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第20話。 分かりやすい尻尾。

本日1話目です。

 店先でマジックキューブを開き、セラ用にと<カウンターダガー>と<オーガトゥース>を取り出し渡す。

 だがここで小さなハプニングが。

 差し出された武器を見やり、セラが正確にグレードを口にする。


「え?……これはレジェンド武器とレア武器ですよね?」

「うん。オーガトゥースがレジェンドで、カウンターダガーがレア武器だね」

「……ん?」

「あ……」


 思わず口にしてしまった。

 そしてあざといブレッドは直ぐに気付く。


「オーガ……いや、俺は見れば形で分かりますが、旦那は今日この世界へ来たんですよね?それに、さっき買った生活魔法はまだ覚えて居ませんよね?」


 何をかと言えば、僕が目利系のギフトを持って居る事を。

 確かに魔道具に限っては生活魔法の<ステータス>でも物の詳細を視られるらしいが、僕はまだそのスクロールを使用していない。


 だからこそブレッドが突っ込んで来たのだが、その言葉によって当然ながらフェリスちゃんを除く全員の目が見開かれる。


「もしかしてユウト様は……」

「あー、うん。今晩まとめて言うけれど、そのギフトのレアを持っている。それ以外も複数」


 元々話すつもりだったので何ら支障はない。

 レアという言葉とそれ以外も複数という言葉で皆の目が僕を捕えて離さない。 

 穴が開いちゃうって。


「んまあ、後で。というわけでセラはこれを使ってよ」


 は、はいと口にしつつ受け取るセラの手は、若干どころではない程に震えている。

 そして恐る恐るといった具合に僕を見やりつつ、


「こ、このような凄い武器を貸していただいては……」

「貸すんじゃなくセラの持ち物として持っていてよ」


「そんにゃ!レジェンド武器など……」


 今「にゃ」って言ったぞ?

 僕は確かに耳にしました。

 とはいえソレを突っ込むと話が逸れる。

 なので泣く泣く突っ込まない。でも後できっと突っ込むだろう。


「いいんだ。皆を守る武器だから」


 そう言われてしまえば引き下がらざるを得まいて。


「わ、わかりました。大切に使います」


 案の定しぶしぶといった具合だけど了承してくれた。

 ただ、受け取ってそれを自身の手の中に収めたセラの表情は、陶悦ともいえる程に目をとろんと垂れ下げて、挙句は頬擦りをしてしまう程。

 そんなに嬉しいものなのだろうか?ハッポンの持ち物だったのに。


 とはいえ<カウンター・ダガー>と<オーガ・トゥース>は内容をよく理解していなかったので、再度確認をする意味でみてみた。



【名称:カウンター・ダガー】

【分類:短剣】

【グレード:レア級】

【属性:無属性】

【ATK:15】

【耐久値:1220/1500】

【特殊効果:クリティカル率10%上昇・暗殺者系が装備するとクリティカル率+15%上昇】

【備考:魔石以外の魔素材を使わずウーツ鋼とオリデオ鋼のみを材料とした比較的ポピュラーな暗殺武器】


【名称:オーガ・トゥース】

【分類:短剣】

【グレード:レジェンド級】

【属性:無属性】

【ATK:27】

【耐久値:2500/2500】

【特殊効果:クリティカル率10%上昇・暗殺者系が装備するとクリティカル率+10%上昇】

【備考:オーガの牙とオリデオ鋼によって製作された非常に硬質な短剣。その刃は龍のうろこにすら傷をつけられると言われる】



 ふむ……両方とも特殊効果で10%、更に暗殺者系の戦闘職業なら、追加で+15%と10%程クリティカルがアップするって塩梅か。その分ATKは控えめ……なのかな?


 セラが暗殺者系の戦闘職業ならいい武器なんだろうけれど。

 とはいえどうやら短剣に特殊効果で、クリティカル率が10%上昇するという、素敵なおまけが付くのはデフォルトで間違いはないだろう。



「割といい武器?オーガ・トゥースとカウンター・ダガーって」

「はい、震える程に。私は暗殺者系の戦闘職業に入ったままですのでとても有効です。有難うございます♡」


 セラはやはり暗殺者系の戦闘職業か。それならばいい。

 とはいえそれよりも何よりも、どちらかと言えば無表情に近いセラなのだけれど、良い武器を貰えたからだろうか?はにかみながらも喜んでくれた事の方が僕は嬉しかった。


「短剣って基本が10%のクリティカル率上昇付き?」


「あ、はい。そうだと思います。私が今まで見て来た短剣には全てついていましたから」


 僕の質問にセラは少し思い出すようなしぐさを見せ、間違いは無いなと思い至ったのだろう、全ての短剣についていたと教えてくれた。


「へぇ~……他にクリティカルの特殊効果が付く武器の種類ってある?」


「あとはそうですね……暗殺者専用の武器なのですが、<カタール>と呼ばれる種類の武器はクリティカル上昇率がデフォルトで30%付いて居ます。重いので短剣よりは攻撃速度は遅くなりますが、クリティカルを沢山発動させたいと思う敵に対しては有効ですね」


 カタール?もしかしてジャマダハルのような形状か?


「その武器の形状って……もしかして握りかたが通常の短剣とは全く違って、刀身とは垂直に、鍔とは平行に握るような感じ?戦う時も”切る”ではなく”突き刺す”みたいな」


 身振り手振りで何とか形を伝えようとしたのだが、どうやらちゃんと伝わったようで、


「あ、そうです。正しくその通りです。ご存じなのですか?」


「見た事はないんだけれど、そういう武器があるってのは知ってた。確かにクリティカル率は上がりそうな形状だよね。その代り刃がやたらと大きいから重そうなのも間違いないと思う」


「そうなのですよ……女性にはちょっと重すぎるのがネックですね。……ですが異常に硬い魔獣とかを相手にしたい場合は、クリティカルの発生率が高い方が有利なのですよ。クリティカルはDEFをほゞ無視しますので」


 うん、僕もシャルルからそう聞いて居た。


「でもそんなに硬い魔獣とか居る?」


「居ますね……魔物やゴースト系はそうでもありませんが、魔獣ですと亀のようなものも居ますし、石の魔物も居ますし、見た目で硬そうに思える魔獣は総じて硬いです。ふふふ♪」


 そう言ってセラは笑ったけれど、どうやら彼女は戦う事が好きな気がする。

 戦闘について語る時の彼女は何だか生き生きとしているようだ。


 でも<カタール>か。……硬い魔獣を倒す場合とかで必要だと言うなら、見つけたら買って置いた方がいいかも。


「おっと、早く次にいかなきゃ」

「はい、もう九の刻を過ぎました」

「やばい、お店大丈夫かな」


 お店の前での会話だったのだけれど、ついつい話し込んでしまう。

 焦る様に買ったサンダルを渡して行く。

 仰々しく受け取るが、誰も履こうとしない。

 折角買ったのだから直ぐに履いて欲しいのに。


「靴は直ぐに履かないの?」


「あ、サンダルは……宿に戻って足を洗ってから履こうかと思って居ます♪」


 エルフィナが<サンダル>と<ナックル・ダスター>を嬉しそうに握りしめたままそう言う。


「私もそうしようかと思っていたのですが……ダメです?」


 フィオナがそう聞いて来る。

 が、ダメかダメじゃないかと問われたら、好きにしていいよ?となる。


「もうそれは君らの物だから気にせず好きな時に履いてくれていい」

「え……でも奴隷の持ち物は……あ……」


 奴隷と言って直ぐに自分達はもう奴隷では無いと気づいたフィオナは口を噤んだ。


「もう皆は奴隷じゃないんだ。そもそも奴隷の登録をされて居なかったんだし」


「はい……そうでした……」


 やはり奴隷の持ち物は主の物って認識が一般的なのか。

 そうなるとこの世界の奴隷への扱いは、決して優しくはないな。


「まぁ足を洗ってから履きたいってのも解るし、ほんと好きにそれぞれが考えて行動してくれていいから」


 そうなるべく笑顔を絶やさないように告げる。

 その笑顔が功を奏したのかは分からないけれど、全員が安堵したようにお礼を言って来た。


「有難うございます……」

「大切にします……ご主人様」

「ありがとです!」


 相変わらずフィオナにしがみ付いているフェリスちゃんだけれど、それでも表情は柔らかくはなってきている。


 良かったなと思って居るとエルフィナが武器を抱きしめたままだという事に気付く。

 エルフィナに買って上げた<ナックル・ダスター>の性能が低い事が先ほどから気に成って居たのだが。


「エルフィナの武器って<拳>でも最弱のものだよね?……それでよかった?」


「最弱ですが、素手ではダメージを殆ど与えられないので、これで十分です。それに、今のお店にはこれよりも上の<拳>は無かったので」


 まぁ無い物は仕方がないか。

 十分だと言うけれど、それは絶対に遠慮をして言って居る言葉だと言う事は、流石にあらゆる面で鈍い僕でも解る。


「まぁ、エルスーラならもっとましな武器が見つけられると思うし、それまでの繋ぎ程度に思ってて」


 その言葉に少し申し訳ないというような表情を見せるのだけれど、いかんせん彼女は獣人族だ。

 獣人族という事は尻尾や耳に感情が現れやすいと聞いた。

 という事は今の彼女もそれが解る訳でして。


 僕の言葉にを受け、盛大に尻尾をブンブンと振りながら申し訳ない様な表情を見せる。

 だがそれに気づいたエルフィナは、顔を真っ赤にして上目遣いに、こうつぶやく。


「し、しっぽは見ては駄目ですよ?……ご主人様……メッ……です……」


 な……なんて可愛いんだこの娘は。

 上品な出で立ちにも関わらず凛々しさも持ち合わせ、尚且つ可愛い性格とくればこれはさぞやモテただろうなと。

 しかもどうもセラが誤爆した内容を考えれば、どこかのお姫様かお姫様で、恐らくはお姫様だったというのは間違いは無いだろう。


 後から聞く告白が楽しみだ。

 そんな風に思って居ると、拗ねていた筈のエルフィナが真顔を見せながら口を開く。


「ご主人様。本当にありがとうございます」

「まだまだだよ。次は洋服店だから」

「ありがとうごうざいます……」

「何だか夢みたいです……昼間までずっと地獄でしたのに……」

「ありがとーございまっす♪」


 何度も何度も頭を下げて来る彼女達をみやっていると、何だかもっと何かしてあげたくもなる。


「ははは、まだまだだ。もっとだ」


「……生きててよかったです……」

「私も……もう死んでしまおうかとすら思っていました。……妹が……フェリスがいるから思いとどまれただけでしたし……」

「お姉ちゃん……」


 心配そうにフェリスちゃんが姉を見る。

 姉にしがみ付く手も一層力が入って居るようだ。


 自分の意志以外で無理やり奴隷にさせられるという事は、それこそ死んだ方がましだと思うくらいのストレスなのだろう。

 自分の意志で奴隷になったのならば諦めもつくだろうが、そうじゃないのならばとても受け入れられるものではないだろうから。


「難しい話も後から沢山しなきゃならないからさ、さっさと洋服店へ行って洋服を買った後、美味しい物を食べに宿屋へ戻ろう」


「「はい」」「あい」



 洋服店は防具店の直ぐ近くにあった。


 やはり田舎だからなのか衣類の種類や量は少ないけれど、それでも割と小奇麗な感じで。

 そんなお店に入ればそこは年頃の女の子。全員の目の色が面白い程に変わった。フェリスちゃんすら変わったのだから、やっぱり彼女も女の子なんだなぁとどこか感心をしてしまう。


 この世界の女性はロングのワンピースが主流の様で、腰を紐で縛って居る人が目立つ。

 そして作業をする場合はそのワンピースの下に裾を絞るようなダボダボのパンツを履く。


 もっと都会へ行けばそれなりに奇抜な恰好が見られるらしいけれど、田舎では概ねそんな程度だ。

 とは言っても流石に今彼女達が着ている奴隷服とは違って、生地自体は良い物が多い。


 奴隷服はどう見ても目の粗い麻で織られているし。

 目が粗すぎて、その下に着ている下着がチラチラと見える程だ。

 なので麻は却下で綿のものを買うように言うのだが……


「エルフィナさん、それ、麻」

「はっ!何でもありません!気のせいです!ええ気のせいです!」


 選んでいる姿をじーっと小姑のようにみていると、やはりエルフィナ達は遠慮をする。

 指摘をすると直ぐに何も無かったかのようにワゴンに服を戻すけれど、耳と尻尾でしょぼくれているのが丸わかる。


 まあ、今日の今日だし。仕方がない。

 とはいえ1着ずつでは着替えが無いし、エルフィナは僕について8日間ばかりの小旅行に出かけるのだから、多いくらい買ってもいいのだが。


 そんな事を考えながら、ここで選ぶ服の基準を告げる。

 時間ばかりが過ぎて埒が明かないから。


「んと、外出用の服を2着と室内用の服を1着。肌着と下着は3着ずつ……でいいかな?エルスーラでも更に何着か買う予定だし……魔法装具もそこで揃える。エルフィナ?どう?」


 自分で宣言して置いて、自信がないものだから結局のところエルフィナに伺ってみる始末。

 この3年間で少しはましになったと思って居たのだけれど、結局のところ振り出しに戻ったようなそんな感じ。


「それだけあれば十分です。ですが……出来ましたら月のモノ用に専用の下着を2着ずつ買う事を許していただければ……あと、裁縫道具も出来ましたら……」


 若干恥ずかしそうに、それでいてフィオナ程ではないけれど、エルフィナが僕に伺う。

 しっぽは勿論垂れてしまっている。


「裁縫道具?」

「はい、わたしとセラは獣人なので、その、尻尾穴が無いと……」


 あーっ!


「確かにそうだよね。凄く窮屈そうだ」

「はい、ですから専用の服が無い場合自分で穴をあけるのです」


 魔法防具の場合はどうするんだろう?

 まあ、今はそんな事どうでもいいか。


「勿論買っていいよ」

「ありがとうございます!」


「あ、それと下着も勿論どうぞ。でも2着ずつでいいのか?」

「はい。毎日洗えばいいですし」

「そっか。分かったよ。じゃあ5着くらい買って置いて」


 人の話を聞いて居ないのかお前は!!と一部で盛大に突っ込みを入れられるかも知れないけれど、これにはちゃんとした理由がある。毎日洗えばいいって言っても、洗えない時があるかもしれないじゃないかと。

 だからこそ僕が余分に買う様に促した。


「あ……有難うございます……ほんとに……」


 僕の意図を瞬時に理解したであろうエルフィナは、またしても尻尾をぶんぶんと振り始めた。でもスカートの中で暴れまわるからバフバフっと音が凄い。


 これは確かに穴がいる。でも、わっかりやすいな。


 余り尻尾部分を見やっていると、また先程のように咎め兼ねられないのでそこそこでしか見れないけれど、それでも獣人族は、特にエルフィナは感情が分かりやすいのかもしれない。

 同じ獣人族でもセラは尻尾はあまり揺れないし、ゆっくり小さく揺れて居る事の方が多い気がする。


 そんな事を考えていると下着類は選び終えたのだろう。

 あまりまじまじと見るわけにも行かないので、今は明後日の方向を向いているけれど。


「下着は選び終えましたので、次は洋服を選ばせて頂きます」


 その言葉に振り向けば、フィオナだけはもう今にも倒れそうな程に顔が赤い。どうやらもういっぱいいっぱいらしい。

 他の人はそうでもないのに。特にセラなんて武器の話をしていた時とは全く異なり無表情だし。


「うん。金額は気にしないでいいから、気に入った物を買ってよね。というか頼むから遠慮をしないで。……時間もないし……」

「……分かりました。有難うございます」


 ほとほと困ったような表情を敢えて作りつつそう口にすれば、探るような目でエルフィナは僕を見やり、それでいて今度は尻尾も少し垂れている。


 本当に遠慮してしまいそうな雰囲気だけれども、それでも彼女達はきゃいきゃい言いながら服の物色を開始した。

 僕は<静寂の泉>で貰ったローブがあるから、外出用の服は取り敢えずは買わなくてもいいだろう。


 そんな訳で僕は自分用の室内着を探したのだが……この世界でも男性用の衣類は品数が少ないのだろうか?


 唯でさえ衣類の種類も数も少ないのに、男性用の衣服がこの世界でも少ないとなると困りますよ。

 そんな風に思いつつ狭い店内をぐるっと見渡して、やっと見つけた男性用衣類売り場はほんの畳半畳程度も無かった。


「……がっかりだ。見繕う必要もないくらい種類がすっくな……」


 またしても独り言ちて文句を呟く。

 すると、手持無沙汰なのだろうか?ブレッドが僕についてきて一緒に服を見だした。でかい僕と、ドでかいブレッドが並ぶと、それだけで男物スペースは終了するのだから、何ともシュールな絵面だろうか。


 そんなブレッドは僕の独り言が聞こえたようで、僕に同意するかのように同じように呟く。


「そうですなぁ……冒険をする男は大抵が魔法装備だし、そうじゃない男も毎日同じような動きやすい服を着て居ます。都市部ではまあそこそこ種類があるとは思いますが、それでも期待はしない方がいいです」


「だろうね」


 一般人はそうだろうな。一般人ではない貴族は貴族専用のお店に行くか持ってこさせるかだろうし、そもそも街中でも危険なら尚更魔法防具をメインで着ていても不思議じゃないし。


「ふむ……まあひとまずは持ってきたパンツとシャツで我慢するか……」


 そう口にしつつも一応パンツとシャツはどんなものか見てみる。

 が、パンツと言っても、まぁ……トランクスのような形状で、ゴムが無いので腰はヒモで縛るようになっているし、綿なのにやたらとゴワゴワしているような。

 まぁ……ふんどしじゃなくて良かったなと思う程度の作りでしかない。


 がっかりしていると、エルフィナがわざわざ僕の所まで来て口を開く。

 なんだろうか?


「全員分を合わせると結構な金額に成ると思いますが……本当に宜しいのでしょうか?」

「いいよ。今着ている服はもう着なくていい。忌まわしい過去だろうし」

「お気遣い感謝いたします……あ、ですがこのTシャツ?は……」

「それは返してくれてもいいし、そのまま部屋着とかで着てもいいよ」


 その言葉に目を輝かせる。


「頂きます!大切にします!」


 遠慮など微塵もないその口ぶりに一瞬戸惑うが、なんというか、まあ、そういう事だろう。

 あまり突っ込みは入れない。でも一応釘をさす。


「ハハハ……あまりくんかくんかしない様に」

「し、しません!……す、少ししか……」


 力強くそう宣言をしたけれど、どうやら自信は無いらしい。


「あははは」


 可愛い人だなと思いつつエルフィナを見やりながら笑って居ると――


 じーー……


 何やら二つの視線を感じた。

 見ればフィオナとセラはエルフィナが着ているTシャツをジッと見つめている。


「ハハハ……Tシャツ何枚持ってきたかな……ハハ……」


 何を言いたいのかが分かった僕は持ってきた予備のシャツの枚数を頭に思い浮かべつつ、苦笑いを浮かべるだけだった。



「旦那は良い主人ですね……」


 たったそれだけのやり取りを見ていたブレッドだが、妙に感慨深げに言った。

 それを見やりながら僕は少し困ったような表情を見せつつ、


「自分の価値観では当然の事をしているだけだからなぁ……」


「お金を持って居てもケチな人は沢山居います。というか殆どだ。だから旦那のような人は中々いない。今日俺らを助けてくれた事にしてもそう。……見て見ぬふりをするか一目散に来た道を走って逃げ返すかのどちらかが当たり前なんですから」


「たまたまだよ。たまたま僕に力があったからってだけだ」


 ブレッドの言葉を受け、手元にあるムラサメブレードを見やる。

 僕にはこいつがあるし、力があるから。

 もしもそうじゃなければ、やっぱり僕もブレッドが口にしたその他大勢と同じ行動をとるかもしれない。


「そうだとしても、ですよ」


 ブレッドが言いたい事は何となく分かった。

 力があっても見て見ぬふりをする人は多いと言いたかったのだろう。

 まあ、その通りかもな。



「ご主人様、選び終えました……」


 そんな風にブレッドと会話をしていたら、どうやら皆選び終わったらしい。

 見れば皆それなりの服を選んだようで少しホッとした。

 それでも申し訳なさそうに僕を見やるが、内心凄く嬉しそうな顔をしているのが分かる。

 エルフィナは言わずもがなだけれど、感情の薄いセラですら尻尾が小刻みに動いて居る。


 女性の嬉しそうな顔はいつ見てもほっこりするものだな……と。


 フェリスちゃんも色々と見て居たようだが、結局は姉のフィオナに選んで貰ったようだ。

 けれどもフェリスちゃんが一番嬉しそうな顔をしているのが印象的だった。

 他の娘と比べて歳が若いからか、遠慮が少ない分そういう感じになるのだろう。


 僕としては彼女くらいで居てくれた方が、色々と助かるんだけれどね。

 変に裏を読まなくても済むのだから。

 エルフィナ?……彼女はまぁ分かりやすすぎるようだから、参考にならないかなと。



 4人分の衣類を合計してもらい、巾着からゴルドを取り出して支払いを済ませる。

 そしてもう7時まで残りわずかという事で急いでお店を出たのだが、


「ご主人様……有難うございました。大切に着させて頂きます」


 またもや申し訳なさそうにエルフィナが僕に。


 因みにブレッドは一旦全員の荷物を預かってくれている。

 本人が「俺が一旦全部もとう。旦那もその方が気に入ってくれると思うし。それに護衛は旦那が問題無くできそうですから」なんて言うものだから、ブレッドって空気を読んで実行する能力に長けているのかな?と少し関心した。なんだかどこぞの田中よりもよほど有能だなと。


 女性達はしごく遠慮していたけれど、僕が「持ってもらうと良いよ?」というと、渋々ながらもそれに従ってくれた。

 魔法が施されているものなら持ち歩く必要はないからいいのだろうが、こういう場合は今後もブレッドに持ってもらおう。


「旦那様、本当にありがとうございます」

「ユウト様、有難うございました……」

「ましたぁ♪」


 皆喜んでくれたようで良かった良かった。

 お金なんて物は使わなければ入って来ないと婆ちゃんが言ってたくらいだから、これからもどんどん買って行こう。


 悪い物を買って早く痛むくらいなら良い物を買って長く持たせる方が断然いいし、【ハイドラ】に着いたら拠点も確保するだろうし、その時は思いっきり散財してしまうのも良いかもしれない。


 ……うん、それがいい、そうしよう。


 そう気持ちを切り替えて帰る宣言をする。


「おっし、じゃあもう時間も時間だから宿屋に戻って夕食を食べよう!」


「「畏まりました」」「「はい」」「あい!ゆうっしょく♪ゆうっしょく♪」


 畏まりましたと言ったのはエルフィナとセラで、はいがブレッドとフィオナ。ゆうっしょく♪ゆうっしょく♪とご機嫌に言ったのは勿論フェリスちゃんだった。

 宿への戻りすがら、嬉しそうにニコニコと微笑むフェリスちゃんに話を振る。


「フェリスちゃんは何が好きかな?」


「んー……おにく!!です!」


 少し考えて元気よく僕に告げる。


「でも……食べた事は殆どない……です……」


 変な敬語でそういうフェリスちゃんだけれど、やはり肉は高価な食材なのだろうか?


「お肉類は滅多に食する機会が無かったのです……付近に山も少なかったですし……魔獣も多かった土地ですから……」


 そう言ってフィオナが寂しそうに説明をする。


「なるほど。じゃあお肉があるといいね」


「うん!あるといいなあ!♪」


「あったら沢山食べるといいよ」


「あい!!♪」


 僕は自然と彼女の笑顔に引っ張られるように、自分も笑顔になって居る事に気が付いた。


 やっぱり一人じゃない方が楽しい。

 3年前に琴音と知り合ってからこの世界に来る直前までの間、僕は一人に成った事なんて殆ど無かったけれど、流石にこの世界では当分一人で過ごさなければならないと覚悟をしていた。

 でも、何と言えばいいか、偶然にも初日から沢山の出会いがあった。


 女性達4人にしてみれば、奴隷として運ばれた事が僕に出会うために必要な悲劇だった……なんて思いたくもないだろうけれど、いつかは……最終的には良かったのだと少しでも思って貰えるように頑張ろう。


 離ればなれになってからまだ1日も経って居ないのに、ちょこちょこ琴音や香那多達の事を思い出すけれど、既に会いたくなってきている自分が居る。どんだけ僕は寂しがり屋なんだと苦笑いをしてしまいそうだ。


 まぁ4カ月後にはまた巫女達と一緒に居られるんだし、4か月なんて直ぐだろう。


 それに……それまでには必ず、綾乃を見つけ出したいな……


 プラカードを持って立っててくれないだろうか……なんてアホな事を思いつつ、もう夕暮れ時になった異世界の見知らぬ小さな街中を歩いた。

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