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第6話。 ビッグベアロードは黒光りダンプカー。

「大丈夫か!?」


 今にも襲われそうな耳の長い女性を見つけ、思わず声を発する。

 いや、既に襲われている最中にしか見えない。

 それを見やり、カチリと頭の中で意識が切り替わる。


 だが辛うじて意識を保ちつつも蹲り脇腹辺りを抑えている女性は、突然聞こえた俺の声に大きな熊から意識を離してしまったのだろう。

 視線を俺に向けたその瞬間に、熊が土管のようなぶっとい腕を振り上げた。


 やべ……邪魔してどうするんだよ俺。


 急いで突っ込むが間に合うかどうかは分からない。

 ええええい!いきなりすぎてあまり使いたくないけど!


 左の手のひらを開き、中心に自身の気を念じる。

 魔法を使う感覚とは気を集める感覚に似ている。


 そうして出来た気の塊を、対象に向け一気に射出すれば、それは念属性魔法。


「――ソウルアロー!――多分発動する!!」


 いきなり魔法をぶっ放すのは勇気が居るが、久しぶりとはいえこれが初めてではない。おかしな言葉も混ざってしまったけど、それは俺の今の心境が如実に現れた結果だろう。


 そして手のひらから射出された青みがかった白色の念の槍は、空気を切り裂く音と共に緩やかなカーブを描きつつ、でっかい熊の横っ腹に見事に命中を果たした。


「ゴグ……グ……」


 が……


 ぶち当たり一瞬ぐらつきはしたけれど、大して効いてはいないかのようだった。


「あ、あれ?」


 かっこよく助けるつもりが、思いっきり中途半端になってしまった。

 もしかして属性間違えたか?っていうか属性何か知りもしないけど!

 シャルルが見て居たらジト目で見られてしまいそうな気がしなくもないが、今更感満載で<鑑識>スキルを使用する。


 名前は、ビッグベアロードで属性は――火か。


 本当に視えるんだなーとか細かい鑑識結果などは後回しにし、ひとまず属性が分かり、それならばと水属性のムラサメブレードを構える。


 生憎と少しは痛かったのか、目の前で動けないでいる女性ではなく、俺の方に意識が向いている。

 そして涎をふんだんに垂らし、牙を剥き出しにしながら俺を威嚇するかのように喉を鳴らす。


「グルルルッルルルルル……」

「よしよし……俺の方にこい。いい子だからな」


「駄目だ……こいつは……ネームはついていないが……ボスだ……だから……」

「エ、エルザを……たす……」


 ボスかよ……

 まあロードってついてるからそうじゃないかなとは思ったけれど。

 とはいえ、なんだろうか?


 不思議とやれるような気がする。


 それは今までの経験則によるところなのかどうかは分からないけれど、あり得ない程に大きな巨体を前にしても大して緊張もしていなければ怖くも無い。


 それよりも熊さんが俺に意識を向けてくれて嬉しく思うのだから、逆に驚きである。


「大丈夫ですよ」


 それだけを口にし、小さく微笑んだ俺は、機嫌が頗る悪そうな熊に正対する。

 奴は首だけをこちらに向けて威嚇するかのように、グルグル唸っているだけだったが、完全にターゲットを変更したのか、大きな体をこちら側に向け、四つん這いで歩いて――来ない!


「うそ……二足歩行かよ……」


 驚くべきことに熊は四つん這いで歩かずに、のっしのっしと重そうな巨体を揺らしながら短い脚でこちらに向けて歩いて来ている。


 その光景を見やり、ある意味顎が外れる程に驚く。

 やはりここは異世界で目の前の大きな熊は魔獣なんだなと瞬間に認識させられた。

 だがそれで余計に心が躍る思いを感じてしまう。


 恐らくは今の俺の顔は、愉悦で歪んでいるのだろう。


「に、にげ……ろ……」


 そう口にした瞬間、蹲って居た女性は意識を失ったのかそのまま前のめりに倒れた。

 見ればもう一人も既に遠くで意識を手放しているようだった。

 大丈夫か?と思ったけれど、ある意味意識を失ってもらっていた方がやりやすい。


 来て早々こんなゴツイ黒光りダンプカー魔獣を倒すところなんて見られたくはない。

 特にこの人たちが一体どんな人なのか知らない内は。


 とはいえ、先ほどの足跡を思い出す。

 そう言えば二足歩行の足跡だったなと。

 二足だろうが四足だろうがどのみち関係はないが。


「ふぅーー……」


 そう思考を纏め、逸る気持ちを落ち着かせるかのように大きく息を吐く。

 そして抜刀の構えをとる。


 左足を引き腰を落とし、鞘を持つ左手を左腰に構え右手を柄に軽く添えれば、全身から気が溢れる。


 そして地鳴りのような震脚を大地に打ち込めば、それを敏感に感じ取ったのか、一瞬ビクついたビッグベアロードだが、直ぐに本能を剥き出しにするかのように大きな口を開け、両手を高々と掲げる。


 俺はそれをただ睨みつけ、間合いに入って来るのを待つ。


 勝負は一瞬で着くだろう。


 負けるはずのない勝負。

 こいつがどれだけ強いのかは分からないけれど、慢心ではなく確かな確信。


 そう思いながら口角を上げれば、癇に障ったのか奴は唸り声をあげながら間合いに歩を踏み出して来た。


「グガアアアアアアアアア!!!」


 その瞬間に俺は体内で練った気を一気に放出し<闊歩>で跳躍しながら、高速の剣と共にビッグベアロードの脇を突き抜けた!

 奴の鋭い鍵爪はむなしく空を切る。


 手ごたえを感じ、お互いが背を向けた状態で、俺はそのままスッと立ち、ムラサメブレードの露を払い鞘に納める。



 振り返ってみれば、熊は小さく震えながらも動こうとしているようだった。

 が、背骨までぶった切った感触があるのだから、到底動ける筈も無い。


「ガ……ゴ……グギギギギ……グガアアアアア!!!」


 それを悟ったのか、ビッグベアロードは赤い血を吐き出しながら、森が震える程の大きな咆哮と共に、その巨体を揺らしつつ地面に沈んだ。


「やっぱ半分しか届かなかったか」


 屠ったビッグベアロードの死骸を見ながらそう呟く。

 ムラサメブレードの刀身は長いとはいえせいぜい120センチ程度。

 熊の動体はどう見ても直径は2メートルは有ったのだから、真っ二つにするなどといった芸当はやはり無理だったようで、体の半分だけに綺麗な切り口がパックリと覗いていた。




『ユ、ユト、お、終わったですの?』


 戦闘が終わり意識も元に戻った頃に、シャルルが恐る恐る語り掛けて来る。

 こそっと言葉を返す必要も無いだろうと思い、普通に返す。


「ああ、終わった」


『怖くてシャルルは空間に入っちゃったですけど、余裕だったですの?』


 いきなり居なくなったのは人に見られるのを嫌がったわけじゃなくてビビっちゃったんだな。

 それに少し笑えてきそうにもなったけれど、ちゃんと返事は返す。


「思ったよりも全然余裕だった」


『凄いですの!でもよかったですの♪。あ、まだ女の子ちゃん達は居るですの?』

「いるよ。でも気を失って居るようだ」


 ではちょっとだけと返事を聞き、先ほどのように空間に裂け目を拵えて状況を確認しだした。

 薄い裂け目から二つの目だけが見える分、その光景は実にホラーだ。

 そんな事などお構いなしのシャルルは目の前に横たわるビッグベアロードを見やりながら、


『おっきいですの……ユトのよりもおっきいですの……』


 どうやら会話は念話でするようだ。

 とはいえ僕は念話を使えないけれど。

 って!


「そこかよ!」


 思わずシャルルが見ていた部分に気付き突っ込みを入れた。

 熊は大の字になって死んでいるからか、ちょうどいい具合に股間が見える。

 全身毛むくじゃらの中に縮こまっているであろう熊さんち〇こを見やったシャルルの言葉が、先ほどの僕より大きい発言だったのだ。


「確かに僕のより大きいさ。金〇なんて1個が僕の頭くらいあるしさ」


『くふふふ♪言ってみただけですの。ユトのは人族では立派な大きさですのよ!』


「他の知ってるのか……」


 なんか嫌だな。

 そう思ったら違ったらしく。


『見たことはないですの。長ちゃまが以前付き従った人族のおち〇ぽの大きさを教えてもらってただけですの!ユトの半分くらいでしたのよ?だからシャルルは最初見た時びっくりしたですの!シャルルの顔よりも亀ちゃまがおっきいですの!って』


 亀ちゃまって……

 どんな会話を族長としてるんだか。

 このエロ精霊め。


「あ、そう……って」


 思い出すかのように意識を失った女の子の方を見る。

 するとシャルルもそれにつられて視線を移すが……


『あ、ユトユト!女の子ちゃまの一人が危ない状態ですの!』


 どうやらシャルルは<鑑定>を使ったらしい。羨ましい奴だ。

 とはいえ心配になり慌てて脇腹を抑えていた女の子に駆け寄る。


 下ネタ会話をしててもしも間に合わなかったりしたら、ほんとどうしてくれるんだと。

 それに乗った自分を棚に上げて少し焦りつつ顔を覗き込む。


「もう一人はどうだ?遠くで杖を持ったまま気絶してる方」


『あちらは魔法の使い過ぎで魔力切れを起こしてるだけですから大丈夫ですの!だから問題はこっちですの!』


「ああ、見た瞬間わかる」


 見ればエルザと呼ばれた耳の長い女性の鎧は左半分が裂け、裂けた部分から覗く脇はアバラ骨が見えている程に抉れている。


 元世界なら確実に死亡フラグだな。

 そんな風に思いながら容体をしっかりと見る。

 やはり深く抉れて肺すら見えてるじゃないか。


 患部に手を翳しつつ素早くヒールを行う。

 が、ヒールでは追い付かない。噴水の如く噴き出していた出血は止まったが、患部は修復されない。

 ヒールは回復魔法でも下級に属する魔法なんだから仕方がないが。


「だめか、じゃああと僕が持ってるのは上級ヒールしかないが、これで駄目だと……」


『やってみるですの!』


 シャルルの言葉に無言で頷き、意識を集中する。

 上級魔法は心が乱れれば失敗をするらしいので、なるべく早く、それでも落ち着くように一つ深呼吸をする。


「ふぅー……よし」


 そしてヒールよりもレベルの高い魔法の使用を試みる。


「――大地と精霊の加護を汝に与えよ!――グレースヒール!!」


 魔法を唱えた瞬間、エルザと呼ばれた女性は光に包まれる。


 僕が持つ聖属性上級魔法。

 ヒールよりも2段階効果が高く、死亡してさえいなければ大抵の裂傷は回復できるという。


 これより高度な回復魔法は買う事は出来ない。

 現時点で僕が使える最高の回復魔法だ。


 その効果はあったようで、見る見るうちに致命傷ともいえた傷が塞がっていく。

 まるでヴァンパイアの人体回復を見ているかのように。


「す、すごい……」


 修復されて行くということは、抉れて無くなっていた部分も修復されるわけで。

 僕は不謹慎にも二つの意味で凄いと言ってしまった。一つは修復速度にだけど、もう一つは、まあ、でかい。何が?乳が。


『多分これで大丈夫だと思うですけど、結構血が流れてるですから、銀丹か金丹を飲ましてあげるですの!』


 そんな僕の煩悩など露も知らないシャルル。

 流石に魔法で血まで回復はしない。

 あ、そう言えばマジックキューブにあったな。


 シャルルの言葉に思い出し、キューブを開いて3ページ目の隅っこにある巾着のような袋を取り出す。


「これだよな?」


『ですの!中に金色と銀色の玉があるですから、どちらでもいいので飲ませるですの!効果は当然金丹の方が優秀ですの!』


 まあ見た目そうだろうな。金より銀が優秀だと言われたらこんがらがる。

 そう思いながら袋の紐を緩め、直径1センチ程度の金の玉を1個取り出した。


 どうやらこれは活力丹と言って、失った体力や人体に必要な物を回復補充する便利アイテムなんだそうだ。金色と銀色と銅色の活力丹があって、当然ながら金色が一番高価で1個あたり大銀貨1枚もするらしい。日本円にして10万円換算ですよ。


 とはいえ僕はこれ貰いものなので全く気にもしないけれど。

 貰いものじゃなくても美女の命がかかっているんだから気にもしないがね。


「でもさ、これどうやって飲ませる?」


 傷も塞がり息もあるのだが、意識は失ったままだ。

 これで無理やり飲ませていいものかと思うし、水もなしに飲めるものなのか?パチンコ玉のような大きさを。


『しょうがないですの!ユト、手をコップみたいにするですの!』


「こう?」


 言われるがままに指先で金丹をつまみつつ、両手をコップ状にすれば、シャルルが生活魔法を唱えたらしく、身を乗り出して手を伸ばした先から水がジャーっと勢いよく、しかしコップ一杯分だけ流れ落ちて来た。


「すご……って……これ、どうやって飲ますんだ?」


 何にも考えて居なかった弊害か、指先でつまんだ金丹が寂しく光っている。

 このままでは女性の口を開ける事も出来なければ金丹を飲ませる事だってできやしない。

 唯一の方法はあるにはあるが……


『口移しですの!』


「あ、やっぱり?」


 必要に駆られてなのだから仕方がないとは思いつつ、同意も無しにチュー何て。


「……まあ、役得だな」


 これくらいは許してもらおう。

 そう思いつつ自身の口にまずは金丹を放り込み、そして手酌に並々と注がれた清水を口に含む。清水というだけあって無駄に美味かった。


 さあ、あとは思いっきり接吻をするだけだ。


 ネタなら顔を近づけた瞬間に意識を取り戻し、『きゃーー何するのよこのチカン野郎!!』と言いつつ僕はシバかれるパターンなのだが。

 そう思いつつ顔を近づける。


 見れば凄い美人なのは最初から気付いていたけれど、顔を近づければそれが更に分かるわけで。

 若干ドキドキしつつ、ごめんなさいと心で念じながら、鼻と顎をつまみ口を開けさせ、そして思いっきり舌を……ではなく金丹をつっこんだ。


「んごくっ……んっ……ずりゅ……れりゅ……んるりゅ……」


 すると何故か銀髪褐色肌の女性は僕に舌を絡めてくる。


 お、おい!


 いや、確かに僕も舌をつっこんだけど。

 ある意味条件反射なのかと思えてくるけれど、この人は経験ありなのか?……まあ、ありだろうなあ。

 こんな美人を放っておくなんて美醜逆転異世界くらいだろう。


 少しびっくりしつつ、絡められた舌を少しだけ堪能したあと顔を離して様子を見やる。

 まだ意識は回復しないようだが――


「ちょっ!これは……」


 全身を見やれば、破壊された鎧の隙間から、魔法で修復された大きなおっぱいがまろび出て。

 いや、それは既に分かってはいたのだが。

 なんとなんと褐色でハリのある大きなおっぱいの頂が、か、か、か……


「陥没してるのか……」


『ちくびかくれんぼしてるですのね。ユトはこういうの好きですの?』


 なんだか凄く可愛らしく言っていらっしゃるが。

 好きか嫌いかで言えば。


「ええ、好きです」

「ユトはえっちですの♪」

「ええ、その通りです」


 褐色肌にピンクの乳輪も意外とそそるのに、その頂が陥没とかご褒美でしか無いだろう。


 とはいえ。


「なあ、この人ってもしかしてエルフ?」


 最初から耳が長く尖って居る事は気付いていた。


『ハイですの。この娘はダークエルフちゃまですのね』


「やっぱりか……凄いな……本当に耳が尖ってるんだな」


 シャルルにそう言われて感慨に耽る。

 それでもあまり違和感が湧かないのは何年も前から事前にその存在を聞かされていたからだろうか。


『エルフちゃまの耳はとっても敏感で、いわゆる性感帯ですの!』


「ぶはっ!それ教えてもらってどうすんだ!」


 思わずペロペロしたくなった。


 とはいえずっと見て居るわけにも行かないし、乳首をほじくるわけにも行かないし、もう一人も気になるしで抱きかかえながら少し離れた場所で倒れている、もう一人の名前を知らない女の子の所へと足を運ぶ。



 河原の隅で木にもたれ掛かる様に意識を失って居るもう一人の女の子。

 見ればこの子もやたらと美人だ

 年齢はこちらの方が若く見えるけれど、もしかしたら同い年くらいなのかもしれないし、僕よりかは恐らく年下だろう。


 着衣の乱れなども無い代わりに、顔が死体かと思う程に蒼白い。

 どうやらこれが魔力切れの特徴らしい。

 いかにもといった具合に尖った三角帽子を被っていることからも黒魔術師なのだろう。


『この子はマジックポーションが必要ですの。でもでもユトに渡したキューブには入っていないですの……』


 少ししょんぼりとした声でそう口にするが、相変わらず隙間から目しか見えて居ないので、しょげているのかどうかはさっぱり分からない。

 そしてこの女の子には口移しをする口実が無くなった事に残念だと思いつつ。


「でも死ぬような事は無いんだよな?」


『ないですの!二刻もすれば意識を取り戻すと思うですのよ。だからちくびかくれんぼしてる女の子よりも意識が戻るのは早いかもですの』


 二刻だから4時間程か。……って、


「それ、あまり言わない方が。本人気にしてるかもよ?」


『ですの?じゃあ言わないですの!』


 その方が良いと言いつつ、さて、どうするかなと。

 そう思いながら辺りを見渡す。


 まあ熊の死体しかないんだけど。


「あれどうする?」


『魔獣を残したままですとそこに沢山魔獣がやってくるですし、素材を抜き取ったら埋めてしまうか焼いてしまうといいですの!』


 そんなに簡単に言うけどさ?


「あの……僕って解体する魔法持ってないですよ?」


『シャルルが持ってるですの!だから今はシャルルがディスマントルするですの!任せるですの!』


 <ディスマントル>とは魔獣や魔物から魔素材だけを取り出す為の便利魔法だ。

 冒険者なら必須ともいえる程の魔法で、生活魔法ではなく特殊魔法なのだが。


「素晴らしいですねシャルルさん。じゃあお願い」


 そう持ち上げつつ、二人から離れ巨大熊の死体へ再度向かう。


 見れば見る程大きな熊だ。

 これが二足歩行してたなんて驚きを通り越してサーカスに売り込めるんじゃないか?とすら思ったが、生憎既に死んでいるし、誰にもなつきはしないだろう。


『さて。ではディスるですの!』


「それ、なんだか嫌な言葉に聞こえる……」


『大丈夫ですの!ディスリスペクトではないですのよ!』


 また無駄に記憶を読んだか。


「まあいいや、ちゃっちゃと解体してくださいなプリンセスシャルル」


『うふふぅ~♪ハイですのー!』


 プリンセスと呼べば大層機嫌が良くなる。それはここまで歩いた道中で知った。

 これは使えるぞと少しだけ悪い事を考えつつ、隙間から少し身を乗り出したシャルルの解体の様子を見守って居れば、あっという間に解体魔法の<ディスマントル>を唱えた。そして何気に無詠唱。


 すると、目の前の大きな熊さんが青白く光ったかと思いきや、一瞬のうちに毛皮が……無くなった!?


「うおっ!」


 文字通り筋肉だるまになった熊を見て思わず唸り声をあげてしまうが、だって初めて見たんだから仕方がない。

 見れば熊と僕の間には綺麗に熊の形をした魔素材が転がっていた。


 そしてそれとは別に、何やらバスケットボール程の大きさの黒い袋と、熊の足の肉球部分だけを切り取ったかのようなピンク色をした皮膚も。

 それから人の頭程はあるだろう真っ赤な鉱石もゴロンと転がっている。


 それらを見やりながらシャルルは感嘆の表情を見せつつ、


『はい、終わったですの。なかなかの素材ですのね~。えっと、説明をするですの?』


「あ、お願い」


 鑑識を持って居るけれど、どうせだからお願いしてみよう。


『まず左からですが、見た通り皮ですの。ビッグベアロードの毛皮ですから相当な価値があると思うですが、シャルルには相場なんて良く分からないですの。それからこの黒い袋が胆のうですの。錬金術師ちゃまが作る万能薬や金丹の材料になるですよ。それからこのピンクの皮膚もそうですの。これも錬金術の材料ですの。あとはこの魔石ですの……すっごく大きいですのね。ちなみに火属性の魔石ですの』


 僕の返事を聞き、小さな指で一つ一つ指さしながら教えてくれた。


『でもでもこのままですと、毛皮は重すぎてキューブに入らないですけど、抱えてもっていくですの?』


「いや、それはちょっと……」


 重さとかよりも、なんか匂いがしそうで。


『ではではもう一度ディスるですの!』


 そう口にしつつ、今度は毛皮に向かってディスマントルを唱えた。紅葉よりも小さな両手を広げて毛皮に向けて唱える姿を見やれば、何とも言えない程に可愛らしいものがある。


 そして二度目のディスマントルを毛皮に唱えれば、熊型の絨毯状態だった毛皮が綺麗に正方形の形にカットされた。

 どうやら2度使えばキューブに収まる重さに自動でカットしてくれるらしい。


「長ちゃま曰く、中には一頭丸ごとじゃないと買い取らないって依頼主も居るそうですから、そこだけは覚えておくといいかもですの」


「なるほど……勉強になるな……」


 やっぱり起きて居れば先生だな。


 その後アイテムをキューブに詰め込んで、置いてきた荷物も気になるので、二人を小脇に抱えて野営をしていた場所まで戻った。勿論ビッグベアロードの死骸は火魔法を使って綺麗に焼き灰にして。


 因みに火属性だったビッグベアロードは、死んだ時点で属性がなくなり唯の死骸になる。魔石が全部属性を吸い取るからだとか。


 不思議な世界だよ、まったく。

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