く。


「くっ……くそっ……」

「う、動けねぇ……くそったれが!」


 暴言を吐きつつも必死の形相で男二人がもがくが、圧倒的な力の差がある魔術効果を肉体の力のみで凌駕するなど人間に出来る筈も無い。

 近くまで行き、ちゃんと拘束されている事が確認し、


「聞きたい事があるからちょっとそこで少し大人しくしてろ」


 そう口にしながら馬車の様子を少し離れた場所から見ると、護衛6名の内5名は、内臓やら脳髄やらを地面にぶちまけてしまって居る。あれは既に死亡しているだろう。

 残った一人も腹から臓物を垂れ下げていて既に虫の息だけれど、僅かながらも呼吸をしている。


 かなり危ないが、生きているなら何とか助けられるだろう。

 急ぎ近寄り使用する魔法をあらかじめ選ぶ。


「直ぐ回復してあげるからしっかりしてください!」

「あ……ぅ……」


 出血が酷過ぎるから助からないだろうか?

 いや、とりあえずは生きてさえいれば大丈夫だ。

 そう呟きつつ、


「――グレースヒール!」


 唱えた瞬間から、エルザを治した時と同じように、見る見るうちに内臓も元ある場所へとズルズルと納まって行き、直ぐに傷口が塞がっていった。相変わらず不思議な光景だ。


 あとは、体力か。


 マジックキューブから巾着を取り出し、中から銀色の玉を一つつまむ。

 男なんだから銀色で十分だ。


 そして口移しなどごめんこうむりたい俺は、男の口の中に無理やり銀丹をねじ込んだ。

 扱いが違うのは当然でしょ。


 全く悪びれるでもなく男の様子を伺う。

 どうやら気管に入ることも無く胃に落ちて行ったようだ。


 見る見るうちに顔色も元に戻り、日焼けで浅黒い男も声を出せる程にまで回復をした。


「……ぁ……ぁぁ……りが……」


 そう言葉に成らない言葉を発した後、とうとう護衛は意識を手放した。


「おい!大丈夫か?!しっかりしろ!諦めるな!頑張れよ!!お前の限界はまだまだ先にあるだろ!!」


 ガタイだけはしっかりとした護衛の男の肩を掴んで揺さぶるが、全く反応をしない。

 するとそこにシャルルが突っ込む。


『……恐らく気絶しただけですの』

『ああ、そんな気はする』

『誰かの真似ですの?』

『いや……何となく?夏が近づいてるしね?』



 しかし現場は凄惨な状態だった。


 護衛はやはり全員で6名だったようだけれど、どう見ても一方的にやられたようだ。

 盗賊は僕が殺した奴以外は誰一人死んでいなかったようで、盗賊が強かったのか護衛が弱かったのか、どちらかだろうけれど、こんなことでは護衛なんて務まらないんじゃないの?と。


 護衛以外で死んだのは馬車の御者2人と商人っぽい身なりをした、真っ黒いオーラを纏って居る小太りのおっさんだった。

 死んでも尚黒いオーラを辺りにまき散らしているのだから、そりゃもう相当だ。


「真っ黒だな……」


『気持ち悪くなるですの……カルマもマイナスですの……』


 その結果、シャルルはもう我慢がならなくなったのか、少し開けた隙間を閉じて中に引っ込んでしまった。

 まあ、引っ込みたくもなるよな。

 でもカルマってなんだ?


 気になる言葉が混ざって居たが、まあ後から聞くか。

 そう切り替えて辺りを見渡す。


「とはいえ酷い有様だな」


 死体の数は盗賊の方が倍程度まで多いのだが、切れ味の悪い剣や槍で殴打したのか護衛や商人の死体は見るも無残な状態だ。

 口に出して説明をすると食事が喉を通らなくなりそうなので遠慮をするが、まあ、地獄絵図だった。


「流石に蘇生魔法なんて無いしなあ」

『残念ですがシャルルもないですの』


 そうだよねと呟きつつ、護衛の死体に手を合わせていると馬車の入口から声が聞こえた。


「助けて頂いて有難うございました……」

「ほんとうです……なんとお礼を言えばよいか……」


 消え入るような声でお礼を言って来た人物の方を見ると、20歳に満たないであろう年若い女性達3人と10歳にも満たないだろう少女が一人居た。

 少女は姉らしき女性にしがみついたまま何も言わず、じっと僕を見据えたまま固まっている。


「もう大丈夫。あと二人残って居るけれど抵抗出来ないようにしてあるから心配要らないよ」


 少女に向かってなるべく優しい顔を見せながらそう告げると、少女も少し安心したのだろうか


「ぁ……ありがとう……」


 おどおどとしながらもそうお礼を言ってくれた。


「いえいえどういたしまして」


 うん。顔は薄汚れているけれど結構な美少女だ。

 というか皆フードを目深く被っているけれど、良くみると皆相当な美人揃いだ。やっぱあれか?東洋人は白人系に弱いあれか?


 朝方に助けた二人といい、目の前の女の子達といい、この世界はやっぱり美人だけしか存在しないんじゃないのか?と本気で思ってしまいそうになる程に。


 が、僕はこの馬車に入り4人を見やった時から気になっている事がある。

 何人かの服を盛り上げるおっぱいではなく。

 4人の首に施された首輪……というよりもなにかの装置が。


 もしかして魔道具か?

 シャルルが中に引っ込んでしまったから聞く事も出来ないけれど、紋印が施されている首輪から確かな魔力が感じられる。


 奴隷かもしくは犯罪者?

 いや、犯罪者移送なら冒険者風の護衛や商人はおかしい。


 となるとやはり奴隷か。


 盗賊に商人風の男に奴隷。

 商人は恐らく奴隷商人だろう。

 なんだろ……行き成り初日からこの世界の闇部を見たなぁ……と。


『ユトユトユト!盗賊のソウルストーンを拾うべきなのー!』


 そう彼女達の身の上を想像していると、シャルルが盗賊のソウルストーンを拾えと言って来た。

 お?あ?そうだった。


「今から盗賊のソウルストーンを拾って来るからちょっと待ってて」

「はい……」


 そう言い残していそいそと屠った盗賊の処へ行く。

 奴隷なのかどうかは別段今は関係無い。今はソウルストーンを回収するのが先だろう。


 時間は充分経過しているから、既にソウルストーンは拾得出来る状態だった。

 見れば横たわった死体から30センチ程の高さに、ゴルフボール大の大きさで涙の形をした石のようなものが浮き上がっている。

 しかも護衛のソウルストーンは乳白色系の色なのに、それ以外はどれもこれも真っ黒だ。


「う、浮いてるのか……というか黒いオーラを噴き出した奴だけ黒のソウルストーン?」


『あ、そうですの。悪事ばかり働いているとソウルストーンも真っ黒けっけに染まるですのよ』


 なるほどね。

 これは分かりやすいかもしれない。

 ただ、切って殺さなきゃ分からないっていうのが問題だが。


「ああ、そういえばさっきカルマがどうとか言ってたけど、何?」


『カルマとはカルマですの。主に鑑定でしか見えない数値ですけど、その人がどれだけ徳を積んで来たかがわかるですの』


「徳……か……じゃあ善行より悪行を重ねてるとカルマはマイナスになる?」


『ハイですの。それと同時にソウルストーンも真っ黒けっけに染まるですのよ』


 ふぅんと呟きつつソウルストーンに近寄る。

 どのみち<鑑定>が使えない僕には”カルマ”云々はあまり関係はない。生活魔法の<ステータス>を使えば自身のカルマは見えるらしいが、使えないのだから今考えても仕方がない。


 それよりも見れば見る程浮いている。

 マジックでよくやる下と上の空間に手を入れてみるけれど、間に何かある訳もなく、ごく当たり前のように涙型の石は浮いたままだ。


「こんな魔法があれば浮く車とか作れるんだろうな……となるとタイヤメーカー潰れるぞ……」


 そんな元世界の心配しなくても良い心配をしつつストーンをひょいと拾い上げ……ようとするが、少し戸惑う。


「これって素手で触っても平気?」


 手が黒くなるとかない?


『平気ですのー』


 それならばと拾い上げた盗賊連中のソウルストーンは、11人分。

 <鑑識>をかけても内容を知る事は出来なかったけれど、この石が盗賊討伐の証になるとシャルルが言っていたことからも、何らかの情報は石から得られるのだろう。もしくは真っ黒ならなんでもいいとか。


 見てもそこまで年若い奴は居ない事からも、どういった経緯で盗賊に落ちたのか気になる。

 みんな10歳以上だろうから祝福は受けている筈だ。祝福を受けても盗賊に成り下がるなんて、なんて罰当たりなんだと思うが、こいつらにはこいつらの事情があったのかもしれないなと。だからって同情はしないし、そもそも殺された本人に同情されても嬉しくもなんともないだろうが。


 そして何気にストーンを手に取って見てみるが、目視で読み取れるような文字は何もない代わりに、ミミズが這ったかのような文字らしき紋印がうすーく浮いている。

 石が体に埋まっているというのも変な話だが、その石に何やら文字らしきものまで刻まれているのも不思議なもんだ。


「石に刻まれている文字というか模様って何だろ」


『古代文字ですの』


 ふぅんと口にしつつ不思議なストーンをくるくると物珍しそうに眺めながらそのまま女性の所まで戻る。御者と護衛と商人のソウルストーンは拾っても良いかどうか迷ったので今はまだ拾って居ない。



「ぁ……おかえりなさい」


 律儀にも一人が再度出迎えてくれた。姉妹だろう二人を必死に庇おうとしていた女性の一人。

 その結果、盗賊が服を引き裂いた為に、粗末なローブの上半身が破れてしまったようだ。


 今はそれを片手で抑えてはいるけれど、それでも素肌が見えている。が、残念ながら僕のリュックは遥か手前に置きっぱなしだ。

 あとでTシャツでも貸そうと思いつつ、その女性にただいまと口にし騒動の結果を告げる。


「護衛の一人は助ける事が出来たと思うけれど、今はまだ気絶している状態です。だから起きるまで待ってあげて欲しい。幸い馬の方は無事だったから護衛が起きたら出発をしますけど、一つやり残した事を片付けてきますね」


 一応初対面なので敬語だ。


「あ……いえ……お気をつけて……」


「大丈夫、直ぐに戻りますから」



 心配をしてくる女性に向かってそう言いつつ、先ほど拘束をした盗賊二人が居る場所に戻る。


 もうすっかり観念したのか項垂れた状態で立ち竦んで居るけれど、当然ながら容赦はしない。殺すのは確実としても、もしかしたら盗賊の根城に案内させて一気に全滅させておくのも良いかも知れないのだから。


「さて……盗賊さん。質問に答えてくれよな?」

「…………」


「お前らのアジトって近いのか?」

「…………」


「仲間って何人居る?ここに居た奴らだけなのか?」

「…………」


 まあそんなに簡単に口を割らないか。

 表情を見ても分からない。

 というか僕は何かを忘れているような……


「あっそう……口聞けないんだな。じゃあ死ぬだけだ」


 そう言いながら僕は左手を振り上げて魔法を唱える振りをした。

 すると途端に表情が歪む。


「ま!まて!まってくれ!」

「喋れるじゃないか。じゃあもう一度聞くぞ?アジトまで案内してくれれば助けてやらなくもない」

「そ……そんな事できるわけがない!」


 まぁそういうよな。

 だが目は確実に泳いでいる。


「そっか……案内してくれたら二人の内一人は逃がしてやろうと思ったんだがな」

「「!!」」

「お!俺が教える!」

「ば!お前何言ってんだ!俺が教えるんだって!」

「んまぁどっちでもいいけれど、案内は一人で十分だからな?二人で戦って勝った方に案内してもらう」


 我ながら残虐な提案だとは思ったけれど、こいつらに対して慈悲の心なんて持たない方がいいだろう。

 生きる為とはいえ、人を殺して金品を奪おうとするような輩なのだから。


 それに中に居た奴隷らしき綺麗な女の子に、あんな事やこんなことやそんな事をするつもりだったんだろ?……許せるかよ。


『ユトって鬼畜ですの?……ものすごい提案をした気がしますの』


 思った通り突込みがはいる。……が、シャルルに返事は返さずに、見合って居る男二人に言葉を続ける。


「じゃあ今から拘束を解くけれど、逃げ出すとか考えるなよ?」

「あぁ、わかった」

「勿論だ……」


 本当にバカだな。こいつら。

 いや、承諾をしたふりをして、もしかしたら二人で襲って来るかもしれない。

 そして僕はやっぱり何かを忘れているような気が……


 そう思いながら盗賊二人の拘束を解いた。のだが――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ