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第19話。 ナイフを持てない白魔術師。

本日2話目です。

 その後、先にヨロズヤへ行っているエルフィナ達と合流をし、必要な物をとりあえず揃え、生活魔法も12種類全部買う事に。


 だがブレッド曰く、やはりというか助けた4人は思った通り、渡した銀貨を使いづらそうにしていたらしい。


 まあ、いきなりお金を渡して必要な物を買ってよと言っても、遠慮をしてしまうかもしれないなと思っては居たので一応想定内だけれども、やはり今日の今日では性急すぎたかもしれないなと。


 なので本当に必要最低限の物、例えば服であるとか下着類や靴は僕が独断で揃える事に。



 ヨロズヤとは正しく雑貨屋と呼べるもので、狭い店の中に様々な物が所狭しと雑多に置かれていた。

 その中で一番に探そうと思って居たものを探す。


「歯を磨く道具ってどんなのだろう」


 そう小声で口にすると、エルフィナが直ぐに答える。


「ふさ楊枝というもので、繊維が細かい枝を解して使用していますね。材質はあまり決まってはいません」


 やっぱりそうか。

 僕の妻たちの予想通りだった。

 なので当然リュックの中に歯ブラシと歯磨き粉は有る。しかも結構な量が。


「磨き粉は?」

「ありますよ。燐灰石という鉱石を細かく擦り砕いたものを使用していますね。……えっと、ありました、これです」


 そう口にしつつエルフィナは近くにあったワゴンの中から木の枝のようなものと丸い入れ物のようなものを手に取って見せてくれたのだが……

 見ればどう見ても歯ブラシは枝でしか無かった。歯磨き粉もふたを開けてみれば単なる粉だったし。

 まあ説明通りなのだけれども。


「じゃあ歯を磨く道具と磨き粉は買わなくていい。フィオナ達もね。あと体を洗う石鹸も僕が持ってきたから」


「「え?」」


 当然僕がこちらに来た理由を知らないエルフィナとセラはきょとんとした表情を見せる。

 フィオナなんて房楊枝と燐灰石を大事そうに握ったまま固まっている。


「まあ、後で話すよ」

「あ、はい。あ、わたしもお伝えしたい事が……」


 恐らくは自身の出自の話だろう。


「うん、まあ今晩だね」

「はい」


 そう告げると何も詮索をしようと思わなくなったのか、エルフィナは小さく頷いて手に取った房楊枝と磨き粉をそのままワゴンに戻した。そして同じようにフィオナも。

 しかしこれは……やはり思った通り魔法に関係していない文明は遅れているなと。


 そう思えばどうするべきかと考える。それは何時かは持ってきた歯ブラシや歯磨き粉は無くなるから。

 元世界に残した巫女達も持ってくるとは思うけれど、それでもずっと使えるものではないのだから、これは何とかしなければ。


 幸いにも粉の成分は元世界でも使われている燐灰石なのだから、最悪それを使って行けばいいだろう。

 だけど歯ブラシに関しては、房楊枝ではちょっと……奥歯まで綺麗に磨けない気がするのだが。


「簡単な構造だから作れるようなら作ってみるか」


 良い材料が揃ったら、だけれども。

 そう思いつつ必要だと思うタオルなどをボンボンと買い物籠に放り込んでいった。



「あとは……女性用で、櫛や化粧水や化粧品や下着や生理用品かな」


 この3年間で、女性が生活するうえで何が必要なのかは、ある程度解る様にはなった。

 特に僕の巫女は性格が全員バラバラだったし、個性がありまくりの娘たちばかりでもあり、そんな娘達と生活してきたのだから、否が応でも鍛えられる。


 が、どうやら鍛えられ過ぎて少しデリカシーが無くなって居るという弊害もあるようで。


「櫛は……折角ですからもう少し大きな町で。…………あと、その……下着は勿論ですが……生理用品も洋服店で売って居ると……思います……」


 下着を口にする時のフィオナの顔が真っ赤になってしまい、言葉の最後の生理用品のくだりは下を向いてごにょごにょと呟きに変わってしまった。

 僕、どうやらやらかしてしまったようです。ほんとデリカシーなくてすんません……


 でも生理用品が洋服店?……あ!

 そう思った瞬間にピンと来た。

 あっ!というその瞬間を上目でじっと見て居たフィオナは、更に顔を赤くして俯いてしまったが。


 あぁ……なんというか……雪那とノエルのジト目が目に浮かぶようだ。

 更には「だめですよ?悠様」なんて唯奈の戒めが聞こえてもきそうだし……


 でも洋服店という事は生理時に着用する下履きとかなのかもしれない。

 とはいえこの空気を何とかせねば。


「あー……えっと……化粧水や化粧品なんて無いか……じゃあこれだけ買って次は洋服屋へ行こう」

「あ、あとズダ袋でもいいので買って頂けると。……その……少しお高いですが、後々の事も考えれば魔法を施した物の方が良いかとは思いますが……」


 生理用品のくだりで頭から湯気を出してしまったフィオナの代わりにエルフィナが欲しいものを口にした。ただやはり遠慮がちにだが。


「あ、そうだった。ズダ袋を買わなきゃなんだった」


 焦ってしまい買いたい物を忘れるところだった。

 買わなければいつまでたっても大きなリュックサックは剥き出しのままなのに。


「はい。マジックキューブは収納できる種類と個数と重量に制限がありますし、魔法アイテムしか収納できないというデメリットが有りますから」


「そうだね。だから僕のリュックとか中身は入れられなかった。」


 先程まで持って居て、部屋に置いておいたリュックを思い出す。


「じゃあ皆の分もまとめて買っちゃおう」


「ですが金額は最低でも10倍はするのです……」


 おおぅ……割とお高い。大きめの買い物袋サイズのズダ袋が1枚大銅貨2枚程度なのだから、それの10倍ならば銀貨2枚という事になる。

 だがマジックキューブへと収納できるのだから安いもんだ!

 だって手ぶらで移動できるんですよ?こんなに素晴らしい裏技なんて今まであったかよと。


「そんなの気にしないでいい。少し多めに買ってしまおう」


「そうですか……では……」


 そう言いつつ少し嬉しそうだ。

 何気に手荷物が少ないとそれだけ動きやすいのだから、様々な事を加味すれば魔道具のズダ袋があって損なわけがないのは彼女達も十分に分かって居る。


 そうして選んだズダ袋、大き目なものを一人2枚ずつ、中くらいの物を一人2枚ずつ、それからお金とかを入れて置く巾着程度の大きさのものを5個ずつ4人分籠に入れた。

 だが袋とはいえ結構なお値段がする魔道具なので、当然のように遠慮を見せる。


「一人9枚も……要らない気が……」

 エルフィナが最初に横やりを入れて来る。

「ですね……しかもフェリスのも同じだけですし……」


 フィオナもが同調をする。

 そしてセラはこういう時、案外と何も言わない。

 それは自分の役目ではないかのように。ただ、言いたい事はどうやら同じのようでもあるけれど。


「今使わなくても使いたいときに袋が無いでは話にならないから、気にせず買う。それにフェリスちゃんもハイドラに到着する途中にマジックキューブを使用できるようになるし。だからいいね?」

「あう……」


 有無を言わさぬ物言いにエルフィナもフィオナも困った表情をみせる。

 フェリスちゃんはまあ、やはりあまり良くわかってはいないようだが。

 そもそも彼女にはマジックキューブが無く、10歳にならなければ使用できないのだから、荷物は全てフィオナが持つ。


 それらを考えたらズダ袋は沢山あった方がいいに決まっている。


「このように大切に扱って頂いて良いのでしょうか……」


 ぼそりとフィオナが呟くが、


「まぁ旦那の好意に甘えた方が良いと思うぞ」


 ブレッドが何気に僕をフォローしてくれた。ありがとうパンさん。

 第三者からの言葉はそれなりに効果が有ったようで、何となく拒否できにくい空気が出来上がった。

 それをよしよしと思いつつ、手に取ったズダ袋を眺める。


 袋の大きさは一番大きなものだと横70㎝縦1m程度の大きさで、口を紐で縛るタイプだ。

 ズダ袋とは言うけれど、魔道具だからなのだろうか?何となく麻のようでもあり麻のようでもない。

 魔道具ではない頭陀袋の方は、まるっきり麻で造られたような感じなので、似たような新素材に考えて置けばいいかなと。


 それが大で、中サイズは横が50㎝程で縦も50㎝程度。巾着サイズともなれば15センチ四方程度しかないが、入れるものも小さいのだからそれで十分だ。


「僕はリュックの中身を分けて入れなきゃだから……予備も含めて大が5枚の中が5枚の小が10枚……かな」


 そう言いながら折りたたまれて居たズダ袋を手籠に放り込んだ。

 そうすればこんな小さなヨロズヤの事。

 綺麗にワゴンの中にあった袋が無くなった。


 そしてあとは生活魔法だと思いつつちらりとお店のおばちゃんを見やると、先ほどから目を真ん丸にして驚いたままだ。

 大量にあったズダ袋が全て無くなったので驚いているらしい。


 そして驚いたままのおばちゃんの元へ行けば。


「うわあ……多いね……こりゃ計算が……」

「まだありますよ。生活魔法のスクロールを12種類全部下さい」


「ひぃ……大変だ……」

「それで全部です」


「指が足りないよ……まったく」


 後ろの棚からスクロールを引っ張り出して、文句を言いながら計算を始めた。

 指を折りながら数えているあたり、やはりこの世界の教育水準は日本のそれとは違って相当低いようだ。


 因みに買わなかった房楊枝は一つ銅貨1枚で3本セットが買える。

 毎日使っても半月程度はもつらしく、その事を考えれば割とリーズナブルだし、粉は銅貨2枚程度とこれまた安かったのだが、何故か石鹸は1個1万ゴルドとか、バカじゃないの?と思ってしまう。そりゃさぞかし泡立ちもいいのだろう。


 というかまぁ、それだけ貴重な物というだけなのだろうけれど。


 何個持ってきたかな……確か10個入りの箱が1箱しか無かった気が。

 まぁ無くなったら無くなったで1個1万ゴルドの石鹸を買えばいいだけ……だ……な。

 いや、石鹸の作り方ってどうやるんだっけかな。


 先の事を考えて不安になり、必死になって作り方を思い出す。


 たしか、動物性であろうと植物性であろうと苛性ソーダが必要だという事だけは覚えて居る。

 まあ苛性ソーダは重曹があれば出来るだろう。消石灰は貝殻とかがあれば作れるし。重曹が無ければどうするかは……いや、そこまで考えるなら作らずに売っているものを買った方がいいかも。例え1万ゴルドだとしても。


 それに明日香が来れば全て解決する。彼女なら間違いなく詳しい製法を素で知っているだろうし、下手をすれば雪那や唯奈達もしっかりと覚えてこちらにくるような気がする。


 そんな風に僕が一人で石鹸の作り方を必死で思い出して、結局成分比率がそもそも分からず巫女に丸投げしようと心に決めた間も、目の前のおばさんは必死の形相で買い物籠の中身を計算していた。



 結局10分くらいあれやこれやと計算し、頭の使い過ぎでぐったりしたおばさんに提示された金額を支払いお店を出る。


 結構な金額を支払ったのでまたしてもエルフィナ達は恐縮しきりだ。

 買った物を店先で渡すとき、「ありがとうございます」と口にしつつ大切な物でも受け取るかのように両手で仰々しく受け取る様は、なんとも言えない気分になってくる。


 分かるけどなあ。僕も似たようなものだったし。

 そう思いつつ皆に渡し終えると、さっさと次の目的地はどこかと探す。

 すると入り口の横に盾と鎧が描かれている看板を発見。


「お、あった」


 恐らくあれだろう。

 お次の目的地は装備屋だ。

 先程のヨロズヤでも魔法が付与されて居ない装備は一応売ってはいたけれど、僕が欲しい物は魔法防具と魔法武具だ。


「じゃあ次は、ちょっと装備屋へ」

「装備……ですか?」


 怪訝な表情を浮かべるエルフィナ。


「ブレッド以外靴を履いてないようだから、サンダルでも買おうかと思ってね」

「そ、そんなとんでも有りません!」

「今まで殆ど素足でしたし、このままでも……」

「あぅぅぅ……」


「いいからいいから。あと、武器も何か揃えておかないとだし」


 遠慮をしまくる女性陣を後目に防具屋らしき建物の扉を潜った。


「やはり正解」


 そう一人浮かれ気分で店へと入り、片や更におずおずとフィオナ達が後に続く。

 一番最後にブレッドが入ったけれど、やはり冒険者だった彼は落ち着いたものだ。


 そう言えばブレッドも魔法防具が破壊されちゃってたな。……と言う事は今ブレッドが履いて居る靴はタダの革のブーツって事か。

 そう思ってブレッドの足元をみやると……ズタボロだった筈の靴がほゞほゞ新品になっていた。


 あれ?予備を持ってたのか?


「ブレッドって靴を履き替えた?」


 ん?というような表情をみせたブレッドはさも当然のように口をひらく。


「はい、予備のブーツがありましたから、それに履き替えました」

「なるほど、そりゃそうだよね。冒険者だもの」


 丁度魔法防具の話になったので、シャルルが教えてくれた魔法防具に関する説明を少し。……でもないので、詳しくはシャルルノートを。


「もう冒険者は引退しますがね……」


 そう口にしたブレッドは少し寂しそうでもあった。

 でもまあ、自分で決めた事だし仕方がない。


「革のブーツか革のシューズかサンダルはっと……お洒落なのは無いかな?」


 女の子が履くのだからなるべくお洒落な形の方がいいかもしれない。

 ただ、歩きにくいまでになると、意味が無い気もするので、そこそこの形状になるかもしれないなと。


 そんな事を考えながらお店に入ったあと、ぐるっと店内を見渡した。


「いらっしゃい。靴はそこにあるよ。お洒落かどうかは……人それぞれだ」


 僕の声が聞こえたのだろう、お店のおじさんが靴がある場所を指で指し示してくれる。


「あ、どうもです」


 軽い会釈と共にお礼を言って店主に促されて靴が置いてあるコーナーへ。


「お、あったあった」

「あう……」

「靴は高額ですので……私はサンダルで大丈夫です……」

「んまぁ間に合わせだと思って貰えばいいから、サンダルでいいよね。先でちゃんとした靴を買おう」

「あうあう……」


 狙った言葉の斜め上の返事を返され、金魚のように口をパクパクと開閉させるフィオナを他所に履物を物色する。

 とはいえ壁に飾られている靴を見ても、大したものはなさそうだった。

 やはり町の規模が小さいとこんなもんなんだろう。


「じゃあ好きなサンダルを選んで」

「では魔法防具ではないサンダルにしますね?」


 おうっふ……


 好きなと言ってしまったがゆえに起こるすれ違い。

 魔法防具を買いに来たのに装備じゃないサンダルにするとか、そんな事は許しません。耳に力が無かろうと尻尾が垂れ下がろうと関係ない。


「だめです。装備の方のサンダルにしてちょうだい」

「ですが……」

「これも10倍くらいなんだよな?金額」

「はい……恐らくは……」


 そう口にしつつフィオナはブレッドを見やる。

 値段の確認なんだろう。


「ジグラルドとロレイルの物価は、そうだな、魔法装具に関して言えば倍程度ジグラルドの方が高いだろうな」


 ってことはジグラルドで暮らしていたフィオナからすれば、ロレイルの物価は随分安く感じる筈だ。

 だがやはり納得はしないようで。


「それでも……」

「ってことは、このサンダルだと?」


 手近にあったサンダルを持ち上げて聞いてみる。


「それだと銀貨3枚ってところでしょうね」

「やはり高いです……」


 セラも申し訳なさそうにそういうけれど。

 いや、安いんじゃないか?そりゃサンダルとして見れば明らかに高いけど、魔法防具としてみれば安いだろ。


「ずっと履けるんだからそれでいいよ」


「ユウト様は私達に甘すぎます!」


 すると突然フィオナが怒りだした。

 見れば困ったような表情のまま怒っているあたり、激怒しているという訳ではないのだろうが。

 そんな彼女を見やりつつ、諭すように口を開く。


「僕からしてみれば決して甘くはないよ?それは、どうしても以前の生活感覚があるからだけれど、靴なんて1足銀貨5枚くらいの物は普通に履いて居たし、それを何足も持って居た。しかもずっと履いて居れば1年でダメになるから、その都度買い替えなきゃならなかったんだ。こっちの世界の魔法防具とは違ってね」


 貨幣価値が違うから一概には比較は出来ないけれど、そういう生活を送っていたという事は伝えたかった。それに出来れば慣れて欲しいと。


「ぎ、銀貨5枚の靴をたったの1年で履き潰し……」


 ブレッドの顎が落ちそうになった。

 まあそうなるよな。

 ある意味こちらの世界の魔法具の方が、いつまでも使える分恵まれている。


「そうなんですか……でも……」

「でもじゃありませんよ?さぁ買った買った」


 僕が魔法防具のサンダルを選ぶように促すと、大人3人が申し訳なさそうにワゴンに入っているサンダルを手に取ってきた。

 フェリスちゃんは魔法防具だとか言われても分からないので、結局のところ履物なら何でもいいらしく、彼女の分はフィオナが選ぶようだ。やっぱりお姉さんなんだなぁと。


 とはいえサンダル。

 サンダルと一言で言っても、僕が元世界でよく見たぺったんこの草履のようなサンダルなどではなく、この世界の標準的なサンダル形状は男女共に同じで、女性用が男性用より若干ヒールが高く、元世界で言うならばグラディエータータイプだ。グラディエータータイプだから、女性が履くと結構オシャレに見えるだろう。


 そして何気にサンダルの底面は、何やら固いゴムのように若干伸縮する黒っぽい材質だった。確か天然ゴムは無いと聞いていたので、恐らくこれは魔獣からとれた素材か何かだろうと。


 そう言えば奴隷商人が乗っていた方の馬車の車輪にも同じようなものが張り付けられていたような……ファイアー・ストームで纏めて焼いちゃったからあまり覚えてはいないけれど。


 因みにサンダルの値段はブレッドが言った通り1個で銀貨3枚。ということは3万ゴルド。装備ではないサンダルは大銅貨3枚だったから、聞いた通り10倍の差だ。


 装備では無い方だとソールも天然皮のようで、毎日履くと3カ月も持たないらしく、常に履いて行動するのは勿体ない行為らしい。素足の人が多い理由はそういう事情。


 魔法防具は確かに買えばずっと使えるけれど、何気に耐久値を回復するには製作系のギフトと防具に合った属性の魔石――このサンダルの場合無属性の魔石――が必要で、誰でも可能という訳ではないらしい。


 だからというだけでは無いだろうけれど、回復する耐久値分のお金が必要になる。それに、そもそも最初に10倍の金額などとても出せないというのが現実だそうで、ある程度の富裕層か冒険者じゃなければ買わないのが現実なのだとか。


 まあ、耐久値回復は冒険者から見れば安いらしいし、ダメージを負わなければ減ることも無いし、一度買ってしまえばそうそう出費が嵩む事もないだろう。

 それに、一番は防御の面で役立つわけだし。

 サンダル程度でもナイフの一刺し程度は耐久値があるそうだから。


「皆選んだかな」

「はい、といっても数種類しかないので……」


 ですよねー。


「んじゃぁそれをカウンターに並べて置いてくれるかな」


 僕がそう指示をすると、まだおずおずとした感じで三人ともカウンターへサンダルを置いて行く。


「お、4個も魔法防具を買ってくれるのか?今日は良い日だ」


 店主はニコニコとした笑顔を見せながら、買ってくれる数が多い事を喜ぶ。

 4個で多いとか……


「あ、まだ買う物があるので待って下さい」

「いいねぇ……嬉しいじゃないか。こんな田舎だから売れねぇときは何日も売れねぇんだ」


「じゃあ沢山買わないとですね」


「うっひょーーいいねいいねぇ、兄さん最高だねぇ惚れちゃうよ」


「アハハハ……」


 まぁそうだろうなぁ。

 魔法防具なんてものをこんな田舎で買うのは、防具が道中で壊れた冒険者や商隊の護衛くらいじゃないだろうか?


 同じ物で都会と田舎の値段がどれ程違うのかは分からないけれど、命を預ける物だから、予備が無くなったら流石に近くで調達するだろうけれど。

 耐久力を回復できる製作系の職業の人も、1万人規模くらいのそこそこ大きな町へ行かなきゃ居ないと言うし、実際この町には居ないらしい。


 だから売れるには売れるだろうけれど、そう頻繁に売れると言う訳では無いのも頷ける。



「じゃあ次は武器だけど……」


 サンダルの次は武器だが、白魔術師が使うような杖形状の武器はざっと見た限り見当たらず、ナイフやダガーなどの簡単なものしかないようだ。


「エルフィナとセラって武器は何を?」


「あ……はい。皆さんをお守するには魔法武具が必要ですけれど……私は格闘士のスキルしか覚えて居ませんからそれ用の武器があるかどうか……」

「私は僭越ながら短剣を所望します」


 二人ともちゃんと希望を述べてくれた。

 流石に武器に関しては逆の意味で注文を付けてきたように、要らないという選択肢は端から頭に無いのだろう。

 そういう気概でいいんだけれど、それだけ危険が多いという事でもあるんだろうなと。


「わかった。良い物があったら武器ランク関係無く買うよ」


 そう言っては見たものの……

 やはりこのお店には大した武器は置いて居ないようだ。

 けれど丸腰では護身にしても討伐にしても話に成らないのでとりあえずとして買っておこう。


 そう告げるとエルフィナとセラは嬉々として武器を穴が開くほど品定めを始めた。

 だが、フィオナは武器にさしたる興味もないのだろうか?店内を軽く一瞥したかと思うとあっさりと興味を無くしたようだ。やはりスタッフ系は無かったのだろう。



 程なくして選んだ武器をカウンターに並べてもらう。


 エルフィナは戦闘職業が【格闘士】だそうだから、ナックル系の<ナックルダスター>という武器を持って来た。グレードはまあ、ノーマル。

 でもこれでエルフィナは決まったな。

 そしてセラは短剣をニコニコ笑顔で2本持ってきた。という事は二刀なのかもしれない。戦闘職業は何なのだろうか?


 しかしここでふとマジックキューブに入っている、ハップンが持って居た武器を思い出す。もしかすると奴隷商の持ち物だったから嫌かもしれないけれど。


「セラ?もしよかったら僕がさっき手に入れた短剣を使う?」


 嫌がるかな?

 と思ったのだけれど、全くそんな素振りも無く。


「え?よ、宜しいのですか?旦那様はお使いになられないのですか?」


 驚きつつそう聞いてくるが。

 なので左手の<ムラサメブレード>を少し掲げつつ。


「僕はこの通り持っているからさ。嫌じゃなければ使いなよ」


「嫌だなんてとんでも有りません、武器は武器です。誰が使って居たかなど全く問題ではありませんから」


 なんともまぁ合理的な思考だこと。

 僕だったらたとえばオークとかが持っていた棍棒なんて使いたくもないだろうが、それでもセラが良いというならば。


「じゃあ決まりだ」


 そう告げると嬉しそうな顔を見せつつ短剣を棚に戻す。それを横目で見やるエルフィナが何気に寂しそうだったけれど。仕方がないじゃないか、ハップンが持ってなかったのが悪いんだ。


 とはいえこれでセラも決まった。

 そう思いながらフィオナを見やるのだけれど、彼女は案の定目当ての武器は無かったらしい。


「フィオナは欲しい武器が無かった?」

「はい……杖があればよかったのですが……白魔術師ギルドに入ったままですと魔法が施された刃物を持てないのです……私はギルドに入ったままですし……」


 まじで?持つことすらできない?

 驚きつつフィオナを見やるが、申し訳なさそうな表情を見ればどうやら本当の事らしい。


「他の戦闘職ならば持つことくらいは可能なのですけれど、クレリック系だけは不可能なのです」


 へぇ……なんていうか面白い制限だな。

 聖職者が刃物を持って人を傷つけるべからず的な理ことわりなのだろうか?

 でもじゃあ料理をする時包丁とかどうやって持つんだろう?持てるのか??


「今、料理をするとき、包丁はどうやって使うんだろうと思われました?」


 僕の心を見透かしたかのようにフィオナがそう口にした。


「ギクッ!なんでバレタ?」

「くすくすっ……よく聞かれる事ですし。先ほど魔法を施された刃物は、と申した通り、そうではない刃物でしたら何ら問題無く手に持てます。包丁に魔法を施す人なんて殆ど居ませんし、魔法武具で<ほうちょう>という物も存在するそうですが、それを使って料理をする人こそ、どこを探しても居ませんし」


「そりゃそうだよね、うん」


 当たり前だろうな。

 料理をするために何かを切っても武器の耐久値は減っていくわけだし。

 そんな勿体ない事なんてしないだろう。


「じゃぁ……フィオナの武器は大きな町で手に入れよう」


「お願いいたします。ですがフェリス用に護身用ナイフを宜しいですか?」


「あ、いいよ」

「ではそのナイフは私が見繕いますね」

「お願いしますセラさん」

「しますー!」


 フィオナとフェリスちゃんの返事を聞き、セラがフェリスちゃん用の護身用ナイフを見繕いだす。

 そして5本程のナイフをテーブルに並べてにらめっこをする事数分。


「これが一番良いでしょう」

 セラが満面の笑みでフェリスちゃんにナイフを渡す。

「ありがとうセラお姉ちゃん♪」


 僕はまだスクロールを買っただけで使えないけれど、生活魔法の<ステータス>は自身のステータスを把握できる。

 だがそれだけではなく、魔道具に対して使用をする事も出来、それは限定的な<目利>とも言えるものらしい。


 ゆえにそれによってグレードやATKが分かるわけだが、同じものでもATKに差が多少なりともあったりするのだから、こうやって見比べるのは当たり前なのだとか。

  とはいえまあ、元が最低ランクのナイフなのだから、差なんて微々たるものなのだが、それでも良いものを選ぶ事は間違いじゃない。


 そして結局買った魔法武器はエルフィナ用の<ナックルダスター>とフェリスちゃん用の<ナイフ>だけだった。

 言えば魔法防具も買いたかったけれど、良いものが無いのと時間が押し迫っている為にまた後日別の町でという事に。




 因みにナックルダスターとナイフのステータスをペタリ。


【名称:ナックル・ダスター】

【分類:拳】

【グレード:ノーマル級】

【属性:無属性】

【ATK:18】

【耐久値:250/250】

【特殊効果:無し】

【備考:特になし。小型で持ち運びが容易い為、暗器としても利用可能】



【名称:ナイフ】

【分類:短剣】

【グレード:ノーマル級】

【属性:無属性】

【ATK:5】

【耐久値:50/50】

【特殊効果:クリティカル率10%上昇】

【備考:ナツフではない】


 <ナックル・ダスター>の形状は、分かりやすく言えばカイザー・ナックルだとかメリケンサックと言えば分かりやすいかも知れない。要するに4個の鉄製リングが繋がって居て、親指以外の4本の指にはめて、対象物を殴り倒すのが目的という武器だが……


 まぁ、とりたてて全く何もない武器だ。ノーマルの中でも更に最低グレードらしいから、仕方がないと言えば仕方がない。


 これは少し大きな町へ行ったら別の武器に即変えてあげよう。

 エルフィナさんの笑顔を見るためにも。


 因みにナイフに至っては語る必要もない。

 クリティカル率10%が気になった程度だ。

 っていうかナツフってなんだよナツフって。

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