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第4話。 プリンセス・シャルル。

 きっと多分恐らくは狭間で分解はされないだろうと願いつつ地球から持ち込み、結果分解されていなかった荷物が入った大型のリュックを背負い、村雨改めムラサメブレードだけをマジックキューブに押し込み、小島から浮石をおっかなびっくりで飛び渡り、”不侵の森”という名前がついた真っ暗な森の中へと足を踏み入れる。


 因みにマジックキューブへは魔力を帯びた物しか入れられない。

 なのでリュックは当然入らない。中の物も当然入らない。

 裏技的な方法――巾着がヒント――はあるらしいけれど、現時点で無理で入らないものは仕方がない。


 当初はお気に入りのバッシュを何足も持ってこようと思っていたのだけれど『持ってってもどのみち魔法がかかった靴を履くであろうから使い道に困るのじゃ』と天照様に言われ、泣く泣く断念した経緯があるくらいだ。


 屋敷に戻りその事を皆に話した後、室内履きにでも!と食い下がったが『その靴を?悠斗は本気でいっているのかしら?』と今度はノエルに言われ、雪那には『兄様の足のにおいが年がら年中香ばしくなりますね。雪はその匂いは好きですが』などとも言われては無言で引き下がるしか無かった。臭いのは駄目です臭いのは。


 とはいえ。


 天照様に騙されて今はまだ午前4時前くらい。シャルルが先ほど二の刻前とか言って居たから多分そうだろう。

 ゆえにただでさえ深夜なのに、森に入れば恐ろしい程に真っ暗だ。

 真っ暗な森過ぎるのに、でもなぜか不自由なく歩ける。


 答えは簡単で、シャルル先生が生活魔法という物を使ってくれているからだが。

 シャルルが魔法で出した光の球体が僕が歩く数メートル程先にふわっと浮いたまま、同じ歩調で先を進んでくれるという、なんとも便利な明かり。


 生活魔法は文字通り生活をするうえで、あると便利な魔法らしい。しかもこれは属性適性を持たなくとも覚えられ、そして使用できる。

 種類はそれなりにあり、今シャルルが灯してくれている<ライト>を入れて便利な生活魔法は全部で10個以上もあるとか。


 他にどんなものがあるかはおいおい使った時にでも説明をするし、シャルルノートにも書いてある筈だけれど、どれも普段からの生活において有用な物ばかりなのだから、当然ながら手に入れておきたい。生活魔法のスクロールは小さな町のヨロズヤなる雑貨店でも売っているらしいし。


 ああそうそう、自分のステータスを見ることが出来る生活魔法も有るらしい。まあ、無いと困り過ぎるくらいだろう。

 とはいえそれは生活魔法というよりも特殊魔法に近いらしいけれど、それでも魔法の素養が無い人でも覚えられるという事で、生活魔法に分類されているのだとか。


 視たらびっくりするですの!などと言って居たけれど、そもそも僕は他人のステータスを視れないのだから、びっくりも何もないのでは?と。突っ込まないで置いたけれど。


「しっかし……見れば見る程ふっとい木だなあ……」


 チュートリアル第二弾がひと段落付き、暗い周囲を見渡しながらつぶやく。


 おっかなびっくりで入った森の中は、誰かが手をいれたかのように地面には殆ど草木が生えて居ない。生えているのはほんの少しの小さなシダ植物や苔くらいだ。


「森を形成する主木が大きすぎて小さな植物が生えづらいのだろうか……余計なブッシュが無いし、まっ平だから歩くのには都合がいいけれどさ」


 だが、その分というか主木の大きさは半端ない。

 屋久島にある縄文杉もかくやというような巨木ばかりだ。


「でっかいなぁ……高さも……み、見えねえ……」


 空を見上げてみるけれど、光が届くわけもないのだから見えるわけもない。

 明るい場所から暗闇に向かい、巨木が何本も吸い込まれるかのように真っすぐ生えているだけだった。

 だが、僕の肩に座って相変わらず楽をしているシャルルにとってはそんな事もなかったらしく。


「ここの木はそこまで大きくはないですの」


「まじで?てことはもっと大きな木も?」

「ハイですの!シャルルが生まれた場所にもこれ以上太い木は沢山あるですし、この国よりも北には幹の太さが数百mくらいはある世界樹の木も存在するですのよ。高さは1000mくらいだって、長ちゃまは言って居ましたですの!」


「……はい?」


 一瞬何を言っているのか数字を聞き間違えたのか分からなかった。


「ですから数百mの太さですの!」


「木ですよね?それ」


 木造建築じゃないのかと。

 とはいえ高さ1000mもの木造建築なんて。


「ハイですの!でもでも、その中は迷路のような空洞になっているそうですのよ」


「へぇ~……」


「しかもしかもその迷路のような空洞には魔獣や魔物も住み着いてるそうですの!要するに迷宮ですの!」


 木の幹が迷宮か……そりゃ数百mの太さならありうる話なのかもしれないが……

 という事は……もしかして。


「しかもしかも枝葉には森エルフちゃまが住んでるですの!」


「森エルフか……会ってみたいな」


「綺麗ですのよ~。でもでも森エルフちゃまは森から出ないですの。草原エルフちゃまは町にも住んでるらしいですのに」


 都会や多人種が嫌いな人も居るさ。

 とはいえ先ほど気になった事を聞いてみる。


「そっか……あのさシャルル」

「なんですの?」


「シャルルって僕がこっちに来た目的は知ってるよね?」

「ハイですの!おっきな亀裂ぐるぐる8か所を封印するですの!シャルルはそれを手助けするですのよ!」


 ぐるぐるて……まあ見た目そうだけど。


「そう。他にも目的はあるんだけど、それが主な目的」

「あ、ユトが何を言いたいかはわかったですの!ええ、あるですのよ!そこにおっきな亀裂ぐるぐる」


「ああやっぱり。その場所は分かる?」

「分かるですの!」

「おーけー。まだ準備も何もできていないし元世界から僕の巫女も来てくれていないから行っても仕方がないけれど、とりあえず1か所分かるだけでも有り難い」


「うふふぅ~♪」


 僕が褒めたからかシャルルは途端に上機嫌になった。


「じゃあさ、他の亀裂は分かる?」

「んー……あと1か所は分かるですの!」


「そっか。それはどこかわかる?」


「この国で一番栄えた町の中心にあると長ちゃまは言って居たですの!」


「……はい?」


 またもや聞き間違えたかと思った。

 町の中心にある?亀裂が?

 ああでも奈良の平城宮跡のは確かに町の中心にあったしな。そう考えればありうるのか。


 そう思考を纏めたのだけれど、どうやらこちらとあちらの亀裂事情は全く異なるらしい。


「町の地下ふかーーくに亀裂ぐるぐるはあるって長ちゃまが言って居たですの!でも後の6か所はわからないって」


「えっと、もしかしてさ、こっちの亀裂って全部迷宮の中とか?」


「ですのー!魔素が集まるところにしか亀裂ぐるぐるは生まれないですのよ」


「そら地球でも似たようなものだけど」


 魔素ではなく妖気だったけれど、まあ理屈はわかる。


「その魔素が一番濃い場所が迷宮ですの」


「迷宮の真上に一番大きな町があるのか……恐ろしや」


「そこは地下だけではなく地上にも別の迷宮があるそうですの!」


「……なんでそんな……」


 思わずこちらの人達の神経を疑った。

 でもまてよ?もしかして思ったよりも安全なのか?


「もしかして、迷宮からモンスターが漏れ出すって事はない?」


「ないですのー!」

「ああ、なるほどそういう事か」


 漏れ出す心配が無いなら、そりゃまあ素材を確保できる場所の近くに町が出来るよなと。

 しかも迷宮が上下にあると……上下?


「あの、地上にも迷宮があるってどういう意味ですカ?」


 意味が分からず思わず敬語で聞いてしまった。


「そのままなのだそうですの!。地下におっきな迷宮があって、地上は塔のような迷宮がそびえたって居るですの!そして塔の周りに町ができてるそうですの!」


「へぇ~……どんな感じなんだろ……」


「おっきな塔らしいですのよ~。雲を突き抜けてるそうですの!」


「それはまた。……見てみたいな」


「シャルルも見てみたいですの!」


 でもまてよ?


「じゃあさ、仮に迷宮の機能を停止させられたら亀裂も消えるとか?機能が停止するかどうかも分からんけど」


 僕の適当な質問にも真摯に応えてくれるシャルル。

 耳の真横で声を出されるとくすぐったく感じてしまうが、先ほど僕の息子を可愛がってくれたのだからなんだって許せるし心地いい。ええ、ちょろいですよ僕は。


「んー、ちっちゃな亀裂ぐるぐるはそうかもですが、おっきな亀裂ぐるぐるは無理だとおもうですの。ユトの地球で同じことが出来るですか?」


「ああ、そっか。一度出来たものだから大きな亀裂はやっぱり無理か」

「ですの。それにそもそも8か所の亀裂ぐるぐるがある迷宮は活動を停止させられないと思うですの」


「そうなんだ」


「でもでもちいさな迷宮ですと、魔素発生を止める方法はあるですのよ」


「へえ、どんな?」


「迷宮には必ず迷宮核、いわゆるダンジョンコアというものがあるですが、それを破壊してしまえばその迷宮は死に絶えるですの」


「なるほど。でも死に絶えるって、もしかして迷宮って生きてると例えてる?」

「ですの!ダンジョン全体が生き物のようなものですのよ――」


 そうして今度は迷宮についてレクチャーをしてもらった。

 これも長いのでシャルルノートに記入っと。



「聞けば聞くほど不思議だな……この近くにもあるんだろうか」


「んー……この付近にはないですの」


「そういうの分かる?」


「ハイですの!ユトもこの世界に慣れれば魔素の濃い場所が付近にあれば感じるようになるですのよ。元世界の気を感じる事が出来たですからね」


 そりゃ便利だと口にしつつシャルルの話を続けて聞く。


「そして魔素が沢山集まってるところに迷宮はあるですの!でもでも必ずじゃないですのよ」


 どうやら魔素が濃ければそこは迷宮の可能性が高いらしい。

 ただそれでも必ず迷宮だとは限らないようだが。


「じゃあ迷宮じゃなくって魔素が多く集まる場所ってどんなところ?」


「モンスターが一杯集まっている所ですの!」


「ああ、まあそりゃそうか……」


 モンスターは魔力を糧に生きて居る。

 いわば人間に酸素が必要なように、亜人や魔物や魔獣たちは魔素が酸素のようなモノらしい。ゆえに魔素が濃い場所に集うモンスターは総じて元気が良いと。


「元気が良いって……」


 なんともシャルルらしいと思える表現の仕方だが。


「強くなるですの!」


「ああまあそうだろうなあ」


「でもでも魔素が更に濃すぎると、モンスターたちは魔力中毒を起こして、より狂暴になって共食いすら始めてしまうですの。テイマーちゃんがテイミングが出来ない程ですのよ」


「酸素中毒とは別か……」


「ですの。迷宮は魔素が一定に保たれてるですからそういう事はないですけど、フィールドはそんな事関係ないですからね」


 そりゃそうか。迷宮が生きてるって考えならば、中毒になるまで魔力を供給するメリットは迷宮側にはないと思えるのも道理だ。



 そんな風に会話をしながら暗い夜道をひた歩き、いい加減2時間程度は歩いて辺りがほんのり薄明るくなってきた頃、シャルルが突如眠そうな声で口を開く。


「うにゅー……そろそろシャルルはお眠ですの……不侵の森を抜けたらねむるですの……」


 首を回して見れば目を腕で擦りつつも殆ど瞼は閉じている可愛い精霊が。

 掴んだ耳たぶは離さないようだけど、それも時間の問題か。


「あら、じゃあ僕の服の中に入って寝るか?」


 冗談ではなく、割と普通にそう告げた。

 サイズ的にいけるからだろうけど、それ以前に既に僕はシャルルに心を許している。

 まあ、愚息をし〇ぶってもらったしなあ。


 人体の急所を優しく扱ってもらい、更には嬉しそうに〇飲なんぞしてもらえばそれはもう心を許す対象だ。少なくとも僕はそうだ。


「魅力的な提案ですけど、心配いらないですの。シャルルも空間魔法使えるですのよ」


「ああ、そういや精霊ってそうだって言ってたね」


 チュートリアルの中の種族説明で確か聞いた。


「なのでシャルルはそろそろお眠の時間ですが、用事があったら呼ぶですのよ。外の声は聞こえるですし、中からシャルルの声もユトには聞こえるですの」


 念話みたいなものだろうか?


「それって念話?」

「テレパスではないですの。魔法ではなく種族ギフトのようなものですのよ。でもでも念話テレパスと機能は同じですの」


 ああ、なるほど。


「じゃあ僕は声を出さないと駄目ってこと?」


「ほんの小さな声だけでもシャルルに向けてのものなら拾えるですのよ。でもでもその時シャルルが寝てたら聞こえないかもですの。だからだからその時は声に出して呼んでくださいですの」


「分かった。でも街中とかじゃ出てこれないんだよな?」


「出来れば出たくないですの。会話だけですの」


 シャルル達精霊族は世界で認知をされてはいるらしいのだけれど、いかんせん泉から出られるような精霊は極わずからしく、見られたら何が起こるかわかったものではないらしい。


 何が起こるかなんて、まあ、珍しさから攫われるって事なんだろうなと。

 ゆえに僕が誰にもちょっかいを掛けられないくらいに世界で認知されるまでは、あまり表に出る事はしないのだとか。『でもでも今度ユトのお胸ぬくぬく体験するですの!』などと言ってはいたけれど。


 とはいえ、そんな事あるのかね。僕が世界に認知されるどころか、誰にもちょっかいを掛けられなくなるような事なんてさ。



 そんな風に思いながら更に歩くと、ようやく不侵の森を抜け、僕も見慣れた本来の森の風景が前方に広がった。


 雑木がうっそうと茂り、歩く道も獣道のような幅の狭い道しか無い。

 けれど既に朝を迎えたのか、森の中のような薄暗い光量ではなく、木々の隙間から眩しい太陽の光が差し込んでいるようだった。


「はーー……抜けたー。でもまっぶしいなおい」


 抜けたところで深呼吸をしつつ、手で太陽を遮りつつそう呟くけれど返事は返ってこない。


 既にシャルルは僕に結び付けた空間を作り出して、そこに入って寝てしまって居る。

 どんな風な構造をしているのかは分からないけれど、寝ていても僕に勝手について来るというのだから、魔法とはなんて便利なんだろうか。


 とはいっても空間魔法は精霊族の一部かハイエルフしか使えないのだから、僕には一生縁がない魔法でもある。

 因みにシャルルさん。

 彼女はどうやら精霊族に何個かある部族の族長の娘なんだとか。


 要するにお姫様。

 『シャルルはプリンセスですの!』

 などとクルクルと回りながら口にしていたけれど、だからこそ空間魔法を扱えるんだろうなと。それだけ血が優秀だという意味で。


 でも精霊は種族交配で増えるわけではないとも言っていたのだが、族長の娘とは一体どういう意味なのだろうか?

 謎すぎて聞いても分からなそうだったし、重要な事でもなかったから聞かなかったけれど。


「太陽の方角から見て、このまま真っすぐ獣道を進めばいいんだったな」


 寝る前にシャルルから聞いたように、太陽の光が射す方角から進む方角を割り当てる。

 その方角に向かって伸びる獣道らしき道を一人寂しく進んでいくのだが、何気に周囲を見渡してみても、ここが本当に異世界なのかすら分からなくなる程に、僕が知っている山の中と何ら変わりは無い事に気付く。


「不思議だ……」


 ただ、ところどころに淡く光りを放つかのような草花を見かける事が出来るので、辛うじてここが異世界なのだと思える程度。


 光を放つ草花は錬金術に使えるらしく、ポーション類を作れるそうで、多少の回復魔法が使える僕でも持って居て損ではないそうなので、折角なのでとその草花を摘み取りながら歩く事30分あまり。


 因みにマジックキューブに納めるのだけれど、このキューブ、1セルに1個しかアイテムが入らない。だから本来なら魔法で作った袋の中に入れてキューブを圧迫しないようにするのだとか。ようするに巾着に入っているゴルドのような裏技。なので今は1セルに1個の薬草が入り、それが1ページ目の半分くらいを埋めているのだから、無駄なセル消費も甚だしい。


「ヨロズヤで袋を買わないとだなー」


 そう独り言ちながら歩き、このままだとあと30分程度で森から抜けれるだろうその時だった。


 少し離れた場所から大きな違和感を感じ取る。


「なんだ……?」


 シャルルを起こして聞こうかどうしようか迷ったけれど、寝たばかりで起こすのも憚られ、仕方なしに注意しながら違和感がする方向へと歩を進める。勿論ムラサメをキューブから取り出して。


 すると少し開けた場所に出たのだが、そこには人が一晩夜を明かしたような痕跡が。既に人の気配はしない。

 ただ、テントらしきものはそのままで、テントの前に焚火が灰になった状態で放置されていたのだった。


「これって……なんで?」


 常識的に考えてテントをそのままにして立ち去るなんてあり得ない。

 いや、まあこちらの常識なんて僕にはまだ知らない事だらけなのではあるが、それでも違和感しか感じられない。


 灰になった焚火を確認すれば、昨晩つかったような雰囲気ではあるし、テントの中は荷物がそのままにしてあった。


 そして周囲をくまなく見やると――


「でっけえ……」


 見れば少し離れた場所には動物の足跡が。

 しかもその大きさたるや恐竜でも現れたんですかね?と思える程に大きい。


「1m……とは言わないけど7.80センチはあるなこりゃ……」


 だが、という事は結果は自ずと導き出されるわけで。

 眠たかろうがなんだろうがシャルルを叩き起こす事に。


「シャル起きろ」


 シャルルのルすらも省略しつつ呼ぶ。

 すると――


「にゃむにゃむ……シャルルはもう食べられないかもお……にゃむにゃむ」


 おい。


「良いから起きろ!」


「にゃむにゃむ……どうしたですの?」


「ちょっと見れるか?」

「ふぁぶぶぶぶ……何かあったですの?」


 そう告げるとシャルルは緊張感のない返事を返しつつ、小さな隙間を作り出してそこから外を覗いた。

 そして見る見るうちに真顔になり、目を大きく見開きつつ、


「あ!これ!もしかしてユト襲われたですの!?ユト!どこか怪我はないですの!?」


 何故僕が襲われるんだと。

 寝ぼけてやがるな。


「よく見て。ここで野営をしてた人が魔獣かなにかに襲われた形跡じゃないか?」


「ふむ……ですの!ちょっと待ってくださいですの!」


 きょろきょろと辺りを見渡しそう告げると、目を閉じてシャルルは周囲の気を探りだした。

 僕もあわてて周囲の気を探るがいまいち要領を掴めない。

 慣れが必要だって言ってたしな。


「あ!ユト!そっちの方角へ急いでですの!」


 そうシャルルが裂けめから半身を乗り出して指をさす。

 ぶっちゃけ何にもない空間に裂け目が出来るその異常さに驚くけれど、今はそれを突っ込む余裕も無い。


 シャルルが指さした方角へ急いで走る。

 リュックは重いといっても高々50kg程度だ。

 でも下ろして走った方が確実に早いしそのまま戦闘になっても動きやすい。

 なので下ろして走る。


 そして走る事数分程度。


 前方には小さな川が流れ、少し開けた場所に出たのだが――



「で、でっけえ……」



 目の前にはダンプカーかと思える程に巨大な……熊?がそびえたって居た。


 そして見ればその熊の前には肩で息をして剣を構えている銀色の髪を持つ褐色の女性と、少し離れた場所で杖を握りしめて蹲っている女性も視界に飛び込んで来た。

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